褐色の美女
「よし、これで最後だ。あと少しだけ押さえといてくれ」
「はいっ」
謎の褐色美女の助けもあり、なんとかアトラの傷を治療することができた。
「は~なんとか終わったぁ。ホント助かった、ありがとな」
「キューロさん、お疲れ様です。
私としてはアトラ嬢を救うためなら、これくらいは当然です。むしろできることが少なくて申し訳ないくらいでした」
そう謙遜する褐色美女ではあるが、正直、俺一人では暴れる師匠の治療はできなかった。本当に助かったし感謝しかない。
とは言え、
「ところで、ちょっと聞きたいんだが?」
「はい?ええ、なんでしょうか?」
俺はまだ顔色の悪い師匠に毛皮を被せ、血液の復元を試しながら褐色の美女に話しかけた。
「いや、世話になったし名前を聞いておきたくて、あ、あと紹介が遅れてすまない、俺の名前はキューロだ、よろしくな。まぁもう知ってるみたいだけど」
これは礼儀として普通の会話だろう。だが相手にとっては違うらしい。
「あ、いえ…ご丁寧に、どうも。………その私の名前は…えーっと」
褐色の女はあたふたと慌て、少しだけ悩んだ後、
「わ、私の名前はナスタ…リア、そうです!ナスタリアです!」
そう答えた。
うん、あからさまに怪しい。
「そうか改めて感謝する、ナスタリア。で、何で俺と師匠の名前知ってるんだ?」
「……それは…」
流石に俺も簡単に信用するほどアホじゃない。今のところこの世界の美女でマトモな奴を見てないから。
それに、まだグリナスタと合流できていない。
師匠はこの女性を知らないと言っていた。
で、あればこの女性、ナスタリアが俺の名前を知ることができるのはグリナスタと接触したからに他ならないのだ。
まぁ色々と助けてもらったし、恩人と言っても過言ではない、悪い人じゃないと思うが、話を聞くまでは油断はダメだろう。
「…………」
ナスタリアは俯き固まっている。
仕方ないので俺から再度話を振る。
「別に問い詰めたい訳じゃないんだ。俺たちにはもう一人ガチムチの仲間がいるんだが、そいつと会わなかったか?」
質問を変えて聞いてみた。
ナスタリアはハッっと顔を上げる。
その反応だけでも心当たりがありそうなものだが、自ら話してくれるまで静かに待った。
「その…知っています。男の方で、私と同じ肌の色をした体格が良い人…ですよね?あなた方二人のことはその人から聞きました」
なんか変な言い回しに聞こえるが、どうやらグリナスタとナスタリアは接触したらしい。
「ああ、間違いない筈だ。彼はなんて?今どこに?」
「その…彼は暗部の副隊長ベザルとの戦闘で…」
おいおい、まさか…
「死にました」
□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□
グリナスタが死んだ。
俄には信じられなかった。
いや、あの師匠がメア以外の相手と戦ってあの有り様だ。グリナスタが戦った相手も相当強い相手だったに違いないのだ。
だとしても、数時間前まで普通に会話していた奴が死んでしまったという現実は受け入れがたかった。
死んだことに関しては勿論悲しい。色々と思うところはあったが、最終的には心も入れ替え仲間になってくれたし、この世界で2番目に俺の名前を呼んでくれた奴なのだ。
短い付き合いだったとはいえ、グリナスタのキャラの濃さは俺の記憶から消えることはないだろう。
だが、今はゆっくりと悲しんでもいられない。
暫し俯き思案した俺は、再度視線をナスタリアへと戻す。
「それで…あんたとグリナスタはどういった関係だ?死ぬ前にグリナスタとはどんな会話を?」
確信に迫る内容を尋ねる。
尋ねられたナスタリアは決心したような面持ちで口を開いた。
「じ、実は私はグリナスタの従兄弟で、暗部に所属していました。ここっ今回私は、その…副隊長のつ、付き添いでここに来たんですますが、そ、それでグリナスタが殺されそうになるのを見て、目撃してしまって!」
何か初めての面接みたいな感じになってるが大丈夫だろうか。
「あ、暗部をうらり…裏切ってグリナスタの加勢に…」
ふむ、筋は通ってはいる。が…
そんなピンポイントに従兄弟と戦場で出会うとかあり得るのか?それに暗部って…確か工作員、スパイとかだよな?そんな国の機密を扱う連中が簡単に国を裏切るのだろうか?映画とかだとスパイの忠誠心はそんなに軽いものじゃなかったような気がするが…
「従兄弟と戦場で会うなんて災難だったな。凄い確率だ。それに暗部なのにそんな簡単に国を裏切って大丈夫なのか?家族が巻き込まれたりとか、結構問題がありそうだが?」
「それは…………………」
ナスタリアは少しだけ時間をおいて答えた。
「私には家族と呼べる人はもういません。それにハグレ部隊の人間は暗部と言っても所詮国からしたら使い捨ての駒ですから。あとグリナスタは苦楽を共にした中です。一緒にあの都市へ来て、私だけ第五研究所室長からの推薦を受け暗部に入ったまでです」
先程までのオドオドした感じは鳴りを潜め、昏い目をしながら何でもないように淡々と答えるナスタリア。
俺は直感した。
これは現場を知ってる人間の反応だ。社会に絶望した人間の目だと気付いてしまった。
職業奴隷時代を思いだし拳を握る。
自身の黒歴史を思い出し沸々としてきた。
王国…許すまじ。
「二人掛りでベザルを追い込み、なんとか殺すことはできましたが…グリナスタは最後致命傷を負ってしまい」
あ、話し続いてたのね。うんうん。
「グリナスタから光の神の化身キューロさんと仲間のアトラ嬢を頼むと…」
ぐっ、死んでまでそれを貫くのかあのガチムチ狂信者野郎。
「あ、ああ大体分かった。もう充分だ。苦楽を共にした従兄弟ならそれなりに思うところもあるだろ、色々と質問して悪かった」
「いえ…」
キューロはまんまと騙された。
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ナスタリアから話を聞いた後、俺たち二人は吹き飛んだ拠点にあった家財や道具、私物を回収した。
別にナスタリアは関係無いため手伝わなくても良かったのだが、フリスビーを持って帰ってくる犬のごとく、猛スピードで荷物をかき集めてきた。
助かるのだが、更に迷惑をかけてしまい俺としてはどんなお礼をすればいいのかとても悩む。
ナスタリアが荷物をかき集めてる間、俺は吹き飛んだ丸太を集め、再加工して小さいログハウスを作った。
還された
急ぎ師匠を室内に入れ、回収してきた布団を
ナスタリアが森で取ってきた食材で簡単な料理を作ってくれた。なんだろうどこか覚えのある味だ。
俺は寝ている師匠にスープを飲ませ看病に徹した。
ってかこの褐色美女、生活スキルと言うか主婦力が半端ないんだが…師匠も見習った方がいいと思う。
まだ師匠が心配だった為、何かあったとき直ぐに対応きるようベッドの横で看病を続けていたのだが、流石に疲れていたらしくいつの間にか寝てしまっていた。
明け方に目が覚め慌て師匠の様子を確認する。どうやら熱は下がったようだ呑気にむにゃむにゃしながら熟睡しているようだ。
もう看病しなくても大丈夫だろう。
「ふぅ…師匠なんだからもっと弟子を安心させてほしい」
そう溢しながら額にデコピンしてやった。
裏拳が飛んできて尻を殴られた。
いてーよ、この人実は起きてない?
周囲を見回す。
ナスタリアの姿が見当たらない。
「あれ?ナスタリア?」
ログハウスのドアを開けて外を確認する。
ドアに挟まれていたのか小さい紙が足元に落ちていた。
?
その紙には
『探さないで下さい。ナスタリア』
そう一言書いてあった。
別に仲間になったわけじゃないのだから好きにしてもらってもいいのだが、こっちはまだお礼をしていない。
またどこかで会えるだろうか?
「ってか会ってすぐの奴にこんな書き置きするか普通?家出かよ」
最後まで謎なナスタリアであった。
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