第四話 大戦前夜①

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「名前と国籍。ここに来た目的。あと、お前の魔法のカラクリ。全部答えたら日本の受刑者待遇を検討するが?」


学院の中庭。そこには、異様な光景が広がっていた。金髪をなびかせる長身の女が片手で掴みあげているのは、黒いコートを纏った背の低い少女の首だ。抵抗する気がないのか、あるいは抵抗した後か、少女の体から力は抜けている。口元には血が流れた跡が残り、目は虚ろだ。


「ごっ…。ここまで、ぢからの差がっ…ある、とはな。5人で…、1人の相手がっ…、3分も、務まらないなんて…あっ…ぐっ…!!」


鷹司凜華は容赦なく首を掴んでいる手の力を強めた。凜華の周りには、彼女が今まさに掴んでいる少女と、着ている服・顔・体、すべてがまったく同じ容姿の少女が4人、地面に力なく横たわってた。ここが日本魔術特区であること。そして彼女が国立魔術学院学院長かつ日本で唯一のS等級魔法使いであることを頭に入れていなければ、どちらが、どちらがのかわからない。瓦礫の陰から、おなじみのメイド姿でマヤが現れた。


「学院長。彼女は捕まえて、情報を抜き取るのが最善かと」

「わかってる。今調した。直に意識が飛ぶ。ユーゴは?」

「はい。ユーゴさんは現在特鉄西が丘線、幻獣動物園前駅~坂下門駅間にて正体不明の2人と接触中。車内にて異常事態発生中でユーゴさんとその2人以外は意識不明とのこと」

「グダグダだな。私がそこまで飛んだら、何分で着く?」

「ここからですと、5分は…学院長!」


凜華が掴んでいる少女の体が、にわかに光輝き始めた。他の倒れている体も同様に光を発している。死に際で、体を発光させる。月並みだが、嫌な予感が凜華とマヤの頭をよぎる。


「正解だ…タカツカサリンカ。これ、でっ、お前が死ぬとは、思っていない。周りに人間もいない、みたいだな。これはだっ、単なるお前への、…嫌がらせだ」


2人は顔色一つ変えずに少女の最後の言葉を聞いてた。凜華が首からその手を離すと、少女の体はより一層輝きを増し…。






「お見事です学院長。あの魔力量の暴発。かなりの威力だったのではないですか?」

「かもな。爆発前する前に、包んで押し潰した。それより…」


凜華はとんっと軽くジャンプし、地上から一気に学院の屋上に降り立った。マヤも特に驚いた様子はない。


「方角は、こっちだよな」

「行かれるのですか?」

「いや、流石に遠いな。…仕方がない」


ごぅ!!という音とともに、彼女の周りを見えない何かが覆う。その影響か、学院の窓ガラスがカタカタと音を鳴らし、木々は揺れている。マヤはこれから何が起こるのかを知っているらしく、手で顔に吹き付ける風を遮りながら叫んだ。


「ユーゴさんが居ますが!?」

「大丈夫。でやる」


凜華が行ったことは、非常に単純だった。右手で握りこぶしをつくり、人差し指と中指だけを立てた。その状態のまま右手をゆっくりと頭の左側まで動かし…。


先ほどよりも速く、だがそれでも緩やかに、水平方向に腕を動かした。


音速飛翔体コンコルド




謎の2人がユーゴの前から姿を消したとの連絡を受けたのは、それから数分後のことだった。

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