第三話 邂逅③

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日本魔術特区内。とある建物の屋上。黒いコートに身を包み、フードを深く被った2人組が、遠くで優雅に飛ぶ青と緑の鱗が美しいドラゴンを眺めていた。


「ご覧リラ。日本魔法生命体研究の最高傑作と呼ばれるだけのことはある。本当に美しいドラゴンだ。そうは思わないかね」


背の高い男がもう一人の小さな人物に語りかけた。


「口を開くな。匂いが不快だ」

「いや、さすがにそこまで匂いは届かないと思うがね…」


リラと呼ばれた女性は、男にそう乱暴に言い放った。彼女は男の三分の一ほどの身長しかない。男女ともに、顔はフードに隠れて良く見えない。男はコートをぴっちりと着こなしているようだが、大して小さい女のコートはぶかぶかで、まるでレインコートだ。見ているこちらが不安を感じてしまうほどのアンバランス感。近寄り難い、異様な雰囲気を醸し出す2人であった。


「よし。そろそろ始めようか。構わないね、リラ」

「私はただの護衛だ。確認を取る必要はない。それと、次からは筆談で頼む。貴様の口から出ているドブネズミの匂いのせいで、昼は何も食べれそうにない」

「ドブネズミ?ドブじゃなくて、ドブネズミ?違いを教えてくれないかい、リラ」

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「えっと、お父さんかお母さんは?」


銀髪の少女はエサのニンジンを持ったまま首を横に振る。


「迷子…だよね?一緒に迷子センター行くか?」


少女は再び首を横に振った。


「ここで待ってるように言われたの?」


少女は三度首を横に振った。ユーゴはどうしたものかと頭を抱えていると、その少女は先ほどと同じように手に持っていたニンジンをウサギに近づけていた。ゆっくりとニンジンをウサギの口に近づける。が、またも直前で逃げられてしまった。これで何度目だろうか。


「なかなか食べてくれないな。そのニンジンが悪いんじゃねぇの?交換してもらってこようか?」


ユーゴは少女を迷子センターに連れていくことは一旦置いといて、少女と向き合うことにした。ユーゴの言葉にはまたまた首を横に振る少女だったが、ここで初めて口を開いた。


「私のせいなの」

「…?どういう事?ニンジンを食べてくれないのがってこと?」


少女はこっくりと頷いた。ユーゴは少女の傍に座り、話に耳を傾ける。


「私まだ、扱いが下手だから…。手がずっと冷たいの。だからウサギさん、私の手が近づいたら、冷たくてびっくりしちゃうの。だから…」

「手が冷たいから、ウサギに餌をあげられないってことか?」


そんなことあるのか?と内心思いつつも、ユーゴは両手で少女の手を包むように掴んだ。


「うお、ホントに冷たいな。でもな、手の冷たい人ってのは心があったかいって言うぞ?あ、手があったかい人は心が冷たいわけじゃないからな(笑)」


ユーゴは少女の小さな手を優しく握った。少女は最初こそびっくりした表情を見せたが、恥ずかしくなったのか顔を赤らめてうつむいたままだ。


「そら、あったまってきたぞ。これなら大丈夫だろ。そこのウサギで試してみようぜ」


少女はまだ手に持っていたニンジンを、恐る恐るウサギに近づける。後ろからユーゴに支えられた少女の手にあったニンジンに、そのウサギはぱくっと食いつき、そのまま食べつくした。


「…やった!食べた!食べてくれた!」


少女はユーゴの方に振り返り、これ以上ないほど満面の笑みを見せた。その純粋な笑顔に、つられて笑ってしまうユーゴである。ユーゴにあたためてもらいながらではあるが、少女はすべてのニンジンを与えることが出来た。


「全部食べて貰えてよかったな。よし、じゃあそろそろ迷子センターに…」

「お兄ちゃん、次あれやりたい!」


ユーゴの言葉を遮って、少女はふれ合いコーナーの隣にある建物を指さした。先ほどまで落ち込んでいた少女と同じ人物とは思えない。ユーゴの手を掴み、今にも引きずっていきそうな勢いだ。


「ちょっと待って!そこ行く前に、迷子センター行った方がいいよ。絶対心配してるって!」

「大丈夫。今日は一日、この動物園にいるように言われてるから。それと私氷織ひおり


ユーゴが止めるのも聞かず、少女、氷織は指さした建物に向けて駆け出していた。


「え、何だって?あ、コラ待てって!」

「氷織。私の名前。お兄ちゃんの名前は?」

「あ、ああ。佐藤ユーゴ」

「佐藤、ユーゴ。ちゃんと覚えた。急いで、ユーゴお兄ちゃん」


氷織の勢いにのまれてしまったユーゴは、仕方なく後を追う。スマホを確認するが、サキから連絡は来ていない。振り返ると、大輝は変わらず口を大きく開けて爆睡していた。ちょっと離れるくらいなら大丈夫かと考えていたが、いつの間にか氷織は、建物の前に移動し、そこで大きく手を振っていた。


「お兄ちゃん、早く」

「わかったわかった!でも俺今人と待ち合わせしてるんだよ。それが終わったら、迷子センターに連れて行くからな!」


ユーゴの言ったことを聞いていたのか、氷織は変わらず笑顔で手を振り続けていた。短い時間ならいいだろうという考えに落ち着き、ユーゴもヘイズルーン(はちみつドリンクを生み出す羊)の乳しぼり体験施設へと向かった。




「なんだよアレ…」

「落ちてきてないか!?」

「上だ!!!!危ねぇぇぇぇぇ!!!!」


その大声は、周りの人を少しびっくりさせた程度で、迫りくる危険を伝えることは出来なかった。否。伝えることが出来たとしても、どうしようもなかった。直後、空が暗くなる。え、と言う間もなく、空から大きな物体がユーゴの目の前に落ちてきた。ユーゴを含め、その周りに居た人たちはその衝撃で全員倒れてしまった。砂埃が舞い上がり、いったい何が落ちてきたのか、何が起こったのか、まったく把握できない。


あまりに突然のことに驚きを隠せないユーゴだったが、落ち着きを取り戻すより早く、自分がするべきことに気が付いた。謎の物体はユーゴのちょうど目の前に落ちた。そして、ユーゴの前には誰が居た?


「氷織ちゃん!!!」


全身に冷気が流れるような感覚だった。ユーゴはばねのように飛び起き、その物体の元へ駆け出した。

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