第三話 邂逅②
「初めまして。私は不動大輝と申します。年は15。国立魔術学院高等部の1年生です。趣味は読書と魔法の研究。休日はカフェ巡りをしております。ははっ。今日はいい天気ですね。…ええ、私もとても楽しみです。では行きましょうか。実は、チケットはもう用意しているんです。どうぞ。…いやいや、気が利くなんてそんな。偶然ですよ。どこから回りましょうか。…いいですね。私も好きです。ではそこから…」
「おいおいおいおい。もういい、もういいって」
ユーゴと大輝は2人で幻獣動物園に向かう電車に乗っていた。時刻は1時。そして本日は平日だ。講義は午前中で終わりである。やはり平日は人が少ないようで、電車に乗っている人はまばらだ。
「挨拶の練習するだけならまだしも、会話のシミュレーションは流石にヤバいって」
「気を悪くしないでくれ佐藤君。今日というチャンスを与えてくれた佐藤君に対する感謝と決意の気持ちの表れでもあるんだ。この一世一代のチャンスを無駄にしない強い意志を、僕から感じるだろう?」
「感じる。感じるからその喋り方もヤメロ」
結論から言うと、サキは行くことを了承してくれた。因みにサキは幻獣動物園には何度も足を運んでいるそうだ。同世代の人と行くのは初めてだとも言っていた。それらをまとめて大輝に伝えた日から、この調子である。
「智弘が来れないのが残念だよな。こういうの好きそうだよね」
「好きだよ確か。でもアイツ、今日も寺尾台教授のとこ行くんだってよ。ほぼ毎日研究室行ってんだから、たまにはこっちに顔出せって感じだよな」
「まぁ教授と何か約束してたのかもしれないし、仕方ないか。お、次の駅だな」
「あ、俺のスマホか」
「前も思ったけど、ユーゴのスマホめちゃくちゃ古いよな。最新のゲームとかできないだろそれじゃ」
「そうかもだけど、不便に思ったことないしいいんだよコレで。それより大輝、ちょっと残念なお知らせ。一条さんちょっと遅れるって。先に入ってて、だってよ」
「……佐藤君。今の君のセリフで気になった点が2つあります。よろしいですか?」
「え…、イヤ、うん。どうぞ…」
「まず一つ。君が一条さんのことを名前で呼んでいるのは知っているんです。なのに、わざわざ君は”一条さん”と言った。これはアレですか?周りに関係がバレないように普段はわざとよそよそしくしてる的な、そういうアレですか?」
「いや、ただ何となく恥ずかしかっただけで…」
「もう一つ。…何当たり前のよウニイチジョウサンノレンラクサキシッテンダヨ!」
「そこ!?そりゃ知ってるでしょうよ。そもそもメールして誘ったんだから」
「はい出た出ました。”別にこんなの当たり前じゃね?”の顔!お前、お前さぁ…、一条さんの連絡先なんかっ、グスッ、世界ぢゅうのおどごが、じりだがっでるぢょうほうだよ…(泣)」
泣いたり怒ったりの演説は、電車を降りて動物園に着くまで続いた。最終的に、今日の目標は、一条さんに連絡先を聞くこと、ということで納得したようである。今日も事あるごとにこんな感じなのかなぁと思い、少し気が滅入るユーゴであった。
幻獣動物園。その名前の通り、現実には存在しない動物たちを飼育・公開している動物園である。かつて幻獣(正式には人工魔法生命体と呼ぶ)を生み出す研究は世界中で盛んに行われていた。ドラゴンやペガサスといった有名どころはもちろん、3つの頭を持つ冥界の番犬、ケルベロスや巨大オオカミ、フェンリル。半永久的に生きるとされるフェニックスまで、多種多様な動物が魔法使いの手によって生み出されてきた。現在IMOに加盟しているすべての国はロスアラモス協定に加盟しており、人工魔法生物を新たに生み出すことは禁止となっている。しかしこの協定は、飼育・繁殖を禁止しておらず、各国は長年の研究によって生み出された幻獣たちを大切に飼育しているのだ。
「おお~。ついに来たー!!」
パッと見は普通の動物園と変わりないが、飼育されている動物がこの世のものではない。最初に目に飛び込んできたのは赤と青が混ざり合う幻想的な色の翼をもった鳥、フェニックスである。
「えーっと…”生命エネルギーを永遠に出し続けることは理論上不可能であり、悠久の時を生きる生物の創造は不可能と考えられていた。エネルギーを生み出した際副次的に発生する物質がそのまま次のエネルギーを生み出す材料になり、それを小規模かつ超長周期で行う技術が生み出された。恒星が行っている核融合反応からヒントを得たとされている。このフェニックスは理論上、約24000年生きる”だってよ。そのころは人類も絶滅してるだろって感じだよな」
「不死じゃねぇじゃん、っていうツッコミ待ちかよ。しかもその鳥、生命力そのものは超弱いから、餌とかものすごく気を使ってるんだと。もし人類絶滅したら、この鳥もすぐに後追ってくるぞw」
「そう、なのか。…良く知ってんなー」
人だかりの出来ている場所をのぞいてみると、奥にいたのは鷹の上半身と馬の下半身を持つ生物、ヒッポグリフである。
「カッケー!!”本土英国を舞台にした有名小説にも登場する。誇り高い動物であるが、気性は荒くない。飼育員とじゃれて遊ぶこともあり、背中に乗せて飛んでくれることもあるが、飛んでもらう前に乗馬訓練を行うことを強く推奨する。振り落とされて全治2か月の飼育員Yより”だってよ。でも、一回飛んでみたいよな~」
「飛ぶのがそもそも苦手なんだよこいつは。もともとグリフォンを創りたかったんだけど、なぜかヒッポグリフが生まれた話は有名だよなww」
「へ、へー…」
地面を細長い影が移動していることに気づいた。上を見るとなんとドラゴンが優雅に飛んでいる。
「全っ然気が付かなかった!パンフレットに載ってるからどこにいるんだろうとは思ってたけど。”青と緑の鱗が美しい雌のドラゴン。名前はシェリー。ドラゴンは渡り鳥やイルカ同様、半球睡眠(脳の半分が眠り、残り半分が覚醒している睡眠)を行う動物である。そのため、降りることなく飛び続けられる。3年前、鱗が少し赤くなり繁殖期であることは確認され、米国より雄のドラゴンを借り、繁殖を促したが、失敗に終わった。現在ドラゴンの繁殖に成功したのは英国だけである。彼氏募集中”か。そっかー。相性みたいなのもあるんだろうな」
「超気性が荒くて有名だぜ。見た目が綺麗でも正確に難があるんじゃ一生独り身だわなwww」
「なんなんださっきからお前は!」
なぜかネガティブな雑学ばかり披露してくる大輝。サキが遅れてくることが相当ショックだったのか、負のオーラを垂れ流し続けている。
「いや色々教えてくれるのは嬉しいけどさ、もっとこう…あるだろ!聞いてて愉快になれる雑学教えてよ!てか大輝、めちゃくちゃ詳しいのな!?」
「いや、一条さんといろいろ話そうと思って勉強してきたから」
「健気!」
またまた友人の新たな一面を見たユーゴが次に向かったのは、ふれ合いコーナーと書かれてる場所だった。やはり小さい子供が多い。小さな柵の中に放し飼いされているのは、一見するとただのウサギだ。
「
「確かに見た目は普通だ…?うお。集まってきた集まってきた。やっぱかわいいなぁ」
餌を購入し、柵内に入るユーゴ。手に持っているにんじんめがけて、早速4~5匹のウサギが集まってきた。ちなみに大輝は近くのベンチに座っている。小さいころから何度も来ているため、見てるだけでいいとのことだ。仕方がないのでユーゴは1人でウサギたちと戯れていた。
購入した餌が底をつき、ウサギたちがそっけなくなってきた頃、ユーゴは少し離れた場所にちょこんと座っている少女が目に留まった。彼女は両手で餌のにんじんを持ち、ゆっくりとウサギの口に近づける。するとどうしたことか。ウサギはにんじんに食いつこうとしたその瞬間、嫌いなものの匂いを嗅いだかのように、ぷいっとそっぽを向いてしまうのだ。ユーゴはしばらくその様子を観察していたが、まったく同じ流れで10匹以上のウサギが彼女から遠ざかってしまった。動物に好かれないタイプなんだな~と思いながら眺めていたユーゴだったが、ウサギが1匹、また1匹と逃げていくたびに、目に涙を潤ませてく少女を無視することが出来ず、とうとう目が合ってしまった。銀色のショートヘアが良く似合う小学生くらいの少女は、目が合ったとたん、とうとう大粒の涙をぽろりぽろりとこぼしてしまった。ユーゴは少女の周りを見渡すが、親や兄弟・友達らしき人は見当たらない。ベンチに座っている大輝は、昨日遅くまで勉強していたのか、口を大きく開けて爆睡していた。これはもう仕方がないと割り切り、ユーゴは立ち上がってその少女の元に向かった。
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