第4話 初めての異世界後編

《勇者視点》


 目が覚めると日の光が差し込んでいた。 


「夕日じゃないよなぁ」


 朝日を受けながら俺は体を起こす。 頭の中がかき回されたようになって気持ち悪い。 

 ベッドの横にもたれ掛かりながら愛華が眠っていた。 俺が気を失っていた間の介護をしてくれていたのだろうと思い頭を優しくなでる。

 頭を撫で始めると嬉しそうにしていた。 ひとしきり愛華の頭をなでた後、ベッドから降りて日が差し込む窓まで歩く。

 窓からは庭園が見え、メイド服を着た人たちが庭園の手入れをしていた。

 ボケッと庭園を眺めているとコンコンと扉をノックする音が聞こえる。


「入りますぞ」


 そう言って入ってきたのは昨日ノアールと名乗った人だった。 ノアールは杖を突きながら俺の目の前まで歩いてきた。

 

「ふむ、後遺症の問題はなさそうですね」

「後遺症?」

「えぇ、思いのほか術の反動が大きかったので大変でした。 アイカ様なんて目が覚ますまでここを離れないとおっしゃっていましたよ」


 そう言われて頬が赤くなる。 嬉しくもあり、恥ずかしくもある。

 

「どのくらい時間がたってます?」

「そうですね、あなたたちの時間から大体十時間ほど時間がたっています」


 近くにあった椅子を自分のもとに引きながらそう言った。

 ノアールは椅子に座り話し始めた。


「これからあなた方二人には一月の間、魔王軍と戦うためにみっちりと訓練させていただきます。 今のあなた達は魔術すら使えないと聞いていますのでね」

「ありがとうございます」


 俺も椅子を持ってきてそれに座る。 実際に俺と愛華は魔力の扱い方を知らない。

 魔力があることすら知らないから魔術に関する知識は全くないのでありがたい話ではある。

 それから今後のことについて話してから、朝食をいただくことになったため話の間眠っていた愛華を起こして食堂に向かった。



 朝食をいただいた後、王城に併設されている修練場に連れてこられた。


「ここが我々の兵たちの修練場でございます」


 そう言われて修練場を見渡す。 今は模擬戦をしているようでアレクストス王子と似た顔立ちの金髪の女騎士と蒼い鎧を着ている騎士が戦っていた。 お互いに刃のついていない剣で戦っているようでガンガンと固いものをぶつける音が聞こえる。


「すごい熱気ですね」

「えぇ、我々は魔王軍との戦いで数多くの同胞を失ってしまいました。 我々は、失った同胞のためにも勝たなければならないのです。 そのために我々は訓練にもこれほどまでの熱意でやっているのです」


 俺はへぇ~と呟く。 そしてもう一度修練場のほうを見ると女騎士が蒼い騎士が振るった剣にうまく合わせて弾き飛ばしていた。

 弾き飛ばされた剣は宙を舞い蒼い騎士の後ろの地面に突き刺さった。 蒼い騎士は両手を挙げて「参りました」と降伏した。


「すごいですね」

「えぇ、彼女はレイア・ファウ・ブライト。 元王位継承権第二位でございます」

「「お、王女様!?」


 俺と愛華は思わず驚いてしまった。 まさか、王女様が騎士をしているとは思いもしなかった。

 模擬戦が終わったこともあってか、今戦っていた二人と周りで観戦していた騎士たちが俺たちに気が付いた。


「来られたのですね」

「えぇ、二人にここで皆様方に戦う術を教えてほしいのです」

「わかりました。 宮廷魔術師様。 我々、ブライト王国軍が責任を持って勇者様方を鍛えさせていただきます」


 左手で拳を作り、胸に手を当てて敬礼する。


「では、任せましたよ」

「はい」


 そう言って、ノアールは杖を突きながら修練場から離れていった。

 残された俺と愛華はそれぞれ、別の騎士に連れられてそれぞれ別の場所で訓練を始めた。


「まずは、勇者様の武器を見繕わねばなりませんね」


 そう言ってきたのはレイア王女様。 修練場の端にある武器の立て置き場で武器を手に取っては「う~ん」と唸っていた。

 俺は何となくその後ろ姿を見ながら、レイヤ王女が手にした槍に手を伸ばしていた。

 レイヤ王女は俺が槍に手を伸ばしているのに気が付くと無言で槍を俺に手渡ししてきた。

 俺は槍を受け取ると適当に振り回す。 手に持った時にかなりの重さを感じたから振り回されるかと思っていたが、そんなことはなく上手に扱えているそんな感覚があった。


「す、すごいな。 初めて槍を握るのだろう?」

「え、えぇ。 前の世界で武術なんてしたことはないですから」


 俺がそう言うとレイア王女は立てかけられていた長剣を手に取り俺に向かって構えてきた。

 俺もそれに合わせるように槍を構える。 そして、どちらが先に動いたそれすらわからないほど同時に武器が立てかけられている場所とは反対の方向に飛び、互いの武器を合わせるように打ち付け合う。 甲高い音を立てながら槍と長剣がはじかれる。

 ここはさすがに武器の扱いの差が出て、俺の槍のほうが引き戻す速さが遅い。

 俺が槍を引き戻した時にはすでに目の前までレイア王女が迫っていて防ぐことがギリギリ間に合ったという感じだった。 そこからは、俺は一生防戦一方でレイア王女の剣を凌ぐので精一杯だった。


「参りました」


 数にして二十合、最初の一回だけ自分の意志で打ち合えたそう感じるものだった。

 

「ハハッ、初めてにしては筋がよかったな」

「ありがとうございます」



 それから俺と愛華は、レイア王女と蒼い鎧の騎士『ユーリシア』の二人を筆頭に騎士団の皆さんに戦い方と魔法の使い方を教えてもらえた。 俺は戦士として、愛華は回復役兼支援役として、ともに戦ってくれるレイア王女はタンクとして。

 そして、最終的に俺と愛華二人とも必殺技を編み出した。

 一月が経ち俺と愛華は魔族との国境沿いにいた。 今日が俺と愛華の戦争に参加する日になっている。

 そこで俺は狐のお面をつけた魔族と猫獣人の二人と出会った。


「君たちの相手は俺たちだよ」


 朗らか声音で言われた。 俺は固唾を呑み槍を構える。 これから、俺たちの初陣戦が始まる。

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二回目の異世界は悪の正義として 狐火キュウ @kitunebikyu

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