第3話 初めての異世界前編
~一月前~
《勇者視点》
放課後に他校の生徒に絡まれて誰かが目の前に来た途端に俺――
光が収まった。 光が収まったとき目の前にいた二人ではなく、王冠をかぶった若い金髪の男と黒いローブを羽織った人がいた。 ローブのほうは何故かローブの中が見えなくなっていて男なのか女なのかわからなかった。
「突然の召喚申し訳ありません」
「い、いえ」
「私たちは今、魔族に滅ぼされそうになっているのです。 その最終手段として異世界からの召喚魔術を使用しました」
そう言われて周りを見渡すとさっきまでいた路地ではなく、パルテノン神殿のような作りになっていて中はパチパチとかがり火が照らしているだけで薄暗かった。
「ここは……どこ?」
そう愛華目の前にいたローブの人に聞いた。
「ここはブライト王国です。 詳しい話は別の部屋でお話いたしますのでわたくしについてきてくだされ」
そう言ってローブの中から杖を取り出して外に向けて歩き出した。
俺と愛華は一度顔を見合わせた後、近くに落ちていた自分たちのカバンを拾って前を歩く二人についていく。
神殿のように見えていた場所は部屋の装飾だったらしく扉を潜りぬけると豪華な廊下だった。 赤いカーペットにシャンデリアがつるされていた。
「すごっ」
思わず口からこぼれてしまった。 スマホを取り出し写真を撮った。 ネットにはつながっていなかったからSNSに投稿は出来なかったけど。
愛華も同じように写真を撮ろうとしていたからそれにピースしながら割り込む。
「……何をしているのですか」
「す、すみません」
ローブを着た人がこちらを振り向きそう注意してきた。 俺は咄嗟に謝って二人の後ろをついていった。
それからしばらく廊下を歩き、一つの扉の前に止まった。
「こちらです。 勇者様方、こちらで詳しいお話をいたしましょう」
俺と愛華は豪華な部屋に案内された。 部屋の内装は有名そうな絵画にキングサイズのベッド、きらびやかな机に椅子というお金のかけられた部屋だった。
辺りを見回すだけで目が疲れてしまう。
「さて、二人とも座り給え」
「は、はい」
王冠を被った男にそう言われて俺と愛華は男と机を挟んで対面に置かれていた椅子に座った。
「まずは二人ともこれに触れてもらおう」
そう言われて、二つの水晶玉が机の上に差し出された。 その水晶玉はよくテレビや漫画で見るような占い師が使うようなものだった。
それに触れると水晶玉の中心が淡く光り始めた。
愛華のほうも同じらしく光っていた。 俺と愛華の水晶玉に違いがあるとするなら光っている光の色だろう。 俺は緑色に光っているのに対して、愛華は黄色に光っていた。
「これを頼む」
「承知いたしました」
王冠を被った男が隣で待機していた杖を持った人にそう言った。 杖を持った人は水晶玉を二つ持って部屋を出て行った。
俺はそれを見ながらあの水晶玉が何なのかが気になった。
「あれはあなた方の魔力属性と魔力の量を見る装置ですよ」
あの水晶玉を凝視し過ぎてしまったのか、目の前の男からそう言われた。
「ハアッ……」
俺は小さく相槌を打ち、魔力という言葉を頭の中で繰り返していた。 普段聞き慣れない言葉を聞くと改めて俺たちのいた場所とは別のところに来ているのだと認識する。
「魔術について何も知らないですよね」
「そうですね」
「でしたら、計測が終わるまでの間に魔術についての説明をしましょうか」
そうして説明を始めた。
「魔術は赤、青、緑、黄の四つの基本属性に分けられます。 この四つの属性はそれぞれ赤は熱、青は水、緑は風、黄は土を司っています。 基本的に人はこの四つの属性のうち一つの属性を持っています。 まれに、二つ以上の属性を持つ人がいます。
さらに、特殊な属性として光と陰の属性があります」
そう言われて手元に赤、青、緑、黄の光を掌に浮かべる。 それをグルグル回しながら消す。
「先ほど言った属性に当てはまらない属性が三つあります。 それが、勇者と魔王が持つ聖属性と闇属性。 そして、属性を持たない無属性があります」
そう言って掌で回っていた四つの光が消える。 魔術について話し終えたタイミングでドアがノックされる。
まるでタイミングを伺っていたかのようなタイミングで思わず体が固まる。
「失礼します。 魔術属性検査の結果が出ました」
「よいぞ、入れ」
先ほど出て行ったローブの人が入ってきた。
杖を突きながら男のもとに歩き、耳打ちをした。
初めは興味がなさそうにしていたが、次第に驚きの表情に変わっていく。
「よし、そこのお前……」
男は俺のほうを指さしながら言い淀む。 そう言えば、名前を言ってなかったような。
「あ、剣城って言います」
「よし、ツルギ貴様が今代の勇者だ」
そう言って俺の手を握ってくる。 そして、グイッと顔を近づけてくる。 鼻息が少し荒い。
「王子、まだ我々の名前すら知らないでしょう」
「おぉ、そうだったな! 嬉しさで忘れていた!」
そう言いながら天を仰ぐ王子に頬が引きつるのがわかる。
「私の名はアレクストス・ルア・ブライトだ。 この国の第一位継承権を持っているよろしく頼む」
「わたくしは王子の側付き兼魔術師のノアールと申します。 魔術属性は黄でございます」
そう二人から自己紹介を受け、俺と愛華は頷く。 第一位継承権といわれても俺らには実感がわかないからよくわからない。
「では、我々のことも知ってもらえましたね」
胡散臭い声でそう言ってきたノアールは俺に手を差し出してきた。
「では、ツルギ様。 少々お時間をいただいてもよろしいでしょうか」
特に断る理由もない俺はノアールの手を取って座っていた椅子から立ち上がる。
ノアールは俺が立ち上がるとドアのほうに歩いて行った。 一度、俺のほうを見てついてこいというふうに目で訴えかけていた。
「待ってください」
ドアから出ていくノアールの後ろについていきながらドアに手をかける。 ここに愛華を一人だけ置いていくのが心配で後ろを振り返ると愛華が俺に向かって手を振っていた。
それを見て、ひとりでも大丈夫だろうと外に出る。
俺たちが来た道を引き返していっているノアールの後ろを走ってついていく。
「ここです」
無言で歩くノアールの後ろをついてすぐ、目的の場所についたようだった。
ガチャとドアを開けて中に入るとさっきの部屋とは違い、薄暗くどこかジメジメした雰囲気をか持ち出していた。
「ここでツルギ様の潜在能力を引き出す儀式をさせていただきます」
「は、はぁ」
この世界で何も知らない状態でいきなり潜在能力と言われても興奮は薄い。 そういうイベントは成長の壁にぶち当たったとき起こるイベントだと思う。
「では、こちらの魔方陣の上に立ってください」
杖でコンコンと赤い血のようなもので書かれた魔方陣を叩く。
その上に立つと「行きますよ」という声が聞こえ、俺は意味が分からない呪文が聞こえる。 それに合わせるように魔方陣が赤く光っていき、神秘的に感じる。
そして、ひと際強く魔方陣が光ると俺の体に異変が起こり始めた。 体に異変というのはおかしいかもしれない。
俺の体に何かが入り込んでいっていく感覚が起こり、体の中でそれが暴れ始める。
「ア、ガッアァ」
声が出せない。 悲鳴が上げられない。 あまりの痛さに膝を付いて体を抱き込むように抑える。
目の前にスパークが走る。 意識が途切れ途切れになりながら目の前を見る。 ノアールが呪文を詠唱している。 さっきまでしていたフードが取れて素顔が見える。
その顔に薄い笑みが見え、俺は完全に意識が途切れてしまった。
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