太陽の悩み
クロノヒョウ
第1話
太陽の仕事は朝早く起きて地球をゆっくり歩くことだった。
起きて顔を洗っているとだんだんと顔が光り出す。
その光りで地球を照らしていきながらゆっくりと歩いて階段を上る。
ゆっくりゆっくり歩いてちょうどお昼頃には地球の真上に到着する。
ひと息つくと今度はゆっくりと階段を下りて行く。
もうすぐ家に着く、という所で待ち構えている月がたまに「お疲れさん」とニンジンジュースをくれるのだった。
「お、ありがとう。いただきます」
「ご苦労様」
ニンジンジュースを飲んだ太陽の顔はオレンジ色に輝き始めていた。
「やっぱり君にはそのオレンジが似合うよ」
控え室で見ていた月が嬉しそうに笑う。
「そうかい? そう言えば人間もそんなことを言っていたな」
「そうだろう? 君がニンジンみたいな色で輝いていると地球がとっても綺麗な色をするんだ。人間もその君の顔が見たくて集まるんだよ」
「そうか……」
太陽は飲み終わったニンジンジュースを眺めながらため息をついた。
「どうしたんだい? 何か悩みでも?」
「いや、これを毎日飲めたら人間も喜んでくれるのになって思って。でもほら、毎日は君も大変だろうし」
「なんだ、そんなことか。大変じゃないさ。これはボクの庭でウサギさんがニンジンの種を撒いて育てた月ウサギのニンジンだ。それをウサギさんたちがジュースにしてくれるんだ。つきたてのお餅とすごく合うんだよ」
「お餅か、美味しそうだね」
「今度持ってくるよ」
「うん……」
「まだ何かあるのかい?」
「いや、最近僕が歩いていると人間たちが暑い暑いって嫌そうな顔をするんだ。昔はみんな僕を見てくれていたのに今では傘なんかさして誰も僕を見てくれない。僕から隠れようとするんだよ。みんなお前のことが嫌いなんだよって雲さんに言われた」
「そんなのでまかせだ、雲がホラを吹いたんだよ。あいつらは雨にいいようにこき使われているからな」
「そうかな」
「考えてみてよ。君が歩くと本当に気持ちよくて洗濯が楽しくなるだろ? 君は夜は寝てるから知らないだろうけど君の匂いのするふかふかのお布団で寝るのは最高だってみんな言ってるよ」
「本当に?」
「ああ。だからほら、明日もちゃんと胸張って歩いてよ。ニンジンジュース持ってくるからさ」
「うん! ありがとう月さん」
「おっと、そろそろボクの時間だね」
「うん、交代だ」
「じゃあ、君がいない街を明るく照らしてくるよ」
「行ってらっしゃい」
「行ってきます」
太陽とバトンタッチした月はキラキラと輝きながら高く高く飛んでいった。
そんな月を見送ってから太陽は明日のお餅とニンジンジュースを楽しみにしながら夜をむかえるために静かに目を閉じた。
完
太陽の悩み クロノヒョウ @kurono-hyo
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