第2話 - 証明
「ところでお名前は何ですか?」
少女の後を追って森を歩いていると、彼女は首を後ろに向けて私に尋ねてきた。
「颯…音川 颯」
「何と呼べばいいですか?」
「音川さんで大丈夫だ。 お前は?」
「私の名前はヘルです」
「じゃ、ヘルちゃんと呼んでもいい?」
僕の言うことを聞いた少女はどうしたんだか不思議そうな顔をした。
「かまいませんが、そのチャンとかサン?はどういう意味ですか」
歩みを止める。 多分表情もそんなに明るくないだろう。 少女は「…?何かあったんですか? おしっことか? あっ!もしかしてうんち?」と騒いでいる。 しかし、そのギャグは僕を笑わせることができなかった。
「知らなくてもいいよ…」
「そうですか?分かりました!」
雰囲気があっという間に暗くなった。 ぎこちなさにあたりを見回す。
先ほどまでは気づかなかったが、僕らを取り囲む木一つ一つまで僕が一度も見たことのない何かだ。
茂みの間から飛び出す小さな動物も、僕が知っているものと違っていた。 角が生えたウサギ、羽の生えたトカゲ、すべてが人知を超えている。
それらは本物というにはばかげており、偽物というにはごく自然だった。 周辺を見て考えるほど、脳に混乱が生じるような気分だ。
「目で見ても疑うんですね?」
少女が僕の心を見抜くように正確な指摘をした。 しかし、違う。 僕は見ても信じられないのではない。
「見たから信じられないんだ」
そうだ。むしろ僕の知識の中で、存在できないものを見たからなおさら信じられない。
それが人間という種の特性だ。 魔術公演を見る観客は魔術師が不思議なトリックを使ったと思うし、物理法則が変わったとは思わない。
「そうですね、はい、どういうことか理解しました。」
「うん…」
少女は僕の言うことを理解してくれたようだった。 突然の状況に頭が張り裂けそうな僕としては、このような理解が大きな力になる。
静かに歩く。 静かに、静かに絶えず歩いている。 先ほど中天に浮かんでいた太陽は、すでに山稜線に向かってかなり傾いた。
空が赤い。 私が乃愛さんに告白したあの日のように、乃愛さんのことを考えると気分が落ち込む。
「おお!私、すごくいい考えが浮かびました!」
突然少女は振り向いて言った。 少女の表情は盛り上がっていた。 両手を合わせて僕を見上げると、彼女の瞳には空の星を込めたようなきらめきが宿っていた。
「うん、うん!やっぱり私は天才魔法使いなんです。 あなたを一気に理解させることができる名案です!」
興奮した少女の勢いに僕はかなり呆れている。 そんな僕の表情を見たヘルは、自分に感謝しろというように眉をひそめる。
「覚悟してください! あなたにこの世の全てを一気に理解させていただきます!」
「…?」
少女はそう言って目を閉じた。 両手を合わせて口金を組んだまま胸の前に位置させる。 そして変な呪文を唱え始めた。
「私の
それから口笛を吹いて指をくわえて口笛を吹いた。
「ひゅ~い!」
少女は空を眺める。 しばらくして巨大な泣き声が聞こえてきた。
「■■■■■!」
空を黒い影が覆う。 赤く染まった天空なんか消えた。 存在するのは巨大な青色の怪物、さっきの豚に似た怪獣とは比べ物にならない規模だった。
その姿はまるで物語の中に出てくるドラゴンに似ていた。 怪獣が羽をばたつかせるたびに、ここには台風を連想させる突風が吹き荒れる。
「さあ、ここに着地しなさい!」
少女がそう言うと、ドラゴンに似た生命体は地面に降りてくる。 怪獣の足が床に着くと砂漠の砂嵐に匹敵する土埃が飛んでくる。
「ゲホッ、ゲホッ!」
おのずと咳が出る。 土ぼこりがまぶたをこじ開けて時計を断絶する。 乃愛さんを背負っているせいで両手は使えない。 呼吸も視線も発声も聴音も麻痺した。
「
今まで僕の体を締め付けていたものが消えた。 砂嵐の中で体が累積した異物を除去しようと体が咳払いを連発する。
「弱いですね~」
「ゴホン! 弱いとは…··· お前が変なヤツを呼んできたせいじゃないか!」
僕はついに時計を復元した目をそっと開けて抗議した。 しかし、僕の目の前に広がる風景は、そのような抗議の心を静めた。
ドラゴンだ。 これはドラゴンに似た何かではない。 ドラゴンそのもの、神話の降臨、空想の具現だ。 息が止まる。
一つのビルは軽く越えるように大きな身長を持つ神話の獣は、少し開いた口から硫黄の匂いが充満した息を吐き出す。 ドラゴン自分の体のように青い光を帯びた瞳、視線が一致する。 それだけで精神が侵食されていく感じだ。
「音川さん、しっかりしてください」
いつの間にかヘルは僕のそばに近づき、襟を引っ張っていた。 しかし、目の前にいるのは人間の知性を麻痺させるのに十分な存在だ。 手が震える。 瞳孔が揺れる。 恐れを感じる。 強く、強く···
「見た目は険悪に見えてもいい子ですからね。 さあ、手を伸ばしてみてください!」
少女は背後の乃愛さんを支えていた右手を力で引っ張って伸ばさせた。 幸い、乃愛さんを受賞しなかったことに大きな影響はなかった。 しかし、少女が僕の手を引いたのと同時にドラゴンの頭が降りてくる。
僕の手をかみちぎろうとするように、徐々に降りてくる。 僕は悲鳴を上げて目を閉じた。 指先がドラゴンと接触した。 暖かい。すべすべしている。 おかしい。痛くない。 少しずつ目を開けてみる。
「クルルルルル.....」
ドラゴンはまるで子犬のように泣きながら頭を私の手にこすっていた。 分かりにくいが、微笑みも浮かべていた。
「可愛いね···」
「でしょ~? 可愛いんですよ、うちのペットは」
少女はうぬぼれて自分のペットというドラゴンを自慢する。 しかし、私は大変苦しい心境を感じる。 これは本物だ。 否定できない明白な真実だ。
しかし、これは存在できない。 私が住んでいた世界では存在できないイレギュラー、明らかな間違いだ。
「推測してみましたが。 もしあなたが別の世界からやってきた人なら、話が合っているんじゃないですか」
「何だって?」
少女は突然真剣な表情を浮かべて言った。 別の世界で?
「それは話にならないじゃないか…···? 異世界だなんて···」
「しかし、あなたが感じるには私のドラゴンも魔法も全部話にならないのですか」
「...」
正論だ。それでは、ここは僕の住んでいたところとはそもそも違う世界ということか?
「以前、教皇庁直属の中央神学校に留学してみたことがあります。 その頃異世界からの来訪者への本を」
「もし君の話が正しければ、僕も…」
「そうかもしれないんですよね」
「じゃあ帰ることもできるってことかな?」
僕と乃愛さんがもし本来の世界からこの世界に来るようになったなら、また戻ることができるだろう。 いや、そうなることを祈らなければならない。
「そうですね、その書籍で彼らが元の世界に戻ることができたという内容はありませんでした。 しかし、中央神学校の図書館にそれと関連した他の本があるかどうかは分かりません」
「それならいち早くそこに…··· いや、新屋さんを起こすのが先か…」
「ええ、たぶんその方を起こしてからそこに行ったほうがいいと思います」
「じゃあ、早く君の家に!」
「よく言いました!」
少女は突然僕と乃愛さんを引っ張った。 少女が向かうところはドラゴンの背中の上だった。
「ちょっと…まさか!」
「そのまさかが真実なんです!」
僕と少女、そして乃愛さんは青色のドラゴンの上に上がった。 固い。まるで鋼鉄のような鱗が並んでいる。 ヘルがドラゴンの首の部分をなでる。
「はい、メルリヌスまで飛んでいくんです。 どうぞ宜しくお願いします。」
少女は穏やかな声でドラゴンに頼むように丁寧に話しかけた。 それを聞いたドラゴンが轟音を立てて飛び上がる。
「ぎゅっと握ってください!」
「ああ!わかった!」
ドラゴンが羽ばたきをする。 さっきとは比べ物にならない砂嵐が吹く。 周辺の木々が引き抜かれるほどの風だ。
僕も片手で乃愛さんをつかんだまま、うろこの隙間に手を挟んでやっと持ちこたえている。 しかし、少女はかなり慣れたのか自然に座って明るく笑っていた。 どこか鮮明な期待を抱いた表情だった。
もう一度ドラゴンが羽ばたきをする。 そしてドラゴンが鼻で息を大きく吐いた後
「うわぁ!」
「ハハハハ! 本当に早いですよね?」
身を持て余すほどの速度で空に向かって飛ぶ。 想像すらできない速度で、その上に乗っている私の精神を欠かすほど速いスピードで飛翔する。
ものすごい気圧が感じられる。 目をまともに開けることさえできない。 そんなかすかな時計の中、少女の姿が見えた。
「─────────!」
さっきよりも明確になった期待の、渇望の笑み、少女は強い幸せの感情を表す。
すぐドラゴンの速度が遅くなる。 目標だった最高点に達したようだった。
「音川さん、見てください」
「何を馬が…···…や……」
僕は目を見開いて、自分の下の世界を眺めた。
世界の果てまで広がる地平線、地いっぱいの草木、遠くに建てられた中世らしい城、山の稜線に沿って沈む太陽、赤く染まった空、すべてが一望できる。
遠くの石山ではドラゴンが滑空し、中世城の青い尖塔は強い存在感を表している。 僕たちを基準にして、反対側にあるところは黒く塗られている。 そこにはさっき見た豚怪獣と似たものがあふれている。
僕が見た世界には農民、戦士、怪獣、聖水、草木、そのすべてが含まれていた。
「この世は本当に美しいなんだな」
「フフッ、もうわかってくれたんですか?」
少女は訳もなく嬉しそうな表情をする。
「それではメルリヌスに行ってみましょうか?」
「ああ、行こう!」
「行くんです! イェィィィィ」
人生初の彼女と異世界旅行 広天 高飛 @hiroama
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