第1話 - 招待

どれだけ長い間眠っていたんだろう、目覚めると見えるのは青い空とさわやかな緑蔭だけ、都会の気配は存在しない。


覚醒した精神にまだ適応してない体を起こす。そして脳に刻まれた一番最近の記憶を回想する。


そう、僕は校舎の屋上で乃愛さんに告白し恋人関係になった。その後僕は乃愛さんと屋上から...


「...! 新屋さん!」


僕はそう言いながら、周りをあちこち探してみる。幸いなことに乃愛さんは僕のそばで眠っていた。僕は彼女に近づいて彼女を起こすため肩を振った。


「新屋さん、新屋さん! 起きて!」


乃愛さんの体は暖かい。僕と同じく生きているようだ。


しかしさっぱり目を開けようとしない。僕は"新屋さん"と連呼しながら乃愛さんの肩を肩をつかんで振った。だけど彼女は目覚める気配をしてない。その状態で数分が過ぎた。


そろそろ力不足になってきた。息がずいぶん荒れてきた。ひとまず休息を兼ねて周辺を見ることにした。


周辺は先ほど認知したのと同じように深い森の中らしい。


太陽は明るく世界を照してくる。緑豊かな薄い枝を揺らす風は、はるかな夏の香りを込めて鼻先に触れてくる。


僕たちを取り巻く環境はとてもさわやかで美しいものだった。


「けど....」


疑問を抱かざるを得ない。僕と乃愛さんは確かに校舎の屋上から地面に向けて落ちた。


それに僕たちが住んでいた所は東京とか大阪に比べるほどではなかったが、それなりの都会を持っていた。うちの地元にこんな風景を持った場所があるとは聞いたこともない。


なにより僕が乃愛さんに告白した日は初秋だった。こんな夏の青さはとっくに南国に送り出した後であった。


「うあぁぁぁぁぁ!」


僕は両手で頭をやたらにかき回しながら叫んだ。いったい何がどうなっている状況か分からなくて頭が痛い。僕は倒れている乃愛さんに視線を向けた。


「乃愛さん....」


名前を呼んでみる。しかし目を覚ますような気配はなかった。ため息をついて後ろにどかっと座り込んだ。そして青空を見上げた。


その時、背後から黒い影がかかってきた。


それは僕と乃愛さん、さらに周辺一帯を黒く染めた。


夏の青さは消えた。緑蔭のさわやかさは消えた。ただ獣を思わせる荒い息づかいと鮮血の匂いがするだけだ。


人間の内面にある動物的な感覚が反応する。体に鳥肌が立つ。冷や汗が服を湿らせる。


──────────1秒


瞳孔が揺れる。


──────────1秒


全身が痙攣する。


──────────1秒


恐怖に陥没する。


──────────1秒


時間だけが流れていく。体がおのずと動く。人間の裏側に眠っている恐怖への渇望が黒い影の元を目に入れようと肉体を操る。


後ろを振り返る。


そこにあったのは赤くてどっしりとした体と野鳥のような頭をしている見たことのない怪獣だった。


その怪獣は大人の男性を10人ほど集めておいた程度に巨大だった。怪獣は膨大な脂肪に覆われていたがその厚い肌を突き抜けて自分の存在を現す筋は強大な腕力を誇っている。


それは長く突き出た牙を持った口を動かして微笑みに見える表情をした。


そして腕が上がる。腕の終わり、手にあるのは岩で作ったように粗削りな石剣、それは黒く輝いていた。


手の動きが止まる。たぶん頂上に到達したのだろう。すぐにそれは稲妻と同じ速度で、私とノア像に向かって走ってくる。僕は無意識的に後ろにいる乃愛さんを守るため彼女の体をかばおうとしたんだけど....


「■■■■■■■───────■■■■!!!」


怪物が天地を乖離させる轟音を立てて倒れた。


今、右側から飛んできた大きい火の玉が怪物を襲った。灼熱する。巨大な火炎の中、獣の跡がもがく。強烈な炎に怪物の体が酸化する。暑い。


間もなく怪物は悲鳴すら出せない状態になった。それの体は先までの赤色を失くし、黒く焼けただけだ。僕は火の玉が飛んできた方向に頭を向けた。


そこには空色の髪をもった幼い少女が立っていた。年では中学生くらいに見えた。だがその姿はあまり中学生らしくなかった。少女はまるで魔女を連想させる黒色のローブを羽織っていた。


少女は僕に近づいてくる。僕は正体不明の少女に脅されてビクッとした。しかし少女は歩き続け、僕の目の前に到着した。


それから....


「大丈夫ですか?体に傷はありませんよね?」


少女はしゃがんで僕の体をあちこち見回した。僕の体に大怪我はないことを見て、安心したよう息を吐いた。


「よかったです。大きな傷はないので、私が魔法を使った甲斐があるのです!」


少女は明るい笑顔で、大きく開いた胸に拳を乗せてうぬぼれるポーズをとった。


しかし、僕は疑問を抱くだけだった。 その怪物とは何か、その火の玉とは何か、少女が言ったようにそれは魔法なのか? そんなものは存在しない。 一体この状況は何だというのか。


「あのさ、聞きたいことがあるんだけど....」


「はい!何でも聞いてください。底に生えた雑草の名前からフェルマの最終定理の証明まで! トイレの位置から魔王城への近道まで! 私が知っていることなら、できるだけお話ししましょう!」


「だから君が言ってること全部いったいだから、君の言うこと全部どういう意味なのか分からないよ。 さっきのあの怪物は何? 魔法は一体何で、魔王星とはまたどういう意味?」


「 うーん…困りますね。 きっと突っ込むのはフェルマの最終定理の方だと思ったんですが、かなり突拍子もないところで突っ込みますね。」


少女の言葉はますます疑問になってきた。確かにこのような幼い少女がフェルマの最終定理の証明を知っているのもかなり驚くが、今はそのようなことを気にする状況ではない。


重要なのは、このコスプレ会場から来たような身なりの少女と漫画に出てきそうな分からない単語たちだ。


そのように私が不満で、また分からないという表情をしていると、少女は困った顔をした。


「うーん…そうですね。表情を見るといたずらをしているようではないです。 まあ、それはゆっくり話しましょうか」


「いや、僕は今すぐ知りたいんだ!」


僕がそのように叫ぶと、少女はため息をつき、私の後ろを指差した。


「一緒にいたのを見ると知り合いなんでしょう? 倒れているのに、そのままにしておいても大丈夫ですか?」


少女の言葉は的を射るものだった。 今は僕の疑問が優先ではない。 まずは、乃愛さんの状態に気をつけなければならない。 しかし、ここは森の中だ。 どうすればいいのか···


「あの方をおんぶしてついてきてください。」


少女はどこかに向かって振り向いてからそう言った。


「連れて行く所があるのか?」

それを聞いたら少女は自慢するように両手を腰に乗せて後ろを振り返った。 表情もとても自信満々に見えた。

「もちろんです!招待しましょう! 私が住んでいる森の中の小さな小屋、平凡な人は存在を認知することさえできない帳の要塞、世界で最も強力な魔法使いが宿る神秘の邸宅、メルリヌスへ!」

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