人生初の彼女と異世界旅行

広天 高飛

プロローグ

屋上の上、水平線の向こうに沈む太陽が僕を照している。


僕は太陽を眺める。心の奥の憎しみが僕を動かせる。


僕は少し息を整えて目を閉じたまま、床に向かって力の限り叫んだ。


「今日、僕は新屋あらや 乃愛のあに告白する!」


これは僕の復讐だ。


何に向かっての復讐だと?それは簡単だ。僕の長い親友 '白山はくさん 関屋せきやに向かっての復讐だ。


彼は僕との友情を徹底的に裏切ったヤツだ。許せない。

何?彼が僕にどんな過ちを犯したのかと?


彼の悪行を聞いて驚かないで欲しい、彼は僕が乃愛さんが好きだと知っていながら彼女を取り憑かれてオモチャにしている。


あいつが乃愛さんとデパートでデートをしている姿を僕の誕生日の前日、つまり昨日目撃した。あいつと乃愛さんの暖かい微笑みに胸が張り裂ける。


そして信じられないほど不愉快だった。だから復讐のついでにあいつの彼女になった乃愛さんに告白する!


「はあ、、、」


正直、僕もこんな行動が無駄にすぎないと知っている。ただ僕なりの心の整理がしたくて乃愛さんにこんな不快にさせるだけだ。


好きな人にこんな事をしたくはないが今回だけは許して欲しい。


学校第一の美少女でありアイドルである彼女に告白するということの意味を、彼氏がいる女に告白するということの意味を、僕もよく知っている。 それでも僕は彼女に告白する。


その時、後ろから屋上の入り口である厚い鉄の扉がきしみながら開く音が聞こえて来た。おそらく乃愛さんが出した音のはずだ。


左手の祖父が噛んだ古風で時には神秘的な時計を眺める。時計は正確に6時を指していた。僕が彼女に伝わった約束時間と同じだ。


僕は用心深く振り返った。


そこには綺麗な姿の乃愛さんが立っていた。彼女は茶髪のロングストレートで同じ色の瞳を持っている。そして制服の上に感じられる可憐さと成熟さが二重の魅力を発散していた。


乃愛さんは何かを隠すよう両手を後ろに組んでいた。彼女の顔をもっとよく見た。彼女の顔は僕の後ろから照してくる夕焼けの光で少し赤い色をしていた。


静かだ。その状態で10秒が過ぎた。気まずい雰囲気の中。僕が先に声をかけた。


「来てくれてありがとう新屋さん、正直に来ないと思った。」


「ううん、男川おとがわくんの頼みだもの。当然来なきゃね。」


彼女は頭を両脇に振ってそう言ってくれた。僕は彼女の言葉に込められた優しさに深いありがたさと罪悪感を感じた。しかし今の言葉で確信が立った。


きっと彼女には迷惑であるだろう。不快であるだろう。けれど僕の心を伝えるべきだと思った。


目を閉じる。大きく深呼吸をした。覚悟は出来た。僕は口を開けた。


「新屋さん、僕と」


「男川くん、好きです!私と付き合ってください!」


乃愛さんが僕の言葉を切って叫んだのはあまりにも意外な物だった。僕の思考は氷山の中のマンモスのように凍りついてしまった。

そして僕たちの間には寂寞だけが流れた。それを壊したのは乃愛さんの声だった。


「あはは、やっぱりこんなに突然な事が起きると困るわよね?ごめんね。」


彼女は顔を赤らめながら頭を掻いた。


今の言葉のお陰で少しだけでも正気になれた。最低限の思考を稼働出来るようになった僕は今の状況を理解するため必死ぬ努力してみた。


僕の古い親友である関屋の彼女の乃愛さんが僕に告白した。こんな訳の分からない事が起きたという事態に驚愕を禁じ得ない。


僕がそんな事を考えながらじっとしていると乃愛さんが傷心した表情で振り向いた。


その時、彼女の「やっぱりダメだよね。」というささやきが聞こえてきた。それと当時に僕の体が動いた。


「まって!」


僕の手が乃愛さんの腕を捕まえた状態だった。衝動的だった。だけど僕はこうしないときっと後悔するんだと確信を持っていた。


乃愛さんが僕に声で振り向いた。乃愛さんの顔は真っ赤に染まっていた。僕は先に僕の心に浮かんでいる疑問を解決しようと思った。


「あの...新屋さんどうして僕に...」


その言葉に乃愛さんは当たり前のように、そして照れくさそうに"だって好きだから"って言った。


「いや、そうじゃなくて乃愛さんは今関屋のヤツと付き合ってるじゃん。そんな君が僕に告白しちゃダメだろ。」


僕はお粗末な道徳意識が発動して彼女に説教しようとした。しかし彼女は当惑した表情で首をかしげるだけだった。どうでも彼女と僕の中に根本的な認識の差があるらしい。


「何を言ってるの男川くん私が白山くんと付き合うなんて、私処女だよ?」


なんだか一つ単語の選択がおかしかったけどその意味は伝わってきた。けどそうなら昨日彼女が関屋とデパートでデートをしたのは何なんだろう。


「じゃあ、昨日関屋とデパートでいたのは...?」


乃愛さんは忘れていたらしく"あっ!"っと言いながら手に持っていた何かを僕に渡した。そんな彼女の瞳には深い愛情と自慢、そして緊張が込められていた。


「今日男川くんの誕生日だよね?白山くん男川くんと親しいとうで、プレゼント選ぶの手伝ってもらったんだ。」


その言葉を聞いたらなんだか体の緊張がすっかりほぐれてしまった。そのためか僕は足の力が抜けて座り込んでしまった。


「男川くん大丈夫?」


乃愛さんは倒れている僕の腕をつかんで起こしてくれた。お陰で楽し起きられた。


僕はもう少し悩んでから彼女の目を直視した。彼女は少し赤い顔で僕の選択を待つように緊張した気配が歴然としていた。


僕は僕の当たり前な選択を彼女に伝わった。


「もちろんだよ新屋さん、僕もずっと新屋さんのこと好きだった。そして誕生日のプレゼントありがとう、人生最高に嬉しいプレゼントだ。」


僕は僕の心全部を込めて僕なりの会心の笑顔で乃愛さんに感謝を伝えた。それが効いたのか、乃愛さんはさっきよりもっと顔を赤らめ、照れくさそうにした。


僕もそれに合わせて照れくさそうな笑みを浮かべた。たぶんこれからは乃愛さんとの楽しい学校生活が待っているだろう。


...


その時、正面から強い風が吹いてきた。


それはまるで突風のようで肉体の巨大なる質量を押さえつける強大な力だった。さっき足の力が抜けた後だからか僕は体を支えられずに後ろに倒れ込んだ。


しかし、何故か先ほどのように体が地面に打ち付けられる感じはなかった。もっと深いところへ吸い込まれていくような...


「男川くん!」


乃愛さんが僕の手を引っ張った。しかし僕の運動を止めず彼女の体も付いてくるだけだった。


僕は後ろ振り向いた。そこには遠くの地面だけがあった。確かに、ちょうど僕と乃愛さんがいた場所は屋上だった。それはつまり....


「乃愛さん、危ない!」


僕は全力で乃愛さんを突き飛ばした。けど風に乗って寄せる巨大な力は僕がどうにか出来る物ではなかった。


思考が止まる。視界に映るのは後方に地面、前方には乃愛さんと夕焼けに染まる赤い空だけだ。僕を地面に打ち下ろす力は強い。


拍動が早くなる。視線は固定されず、あちこち動く。僕は揺れてる手を伸ばして乃愛さんを抱きしめた。ただ一つの腕を動かすだけでも、筋肉が引き裂かれるように悲鳴を上げた。


僕の命なんか関係ない。 僕が愛したこの女を生かしたいという一念で全身に力を入れる。 しかし、すぐにそれが不可能な願いだということに気づき、自ずと体から力が抜ける。


僕の精神すら諦めて目を伏せる。もう全てが終わったという心で。


何もかも僕のせいだ。


僕が乃愛さんを屋上に呼び出さなかったら、僕が風に風で転ばずに耐えたなら、こんな事はなかった。僕せいで乃愛さんが死ぬ。それが我慢できないほど情けないので、つい涙が出てしまった。


その時、視界の果て、そこに何かの光があった。


その光の源は、僕の左手にある祖父から受け継いだ古い時計だった


しばらくするとその明るい光は僕と乃愛さんを包んだ。そして意識は遠のき、僕を地面へ引きずり込む力から解き放たれるような感覚がした。


体が一段と軽くなった感じだ。僕の抱きしめている乃愛さんは既に意識を失っていた。すぐに僕も眠りに落ちた。


深い疑問を残しながら、世界は僕を一時の休息に追いやった。未知の世界へと僕を追いやった。

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