第10話 蜘蛛の糸

「やっぱり、こういう店でいいと思うわけよ。結局ね。高い店じゃなくても。」


仙台市内にある大衆居酒屋でフッサルサークルの顧問である佐藤教授がサークルに所属する学生達に話していた。


「ねっ。そう思うでしょ。ねっ。」


「先生、本当にそうですね。」


サークルの学生達がそう佐藤の問いかけに肯定的な回答をすると、佐藤は上機嫌な顔をしながらビールを流し込むのだった。


この居酒屋では、佐藤が顧問を務めるフットボールサークルの歓迎会が開催されていた。


勲は結局、寺田の誘いもあり、このサークルに入ることを決めた。


19時に歓迎会が始まってから、

既に1時間ほど経っていたが、歓迎会は一方的に話す佐藤と、その話に熱心に聞き入る2年生以上の学生、そして、その様子を戸惑いながら見守る新入生という構図になっていた。


「いや、僕はね。学生に偉そうにする他の教授とか本当に嫌いでね。全くそういう人は理解出来ないわけ。」


佐藤は焼鳥を食べながら話し続ける。


「でね。だから、僕は学生とは、フラットな関係を作ることに気を配ってるわけよ。意見も対等に聞くしね。そういう教授じゃなきゃ今の時代に合わないのよ。そうだよね。ねっ。」


「その通りですね。先生。」

3年の学生が多少、上擦った声で、間髪入れず答える。


勲はこの光景を見ながら、

俺はとんでも無い所に来たのではないかと

思っていた。


「先生は、どうしてこの大学に来たんですか。」

寺田が佐藤の瓶にビールを注ぎながら

話しかけた。


「僕は長いこと、役人やっててね。東南アジアにも行ったんだけど、やっぱり次世代の日本人はアニマルスピリットを持った人間になって貰って、侍としてさ、国内外で活躍してもらわないと、もうね。日本はダメになると思ってさ。役所辞めて、大学来たわけよ。」


「だから、君たちにはね。フットサルも含めて、次の時代を担う日本人としての覚悟と知識を叩き込もうと思ってるからさ、ねっ、そのつもりで頼むよ、ねっ。」


顔を真っ赤にしながら、

佐藤は寺田の背中を叩き、

上機嫌で笑った。


多くの学生にとって、日本の名だたる企業との関係が深い佐藤との関係を良好に保つことは、自身の就職、将来に直結する重大事である。


そのため、サークルに所属する多くの学生が茶坊主の如く、佐藤に傅いていた。


勲は内心では、佐藤に傅く先輩連や寺田を軽蔑しつつも、自身も作り笑いを浮かべて、必死に佐藤の話に耳を傾けていた。


佐藤の高笑いが居酒屋に響き渡った。


勲にとって長い夜になりそうだった。

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@konitan2023

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