第9話 新天地
「我が校に入学される皆様の前途を期待しまして、私の挨拶と・・・。」
学長が入学式の挨拶をしている。
勲は仙台市にある国立大学の入学式に
参加していた。
勲は儀礼的な入学式の間、
これからの自分の人生、大学生活に思いを
馳せていた。
サークル、ゼミはどうするべきか。
勲は無趣味だった。サークルにしても、
ゼミにしても自分が将来、然るべき社会的な地位に就くための手段としか考えていなかった。
そのため、初めから充実した大学生活を
送るために、どんな選択をすべきかという観点は欠けていた。
ただ、勲が思い描く然るべき社会的地位といっても、様々な選択肢がある。
大企業に就職し、役員を目指すのか、
はたまた、国家総合職試験を受け、
高級官僚を目指すのか。
勲はまだ、具体的な将来像、ビジョンが描けないでいた。
入学式が終わり、キャンパス内を歩いていると、新入生向けにサークルの勧誘が行われていた。
様々なサークルがあるのだなと思いながら、
歩いていると、反対方向から歩いてきた寺田から声を掛けられた。
「勲くん。入学式おつかれさま。同じアパートの寺田。覚えてるかな。」
「挨拶に来てくれたしね。覚えてるよ。」
「よかった。ところで勲くんはサークル決めた。実は自分、フットサルサークル考えてるんだよね。」
落ち着きのないこいつに相応しそうな
サークルだなと思いながら、勲は、寺田に
「まだ、自分は決めてないけど、何でフットサルサークルにしようと思うの。」
と聞いた。
「いや、アパートの先輩に聞いたんだけど、フットサルサークルの顧問の教授のゼミって、色んな企業に伝手があるらしくて、凄い人気らしいんだよ。で、フットサルサークルで仲良くなれば、ゼミも通りやすいって聞いたからさ。就職にも役立ちそうだし、フットサル楽しそうだなって思ってさ。」
相変わらず捲し立てる様に喋る寺田を見ながら、中々、良く考えてるんだな。
と勲は珍しく関心するとともに、確かに、フットサルサークルも良い選択肢ではないかと思った。
寺田は懐からフットサルサークルのチラシを
取り出しながら、
「勲くんも関心あったら、今週末、新歓コンパ有るらしいから行ってみない。1人ってのもあれだなって思ってさ。」
と言った。
「ちょっと考えてみるよ。」
勲はそう言って、チラシを受け取り、
寺田と分かれた。
その後も複数のサークルからチラシを
受け取り、アパートに帰ろうと校門を出ようとするところで、
勲は若い小柄な女性から声を掛けられた。
「すいません。サークルの勧誘してて、今度、新歓あるんで良かったらどうですか。ボランティアサークルで。」
笑顔でチラシを渡そうとした女性は
自分を凝視する勲の目を見て、その手をとめた。
勲は抑揚のない低い声で
「要りません。」
と言って立ち去った。
彼の大学生活はこうして始まった。
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