Chapter.47 再会
……――クゥリはこの出会いを経て、精神性に大きな変革をもたらすことになる。
彼らはクゥリに様々なものを教え、与えた。それは必ずしも意図して出たようなものではなく、さらに言えば四人は教えたつもりも与えたつもりもないのだろうが……。
小さな子どもであるクゥリにとって、目の前にいる大人は皆が確かな教材であった。
その経験は、宝物のようだった。
「……ね、ねえ。ちゃんと、目覚める? トルハ、トルハ」
『静かにするがよい。自然な起床を待つのだ』
「うー、うー、トルハ、は、寝起きが悪い。このままじゃあ、お昼まで寝ちゃう……」
『それならそれで良いではないか。貴様も眠ければ寝ていいのだぞ』
「うー、うー……でも」
『もはや警戒に足る障害など、この世界には存在しないのだ』
それは、いつかある日のグロウシア。
既に苦しそうな様子もなく、眉間に皺も寄ってなければ、呻くこともない。整った呼吸と気持ち良さそうな寝顔でスヤスヤと眠る少女に対して、首を長くして心待ちにするクゥリと神様の姿がある。
「トルハが起きたら、お魚食べる。クゥリお腹減った」
『許す。だから、ええい。飛び跳ねるでない』
ここから先の物語は、きっと彼が主人公だ。
その行く末は、分からない。
だけど監督役として現界を続ける神様が、こうやって頭を抱えて見守る限りはきっときっと、終わりじゃない。
「まだかなあ、まだかなあ」
そわそわとしながら待つ。少女が目覚めるということは、彼にとってとても大きいこと。
またお話ししたいし、遊びたい。クゥリは彼女に聞かせたい話もある。キラキラとしていて、どこか不思議で、いつも笑い合って楽しそうで、心の底から憧れてしまう、旅人たちの話をしたい。
「ミユキ、タイガ、ユウト、それからえっと、……レナ。くしし。くしし」
口元を隠すように笑って、いたずらっ子のようにして。
「トルハが起きたら、いっぱい話す。教えてもらった遊びするー」
『うむ。復興も忘れるでないぞ。体が虚弱すぎるのだ、子は陽の光を浴びられる地上で生活せねば強くなれぬ』
「頑張る。かみさま、ありがとう」
んぅ、と身じろぐ女の子の姿。クゥリは嬉しそうに笑顔を浮かべる。
「ああー! 動いた! トルハが、寝返りを!」
『本当に騒がしいな……。全くこれでは、先が思いやられる』
ぴょんぴょんとして、飛び跳ねて。小躍りなんかしてしまう。
これはクゥリの悲願なのだ。願っても止まず、クゥリのことを大好きと言ってくれたみんながクゥリのためにしてくれた、クゥリの大切な女の子の目覚め。
「にひひ、にひひ」
目を開く。か細くクゥリの名前を呼ぶ。クゥリは嬉しそうに答える。こぼれるくらいの涙を流して、あふれるくらいの笑顔で応える。
「〜〜〜っ、トルハ、トルハ! おはよう! クゥリだよ!」
ぎゅうっと強く抱きしめる。少女は困惑した様子だけれど、きっと、察してくれるはず。
『おい小娘。我輩ではどうにもならん。この軟弱者に喝を入れてくれ』
ぴょこんと頭の上に毛玉が飛び移る。
少女がびっくりしていると、クゥリは楽しそうに笑う。
「トルハ、トルハ。クゥリね、えっと、トルハ以外にも大好きな人が出来たの!」
……その言葉は、少女にとっても多少のショックはあったけれども、彼女はクゥリの人となりを理解しているからか、笑顔でうんうんとその話の続きを促していた。
クゥリは楽しそうに言葉を続ける。
「にひ、にひひ。また遊びたいね。いっぱいいっぱい。だからトルハも、友達になろう?」
頷く。クゥリの初めて見るような表情だ。少女にとって、これほど嬉しいこともない。
よかったね、と笑いかける。クゥリは満面の笑顔を浮かべて、飛びつくようにハグをする。
「うん! ありがとう!」
――遠くの遠くのお友達へ。
また会える日まで、クゥリはこの地で生きていく。
(不良とギャルと清楚と僕で、終末世界を
【完結】不良とギャルと清楚と僕で、終末世界を聖水探索《サバイバル》! 環月紅人 @SoLuna0617
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