02話
「――ということで別に喧嘩をしてそのままというわけじゃないんだよ」
「ならもっと一緒にいた方がいいんじゃ……」
そうすればこのようなこともなくなる。
得意ではない存在といればいるほどやからしてしまう可能性が上がるから僕としては二人が仲良くしてくれないと困るというやつだった。
「でもほら、周も近づいてこないから必要ないんじゃないかと考えるときもあるんだよ」
「もったいないね、少しの勇気を出せば当たり前に変わるのにお互いに変なことをしちゃっているよね」
「鹿山君ほどじゃないと思うけど」
こうして言葉で刺されることもなくなるのだ、僕にとっては大きいというレベルではない。
「いやいや、僕の嘘なんてきみ達のもったいない行為に比べたら大したことはないよ」
やったことはよくないとはいえ、誰も損しない嘘なのだから。
「お互いにその気がないならもったいないということはないでしょ」
「わかった、葭葉さんにはないんだね、だけど周君にはあるから向き合ってあげてほしいな」
自分が助かりたいというそれが強くある、ただ、それだけではないのだ。
「だからその周が来ていないのに変なことを言うね鹿山君は」
「損をするようなことにはならないから頼むよ葭葉さん、もちろん、僕だって動いてもらったら動くよ」
あ、出たまたこの顔、だけどデフォルトの顔がこれではないからまだ落ち着ける。
「じゃあ静と仲良くしてあげて」
「弟君か」
あの子がいてくれているときだけは年相応というかお姉ちゃんの顔になるからもっといてほしいぐらいでマイナスなことはなにもない。
一緒に過ごすということなら僕でもできるからその点でもよかった。
「なんか気に入ったみたいなんだよね」
「わかった」
「じゃ……いまからいけばいいんでしょ」
「うん、早い方がいいから」
学校から歩いて大体、五分ぐらい歩くと周君の家がある。
インターホンを鳴らして少し待つと「はーい!」と元気よく求めている人物が出てきてくれた、別にご両親のどちらかであっても緊張はしないけどありがたかった。
「あ、ふふふ、また一緒にいるんだから~」
「葭葉さん」
ちょっといまはそういうのに付き合っている場合ではないので前に進ませてもらう。
「周、また一緒に過ごすとか……どう?」
「それって本当に慈ちゃんが求めているの? もしそうならいいけどそうじゃないなら駄目だよ」
「まあ、喧嘩をしているわけでもないのに一緒にいない方がなんかあれだから……」
うーん、求めておいてあれだけどこれだと葭葉さんが可哀想か。
「ちょっと主は向こうにいってて」
「うん」
そのため、彼が正しい方向に動いてくれることが救いだった。
大人しく少し離れた場所で待っていると「もう大丈夫だよ」と葭葉さんが来てくれたからごめんと謝っておいた。
「すぐに謝るぐらいなら最初からしない方がいい」
「そうだね」
「でも、最初からそうだけどなにか損をしたというわけじゃないからいいよ、またいられることになったしね」
「そっか、ありがとう」
送って解散にさせてもらおう。
離れているわけではないから時間はかからなかった、でも、今日もあっさりそうさせてくれないのが彼女だった。
「お兄ちゃんっ」
「す、すぐに会えたね」
「うんっ」
いやでもこれはやらなければいけないことだから仕方がないか。
「あれ、今日は元気がないの?」
「いや、大丈夫だよ、それより静君は今日も元気だね」
「カゼを引いたときぐらいしか元気じゃないときはないよっ」
ちらりと確認をしてみたら静君がいてもいつも通りの顔で困ってしまった、なんならその後に「見ないで」と言われてひええとなった。
油断しているところをまだまだ仲良くもない僕に見られたくないというところか、だけど認めた人が相手なら見せるということであれば悪い話ではない。
装わなくてもいいときがあるということだからだ。
「周ちゃんにも会いたくなっちゃった……」
「次は連れてくるよ、お姉ちゃんも一緒にいたがっているからね」
今日はもう別れたばかりだから諦めてもらうしかないけど次は必ず連れてくるから安心してほしい。
「でも、二人と仲良くしたらだめだと思う」
「いやいや、仲がいい人がいればいるほどいいでしょ?」
「だめだよ、ケンカになっちゃうよ?」
そういうことかとわかってもわかりたくない現実がそこにある。
これも葭葉さんが余計なことを言うからだ、二人が仲良くなった場合に静君の言葉を気にして留まることが増えそうだった。
でも、いまそのことに関して言葉を重ねても不利になるだけでしかない、ここはお姉ちゃんになんとかしてもらうしかなさそうだ。
「多ければ多いほどいいというわけじゃないけど二人ぐらいなら普通だよね、葭葉さん」
と言いつつ、周君しか友達がいない僕だけど。
「まあ、私だって友達は十人ぐらいいるから」
「十人もいるの? すごいね」
「普通だよ。さあ静、そろそろ戻って宿題をしないとね」
「あっ、そういえばそうだったっ、だけどお兄ちゃんといたい……」
な、なにを気に入ってくれているのか、周君と会えないからということはわかっていても出会ったばかりでこのレベルだということがよくわかっていない。
悪い存在に騙されてしまうのではないかと心配になるぞ……。
「お兄ちゃんがいてくれたらすぐにやる?」
「やるよっ」
「お願いね」
だけど怖いのは静君なんかよりも葭葉さんの方なのは変わらなかった。
「あれ、さっきまで降っていなかったのに雨か」
濡れることになっても冬というわけではないから風邪を引いてしまうことがないのはいい、それでも少し強いから時間をつぶしていく必要があった。
「まだ帰らないの?」
「うん、今日は傘がないからもう少しだけ時間をつぶしてから帰るよ、葭葉さんは帰るときに気をつけてね」
「あんまり遅くならないようにね」
頷いて本をまた読み始める。
こっちに来てからは周君しか友達がいないということで本を読むことが増えた、ただ、悪くない時間をつぶす方法だと僕は考えている。
活かせていなくても寝て過ごすよりは遥かにいい。
「ねえ」
「ん……? あれ、まだいたの?」
あと、僕に話しかけるときだけ何故この顔なのだろうかと聞きたくなるけど、無意識に出てしまっているということならどうしようもないことだった。
「どうせ今日はもう雨が降り続けるだろうから帰った方がいいよ」
「そうだけど少しの可能性に賭けたくてね」
やまずに濡れることになっても自業自得で終わる話だから葭葉さんが気にする必要はない。
というか……元々こういう子なのかはわからないけどいきなり来すぎていて怖いのだ。
放課後になったらすぐに帰ってしまう周君になんとかしてもらいたいし、静君が寂しくならないためにも早く帰ってあげてほしかった。
「私が持っているから入ればいいでしょ」
「いや、僕のせいで濡れることになったら可哀想だからいい――うわあ!?」
ぐいっと引っ張るのは危険すぎる!
この子はなにがしたいのか、前の学校でだってここまでわからない子はいなかったぞ!
「いいから早くして、意固地になるだけ私が帰れなくなるんだから」
「い、いや、だから帰れば――はい……」
今度、一対一のときにどうすればいいのかを周君に聞こうと思う。
「話し始めたばかりだけど別に変ってわけじゃないでしょ? 静のことでお世話になっているんだからこれぐらい普通だよ」
「そうかな、いい意味からであっても人によっては警戒しちゃうんじゃないかな」
異性だけではなくて同性であってもそうだけど、異性の場合なら尚更そうなるという話だ。
「鹿山君は?」
「正直、葭葉さんは怖いよ、いつも僕に話しかけてくるときは難しそうな顔をしているから」
周君といられているときもないわけではないものの、それでも楽しそうに笑っていることが多いからその差がきになるのだ。
まあ、前から一緒にいる子のときと同じような対応をしてほしいと考える方がおかしいからこの場合でも悪いのは僕の方だけど。
「別に意識してしているわけじゃない」
「うん、だけど無意識に出てしまうような人間ってことでしょ?」
「いや、私は鹿山君のこと全然知らないからそんなことを言われても困る」
少ししてから「だからいまは知るために動いているの」とぶつけられた。
「それよりも周君とのことを教えてもらいたいかな、それで僕にもできることが増えるかもしれないから」
「前に話したことで終わりだよ、何回も言っているように喧嘩をしていたってわけじゃないんだから」
「なら離れることになったときのことはもういいから楽しかったこととかを教えてほしいかな」
ついでにその中から楽しく過ごせそうな場所なんかを知ることができたらいいなという考えがある。
まだまだ来たばかりで学校までのところと、少し遠いスーパーなんかまでのところまでしかわかっていないから色々と知りたいのだ。
「楽しかったこと? すぐに挙げられるのは海にいったときに日焼け止めを塗っていなくて周が真っ赤になったことかな」
「え、Sなのかな……?」
「意識はしていないけど結構言われることはあるよ」
無意識にやってしまっているとか一番質が悪いという話だ。
「他には……」
「すぐに出てこないのはいつも楽しかったからじゃない? 当たり前レベルのことだったからこれだと出せないのかもしれない」
「鹿山君ってそういうことも言えてしまうんだ」
「な、なんかやらかしたみたいに見えるからやめてほしいかな……」
言葉で苛められたときだけいい笑みを浮かべ始めたりしませんように!
「なのに本当に無駄な嘘をついたよね、弟だからよかったけど勝手に人の名字や名前を教えるのはよくないよ」
「ま、またそこっ?」
「次はしないこと、いい?」
「……うん、前も言ったと思うけど守るよ」
逆に考えれば周君はあれだけでよく許してくれたな。
でも、優しさに甘えてしまっていることになるから再度気をつけようと考え直したのだった。
「最近は雨が降ってばかりだけどそれでも楽しいんだ」
「僕も静君を見習わなきゃね」
「でも、無理をする必要はないと思う、お兄ちゃんはお兄ちゃんの楽しみ方でいいんだよ」
「静君は大人だね」
あの子の弟と二人きりでいてしまっていることを考えなければいい時間だった。
でも、雨の中でも公園にいたから無視をすることはできなかったのだ、放置して気になってどうしようもなくなるよりはまだこれで怒られた方がいい。
「でも、本当はちょっといやなことがあったからここで遊んでいたんだ」
「大丈夫そうなら教えてほしいな」
「友達にいつも笑っていて気になるって言われたんだ」
小学生の子なら気になるレベルで終わらない気がする、もっとこう……ストレートに吐くから優しさが出ている気がした。
「それは気にする必要はないよ、大事な話をしているときに一人で笑っていたら直さなければならないかもしれないけどそうじゃないならね」
「ちゃんと授業になったら静かにしているし、ちゃんと変えられていると思っていたんだけど……」
「それなら大丈夫だよ」
だけど響いてしまったということだよな、葭葉さんとは違って悲しそうな顔になってしまっている。
同じ教室で学んでいてちゃんと見ることができていたなら大丈夫という言葉でなんとかなるかもしれないけどいまのままだと効果は薄そうだ。
それでも相手の子が悪いという方に傾けるわけにはいかないから気にする必要はないよと重ねていくしかない、ただ勝手にそうなっているだけだとしても僕の後に葭葉さんやご両親が動いてくれることで効果を高めることが狙いでもあった。
「おーい!」
「周ちゃんだ!」
家にいないから頼まれたということがすぐにわかった。
勝手な想像とはならず、近づいてきた周君が「静がいてくれてよかったよっ」と、この二人はなんにも知らない状態で見れば兄弟のようにしか見えない。
「だけどまさか僕のお友達がお友達の弟を誘拐しているとは……」
「それでいいから連れ帰ってあげて、じゃあまたね」
「うん、そろそろ帰らないといけないから帰るね」
なんとなくここでゆっくりしていくことにした。
まあ、大人しく帰らないで寄り道をしたから「手を上げて」などと後ろからぶつけられて驚くことになったけど……。
「鹿山君が聞いてくれてよかったよ、静って学校での話をあんまりしないから」
「え、意外、寧ろ自分からいっぱい教えてくれそうなのに」
「いつでも楽しそうに見えるけどそうじゃないんだよね、そっか、鹿山君と関わることでこういうメリットがあるんだ」
あまり期待をされても困るからこれまで通りの評価でよかった、ではなく、周君に頼んで動いてもらったのだから早く帰った方がいい。
「とりあえず帰ろう」
「うん」
玄関のところに静君はいなかったけど周君が立っていた。
「おかえりー」
「周、今日はありがとう」
「どういたしまして、じゃあ主は返してもらうからね」
歩いている途中で「あの二人って似ていないよね」と言ってきたから頷く。
隠しているだけであっても静君と葭葉さんは似ていない、できることなら静君にはあのままでいてほしいけど難しいだろうか。
「僕、決めたことがあるんだ」
「うん?」
「静のお手本になれるように頑張るっ」
「はは、もう十分いいお手本になれているよ」
そうだよ、周君が明るくいてくれたら葭葉さんにもいい影響を与えるだろうからまだまだ諦めるのは早いか。
あの子がもっとにこにことしてくれたら静君もいい状態が続く、関係ないようで物凄く関係があるから頑張ってもらいたいところだった。
だからこれももちろん、動いてもらおうとしているわけだからお礼をしなければならないけどね。
「でも、頼ったのは主ってことだからなーそこが悔しいんだよ」
「え、葭葉さんはすぐに周君を頼ったでしょ?」
「静がだよ?」
「たまたまだよ、公園に一人でいたから放っておけなかったんだ」
偶然繋がっただけで静君が自分から僕のところに来たわけではないのだからそんなことを考える必要はない。
言うことを聞いてすぐに帰った時点でそうだ、やはり前々から一緒にいる存在ということで信用度が違う。
「でもね、いいこともあってね、それは慈ちゃんが主を頼っているということなんだけど」
「逆に僕が助けてもらってばかりいるけどね、傘の中に入れてもらえたから濡れなくて済んだし、なんなら貸してくれたし」
走って帰ろうとしたらいきなり引っ張られて倒れそうになったけどね。
でも、優しいのは確かだ、なにかあの子のためにできていたら引っかかることもないことだ。
「いいことだね」
「見方によっては静君のためにちょろっと動いただけなんだけど……」
「きょうだいに優しくしてもらえるのって自分がしてもらえたぐらいには嬉しいでしょ、最終的に慈ちゃんのためにも動けていることになるんだよ」
そうならいいけど。
前にも言ったようにすぐに彼の家に着くから挨拶をして別れた。
家まで歩いて、家に着いたら課題を思い出して――忘れたことに気がついて学校に向かって歩きだす。
「はぁ、なにをしているんだか……」
「大きなため息ですね」
「課題のプリントを忘れちゃってね、せっかく家まで歩いたのにすぐに戻ってくることになっちゃったよ」
「それは残念でしたね」
途中ならまだよかったけど一度家まで帰った場合には尚更、という話だ。
「ところできみはこのクラスの子じゃないね?」
「はい、三年生の
「あ、すみません」
そうか、リボンの色が違うと最初のときに周君が言っていたか。
先に気がついておきたかった、初対面のときのそれで評価が決まりかねない。
「いえいえ、気にしないでください」
「ところでえっと……ひら先輩はどうしてこの教室にいるんですか?」
「慌てていたので少し追ってきたんです」
「あー……これからはなるべく走らないようにします」
「ふふ、私は先生というわけではないので気にしないでください」
この人の笑みはとにかく柔らかいけど……苦手だ――あ、別に嘘くさいとかそういうことではない、僕がいちいち過剰に反応してしまっているだけだ。
「そういえば私達の方も課題が出ていました、どうですか、一緒にやっていきませんか?」
「それで見逃してもらえるのなら」
「ふふ、面白い男の子ですね」
面白いとか面白くないとかそこは重要ではない。
卒業までずっと同じ状態でいるためにも守らなければいけないことがある。
「ごめんなさい、本当は慈さんのことであなたのところに来たんです」
「葭葉さん関連のこと……」
「あ、悪いことではないですよ? ただ、最近はあの子らしくないことをしていることが多いので年上として気になるんです。でも、素直に教えてくれるとは思えない、だからその相手の鹿山さんに聞けばなにかがわかるかもしれないと期待しているんです」
「あー特にないんですよ、無理やり挙げるなら静君のことでちょっと動いたぐらいで」
だからやっぱりちゃんと動けているのならいきなり葭葉さんが何回も来るようになっても困ってはいないわけで。
「あの子は可愛いですっ」
「そ、そうですね」
あ、やばい目をしている。
できる範囲でこの人から静君を守ろうと決めたのだった。
次の更新予定
2024年12月28日 05:00
156作品目 Nora @rianora_
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます