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Nora
01話
「本当に大丈夫?」
「大丈夫だよ、いってきます」
体調が悪いわけでもないのに朝からやたらと心配をされてしまった。
確かに数ヶ月前に生まれた場所を離れることになったりがあったものの、それでも時間が経過してある程度は慣れたから問題はない。
「お、やっと来た」
「ちょっと朝から色々と話し合うことになってね」
「はは、ごめん」
「ちゃんと謝ったから許す。でも、なにを話し合っていたの?」
「あーちょっと違うかもしれない、やたらと心配性なんだよ」
「親ならそういうものだよ」
そうかもしれないけど過剰にやってしまっては疲れてしまうだけだからもう少しぐらいは緩くやるべきだと思う。
引っ越すことになったことを気にしているということならいらない、そんなの両親だって好き好んでしているわけではないからだ。
「あーなんか学校にいくのが面倒くさくなってきたなぁ」
「いま学校に向かって歩きだしたばかりなのに?」
「あの鳥を見てよ、自由って感じがしない?」
「でも、なにがあるのかなんてわからないからね、学生なら学校にいっておけば特に問題も起きない僕らとは違うよ」
やられてしまう可能性がゼロというわけではないけどそれでも外で過ごすことが当たり前の他動物よりは安定していると思う。
ちなみに彼的にそういことを言ってもらいたいわけではないのか「つまらない」と吐いて黙ってしまった。
「あ、慈ちゃんだ」
ただ、周君も葭葉さんも学校では一緒に過ごさないから友達という感じがしないのだ。
「なんでそうやって発見したときに葭葉さんに近づかないの?」
「特に理由はないよ」
「友達なのにおかしいね、じゃあ逆になんで僕とはいてくれるの?」
「だって主は最近来たばかりだから」
「主っていちいち細かいことを気にするよね」
「いやいや、気にならない方がおかしいと思うけどね」
「それは少数派だよ」
葭葉さんのことを出したときにすぐに終わらせようとする方がおかしいと思うけどね。
でも、そういうのも影響して広げることなんかはできないから歩くことに集中した、そして彼が先程はあんなことを言っていたものの、学校が近づくと饒舌になるところが面白かった。
「主、ジュースを買いにいこう」
「うん」
いつもは我慢しているけど今回は買うことにした。
中学校と違ってお昼に牛乳を飲む環境ではないから牛乳を選択、飲んだら学校ということもあって懐かしい気持ちになった。
ここには来たばかりではあるものの、卒業をする前にお昼関連で食堂を利用しようと決める。
「んーだけど主の言うようにここまで近づかないのも不自然だよね、というか、なにかがあったわけじゃないのになんで慈ちゃんも来てくれないんだろう」
「知らない僕といるからとか?」
二人の状態が元に戻るなら離れることになっても問題はない。
「え、そんなことを気にする子じゃないよ、関わるようになったときだってお友達といるときに話しかけてきたぐらいなんだよ?」
「お年頃ということで恥ずかしいのかもね」
「そういうタイプじゃなかったんだけどなぁ」
でも、少しの感情の変化で変わるからわからないところだ。
僕としてはお世話になっているから優しい彼が楽しそうにしていてほしいという考えがあるため、動く気があるなら動いてもらえた方が精神的にもよかった。
「協力するよ」
「んー……だけどなんかちょっと恥ずかしいかもしれない」
「じゃあ動きたくなったときは言って、周君には少しずつでも返していきたいんだよ」
とりあえずは教室に戻ろう。
ちなみに葭葉さんとは同じクラスだから教室内にいるというところが大きい。
いやまあ、ずっと見ているわけではないけど彼が動いたことがわかりやすいのがいい点だと言える。
あとは彼一人で十分なときに出しゃばらなくていいというところだろうか? 求められてもいないのに動いてもエゴにしかならないからこの環境はありがたかった。
「そ、そもそも主はもう大丈夫なの?」
「え? あ、うん、だってこれは仕方がないことだし、高校が変わったというだけでやることは変わらないんだからね」
「授業の内容とかが違うでしょ?」
「そうかな? 仮にレベルが違っても勉強をして追いつこうとすればいいんだよ、足りないなら自分に原因があるだけだしね」
なんにも努力もせずに文句だけを言う人間にはなりたくない。
結局のところはいつも同じだ、やっていけそうという考えでいる間に終わりがくる。
これからもそれを繰り返していけばいい、無難にやれればそれで十分だった。
「鹿山君ちょっといい?」
「あ、葭葉さん」
「知っているの? って、そうか」
少し難しそうな顔になってから黙ってしまった、気まずいとかそういうのはないけど誤解をされたくないから言わせてもらう。
「周君から聞いただけだから誤解しないでね」
「うん、とりあえず大丈夫なら付いてきて」
いまは放課後で廊下には誰もいない、でも、それだけでは不十分なのか彼女はどんどんと歩いていく。
足を止めたのは外に近い自動販売機が複数台設置してある暗い場所だった。
「周のことなんだけど、周って私のことを出したりするの?」
「見つけたときは『慈ちゃんだ』って言うよ、だけどそれぐらいかな」
「なるほど、教えてくれてありがとう」
それだけみたいで歩いていってしまった。
特に用もないから片付けて帰ろうと思う、これが少しだけでもきっかけになればなどと考えつつ歩いた。
「ただいま」
「おかえり、主――」
「大丈夫だったよ」
遮って悪いけど止めておけないと延々と続きそうだから駄目なのだ。
「それならいいんだけど……」
「母さんは急に心配性になっちゃったよね、学校のことなら問題ないし、なにかがあっても周君がいてくれるから大丈夫だよ」
メンタルは弱くないから大丈夫だ。
部屋に移動して着替えてからはすぐに戻った、本当にそうでも母に安心してもらえるまでは近くにいた方がいい。
「あ、味醂がもう終わっちゃう」
「それなら買ってくるよ、他にいる物はある?」
「そ、それならお醤油も……」
「わかった、いってくるね」
あ、一つ気になることが挙げるなら、
「スーパーまで距離があるから急がないと」
これだ、前みたいに少し歩ければ着くというところにここではないのだ。
コンビニも同じだ、だからそこだけは少しだけ微妙かもしれない。
ないから歩くしかないけどここなら自転車が必要だ、学校が離れているわけではないから僕には不必要だけど。
「うぅ……」
「大丈夫?」
「の、喉が乾いて力が出ない……」
「えっと……あ、ちょっと待ってて」
自動販売機がある場所でよかった、できればスーパーで買う方がいいものの、まだまだ途中だからこれで済ますしかない。
「はい水」
「ありがとう……」
驚いたのは実際にこういうことがあるのかということ、とにかく、演技でもなんでも目の前の男の子が元気になってくれるならそれでいい。
「生き返ったっ」
「よかった、それじゃあこれで」
「ちょっと待った、名前を教えてよ」
「か――有谷周って名前なんだ」
「そっか、とにかくありがとう!」
ごめん周君、もう会うことがないとしても自分のために動かれるのが嫌だから利用させてもらうことになってしまった。
もちろんこのことは本人にちゃんと言うから大丈夫だ、向こう的には知らないけど。
「――ということがあったんだ」
「えぇ、勝手に僕の名前を教えないでよ」
「ごめん、話はそれだけだよ」
後から謝ればいいと考えているのと同じだから謝っても変わらないのはわかっている。
「それお醤油だよね? ちょっとわけてくれたら許す――は冗談として、今度なにかしてもらわないとね」
「するよ、それじゃあまた明日ね」
今日必要というわけではないから急がなくてもいいけど母を安心させるために急いだ。
それからはいつもと同じで必要なことをやるだけであっという間に翌朝を迎えた。
「おはよう」
「あれ、なんで葭葉さんがここにいるの?」
僕の家を知っていることについては周君から色々と話を聞いた僕の逆のパターンということで驚くことはない。
でも、どうしてこんなことをという状態にはなっているため、昨日みたいにせめてなにかを吐いてから帰ってもらいたいところだった。
「昨日、弟を助けてくれたんでしょ? お礼を言いたくて来たの、弟のために動いてくれてありがとう」
「その話は周君から聞いたんだけど……」
「そんな嘘は意味がないの、だって私の弟は周のことを知っているんだから」
……の割には周君の名前を出しても一切気にすることなく走っていってしまったけど……。
「やっぱり人違いだよ、少なくとも僕は違うから」
「ふーん、そういうタイプなんだね」
「と、とりあえず学校にいこう」
「そうだね」
学校にいく途中に周君の家があるからたまたま出てきてくれたりしないだろうか? 前回は約束をしていたから一緒に登校できただけだから可能性は低いけど期待したい。
「ふぁぁ……」
「周君っ」
「うひゃあ!? あっ、つ、主のせいで恥ずかしい声が出ちゃったじゃん……」
「ごめんっ、だけど見てよ」
後ろを見てみると昨日よりも難しそうな顔で立っている葭葉さんがいる、あまり知らない人間ならこれが標準の顔なのではないかと勘違いしてしまうレベルだ。
「ん……? あ、慈ちゃん!」
「学校以外で会うのは久しぶりだね」
「う、うん、だけどどうしたの?」
「嘘をついた男の子にお礼を言いにいったの」
「あーそういうことだったんだ」
勝手に一人で納得されても困る。
ただ、彼が助けてくれたことには変わらないからお礼を言っておいた。
「あ、やっと出てきた」
「君はこの前の、葭葉さんの弟さんだったんだね」
「そうだよっ、
「よろしく」
明るくていいなぁ、僕が中学校の頃は普通だったから羨ましいかもしれない。
「でも、お兄ちゃんはうそをついた」
「はは、ごめん」
「謝ってもらいたいわけじゃないけど……」
周君を利用することになったのは本当に悪いことだけど仕方がないのだとわかってもらいたい。
お礼をするつもりではなかったとしてもたかだかあの程度の行為で動かれては本当に困るのだ。
「なんで静がここにいるの?」
「お姉ちゃんっ」
「なるほどね、今日に限って言えば姉弟で似ているね」
さーて、周君はまだ出てこないみたいだから帰ろうかと歩きだしたときのこと、そっと腕を掴まれて足を止めることになった。
弟君が止めてきたのかと思ったものの、
「ちょっと待って」
止めてきたのは葭葉さんで冷や汗が……。
あまり苦手までいく子と出会ったことはないけど葭葉さんは僕にとってそういう存在になりそうだった。
「だ、大丈夫大丈夫、これはもう終わった話なんだよ」
早く帰って母に安心してもらわなければいけないからもう終わりにしてほしい。
「なにが大丈夫なの? それとこっちを向いて」
「……周君はまだかな~」
敵がいるというわけではないけどすぐに味方になってくれる存在は周君しかいないから結局すぐに頼ることになる。
だからこそ早く動き出さなければならないというそれが強くなるわけだ。
「まだだよ、さっきお友達と話していたから当分の間は出てこないよ」
「えーっと……せい君?」
「なにっ?」
「お姉ちゃんと一緒に早く帰った方がいいよ、暗くなったら危ないからね」
元いたところと違って寂しい場所で、更に言えばすぐに薄暗くなる土地でもある。
家なんかはあるけどそれよりも逃げやすいお店なんかがほとんどないから変な人が来てしまう前に帰ってしまった方がいい。
「どうせならお兄ちゃんともいっしょに帰りたい!」
「そうすればいいよ、どうせ方向も一緒なんだから別れる必要はないでしょ」
「あ、はい……」
卒業までこういうことが起こらないまま高校生活が終わると思っていたのに駄目みたいだった。
それでも救いなのは今日さえ乗り越えてしまえばなんとかなるということだ、学校なら周君がいてくれるということでこの子が近づいてこないからなんとかなる。
仮に続いたとしても学校なら逃げるのは容易だ、空き教室、男子トイレ、移動教室なんかで教室にいなければいいのだから。
「お兄ちゃんはお姉ちゃんと仲がいいの?」
「昨日、初めて話したぐらいかな」
「えー!」
「仲良さそうには見えなかったでしょ?」
「うーん……わからない!」
それは……そうか、わからなくても仕方がない、というかわかっていないのはこっちの方だし。
「静、私と鹿山君、あ、お兄ちゃんは仲がいいよ」
「やっぱりそうなんだ!」
「え……」
「しー合わせて、別にこれでも損はしないんだからいいでしょ?」
いやいや、そんな嘘をついたところで弟君と葭葉さんにとってメリットはないのだからやめた方がいいと思う。
「じゃあ好きになるのも時間の問題だってことだよね?」
「そ……れはまだわからないけど、私達は仲がいいよ」
子どもは怖い、そういえば小学生の頃にもこういう一気に飛ばして考える子がいたことを思い出した。
あと葭葉さんもなにをしているのか、後で事実を告げるよりもいまはっきりとしておいた方がショックも受けないというのに続けてしまうとは……。
「よかったっ、お姉ちゃんっていつも難しい顔をしているからお友達が怖がらないか心配だったんだっ」
「あー人の心配をしていないで自分のことに集中しなさい」
「はははっ、はーいっ」
楽しそうでいいね……。
「お兄ちゃんお兄ちゃんっ、ここが僕達のお家だから時間があるときに来てねっ」
「お、お姉ちゃんと約束をしたときにいかせてもらうよ」
「うんっ、また会おうね!」
次はないのだ。
「鹿山君」
「大丈夫だよ」
「いやなにが? それより合わせてくれてありがとう、姉弟でお世話になってばかりだね」
「周君だったら普通にする行為だよ、それじゃあこれで――まだなにかあるの……?」
優しくではあっても掴んで止めることが好きなようだ。
早い段階で折れておかないと物理的に折られかねない怖さがある、いやでも実際、どういう子なのかはわかっていないのだから不安になってしまってもなにもおかしくはないはずだ。
「連絡先を交換してほしいの、その周のことでも聞いてほしいことがあるから」
「いや――わかったよ……」
苦手だ、だけどこれは彼女が悪いわけではないから難しい話になる。
「それこそ大丈夫だよ、してもらうだけしてもらってなんにもしないような人間じゃないから」
「別にそんなことは考えていないよ」
「ならいいけど、それじゃあもう戻らないと静から色々と言われてしまうから」
「うん、またね」
一つわかってよかったことは弟君といるときに優しいお姉ちゃんになるということ、つまりあの難しそうな顔を見なくて済むということだった。
弟君がいてくれるならまた一緒に過ごすことになってもなんとかやっていけるかもしれない、ただ、その場合は強気に出られなくなるからやはり周君の方がいいけどね。
「ただいま――」
「おかえり~いや~主君、僕は見ちゃったんだよね~」
「そういうの汚いよ」
「はは、だけど慈ちゃんが主に興味を持つとは思わなかったよ」
葭葉さんが嘘をついたのか、それとも、たまたま発見して意地悪な周君が出てしまったのか、というところか。
どちらであっても質が悪い、僕なんかで遊んでも楽しくないのだからやめてもらいたいところだった。
「あ、勘違いしないでよ? 葭葉さんの中にあるのは弟君のためになんとかしたいというそれだからさ」
「別に二人がお付き合いをすることになっても全く問題ないどころかおめでたいからいいんだよ?」
「怪しいなぁ」
あの子が言っていたように本当に仲良くなってから気に入らないとか言い始めるのだ。
この場合のポイントは仲良くなったところで動くということ、相手にダメージを与えるためには効率がいいことになる。
「それで? 周君は僕をからかうために来たのかな?」
「それは主が悪い方に考えすぎ、ただ一緒に過ごしたいからだよ」
「なら泊まる?」
「お、たまにはいいかもね、着替えを取ってくるね」
「それなら付いていくよ」
ああ、やっぱり彼といられているときが一番落ち着く。
一瞬、本当に仲良くなれれば葭葉さんとだってと考えてしまったものの、そんなことには多分ならないから捨てておいたのだった。
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