第9.5話『三題噺って知ってる?』

 付いてきてない方が沢山でしょう。

だって創作論でいきなり物語の一話を例としてぶっ込んでくる馬鹿もそうそういないはずですから。


 同じ作品を擦り続けるのもアレですが、だからこそ分かりやすいのかもと思って、続けて8話のプロット、9話のお話の元になった三題噺のお話。


 三題噺というのはその名前の通り、三つのお題から話を創る文章練習の事ですね。


 これは僕が始めて小説を書いた頃に、小説を書こうと決起したバンドメンバー四人と一週間に一回、六×三のランダムお題からいっせーので三人が一つずつ選んで、それについての短いお話を書いていた時のお話です。


 此処まで読んでくださっている方がいたなら、見覚えがあると思います。

こんな所からも、物語の種って育つんですっていう事を知ってくれると、嬉しいかもしれない。


 とりあえず筆を動かしてみるもんだ、ランダムお題で苦しんででも。

 いや、実際はとても楽しかったですが。一ヶ月程で誰かしらが音を上げてそのグループは霧散しました。後はいつか書いた通り、自分以外は筆を折っています。


 ということでこのお話が9.5話の理由、8話と9話の元になった物語の種を、どうぞ。

 文章自体はずっと何かしら書いていましたし、ブラインドタッチも出来る程度にはカタカタしていましたが、物語についてまだ書き始めて二ヶ月程の頃で、まだなーーんにも知らなかった頃の自分の文章です、手直しは一切していません。

 


◆人狩り◆ 2018年9月30日~10月6日 3題『新聞 心臓 脂肪』

「今日は……、10月1日。G県M市のMさん、34歳男性かあ。おにーさん、最近毎日持ってきてくれますね」

 目の前にいる顔見知りの少女はジットリと血で湿った新聞の見出しを眺めながら新聞に包まった心臓を取り出した。

それを慣れた仕草で洗い、臓器保存液が入ったパックに入れ、日付と名前、年齢と性別を書いた付箋を貼り付け保管庫に入れる。

「お前もいい趣味してるよな。狩った人の新聞記事で心臓包んで欲しいなんて」

「えへへ、ですよね。わたし、自分でも良い趣味だと思います。

やっぱり少し寂しいじゃないですか、事故だの行方不明だのって言われてそのままいなくなっちゃうなんて。

だから私だけでもこの人は殺されちゃったんだぞー、って覚えておいてあげたいなって」

 心臓触った縁もありますしね、と照れくさそうに彼女は言う。死を前にして瞳が爛々と輝くその姿は何処か狂気じみた物を感じる。

鼻歌を歌いながら血で滲む新聞紙をファイルに入れる彼女はカードを集めている子供みたいだ。

「だったらそれ、自分で食べたらどうなんだ? 結局そういう目的で売買されるわけだろ、この心臓って」

「やですよお! ちょっと良い話してからこんなこというのもアレですけど……。わたし、手袋してなきゃ心臓触るのもいやです」

「臓器売りとして在るまじき言葉だ……、一応此処って食品の小売店だよな?」

「うわー……、確かに……。人が食べる物売ってる……。そういう言い方だとすごい嫌な感じですね。そっかー、うちって小売店かあ……。

いやいやでも! 裏稼業ってイメージの方が強いんで! そっちでお願いします!」

 そう、裏稼業。これは断じて真っ当な人間達の会話ではない。

人を殺して心臓を持ってくる俺も、それを買い取り必要な人に売り与える彼女も、もう表社会では生きられなくなった裏の人間だ。

『食えば救われる』だなんて人命にとって当たり前の事を言いだした新興宗教が台頭してきたと思えば、その実、人食を尊しとするカルトだった。

それも心臓が一番素晴らしく、万病に効くし死後の世界でも救われるなんてそんなバカみたいな説法を大声で叫んだ教祖に、金持ちの老人達が食いついた。

それから10年もしないうちにこの国から強盗という犯罪は減り、その代わりに殺人が増える。それも行方不明者や抵抗出来ない人間を狙う悪質な物。

人を殺すだけで金になってしまうのだ。今じゃ私怨で行われる殺人なんて珍しいくらいだ。

 そんな人殺しやその処理で金を稼ぐ人間の事を総称して『人狩り』と呼んだ。

厳密に言えば『人狩り』自体は人を殺す担当の事を言う。

その死体から心臓を取り出す闇医者を『心臓抜き』、それを買い取って売買するのが『臓器売り』 

他にも『解体屋』やらなんやら色々あるが、まともに生きられない狂っている奴らの集まりだということは間違い無かった。

「ねえ、おにーさん。次も人狩りですか?」

「何言ってんだ、人狩りは俺らだろ」

「じゃなくって、狩ってくる人。お兄さんが持ってくる心臓って全部同業者のじゃないですか。毎回ちゃんと記事読んでるんですから、それくらいわかりますよ」

「……偶然だろう」

「もう、義賊のつもりですか? やってることは殺しなのに、まさか売ったお金寄付なんかしてませんよね?」

「…………」

「嘘でしょ!? バカですかお兄さんは! だったらもっとほかにやることあるでしょう! 教祖殺すとか!

わたしに美味しい物でも食べさせるとか! 心臓食えなんて言ってる場合じゃないでしょ!」

 彼女は不穏な不満の言葉を漏らしつつ机をバンバンを軽く叩く。その叩く強さで冗談交じりなのが分かった。

幼く見えるが、確か10代も終わりに差し掛かっているはず、親の代から続く臓器売りとは言え、やはりこんなことばかりしていると少し感覚もおかしくなるのだろうか。

死に触れすぎている、俺も、彼女も、だから何処かおかしい。人を殺したその日に冗談を言い合っている。

「じゃあ、そのうちなんか食べに行こう。肉汁タップリのステーキとか、焼き肉でもいいぞ」

 たまには少し息抜きでもさせてやろうと思いこんなことを言ってみた、毎日人肉に触れている彼女には少し意地悪だったかもしれない。

「あ、いいですね!」

「いいのかよ……」

 呆れた顔で彼女の顔を見ると意地悪そうな顔で笑いながらこちらを見ている。

これは分かってて返事をした顔だ。

「ねえ、おにーさんは人狩りを全部殺しちゃうんですか?」

 心臓の代金をもらい帰り支度をしていると、彼女はふと神妙な顔で尋ねてくる。

「いや、次で終わりにすることにした。さっきお前も言ったろ? もっとやることあるでしょうって」

「えぇ!? 教祖って……、冗談ですよう……。その途中でおにーさんが死んじゃいますって」

 食うヤツがいなくなれば食われるヤツもいなくなる。本当は食う側を殺すのが手っ取り早いのは分かっていた。

『ほかにやることあるでしょう!』ありきたりな言葉だったが、本当のことだ。

目的の為にやるべき最善から、ずっと逃げていた。

「俺が死んだら、心臓食べてくれるか?」

「うわぁ……ロマンチックぅ……。絶対食べませんよ、でも売らずに処分はしてあげます。その代りにおにーさんの脂肪で石鹸作らせてください」

「石鹸?」

「はい、人間の脂肪で作った石鹸って良いのが出来るんですって! おにーさんで体を洗うって興奮しません?」

  発想はどうかしているが、彼女の笑顔を見ていると悪くない気もした。

それで作った石鹸とやらでこの子の狂気を洗い流せたなら死ぬのも悪くないかもしれない。

「じゃあ、俺がもし死んだらそれでいい。ちゃんと手洗ってくれよな」

「あはは、わたしは足から洗うタイプですよ」

「そうしてくれたら、一番いいんだけどな」

 そう言って、俺は笑いながら臓器売りの店を後にした。

願わくば、明日の新聞記事の一面には特大スクープが載っているといい。

石鹸じゃ心の汚れは落とせない。だから死ぬわけにはいかない。

「そういえば飯、いつ行くか決めてなかったな」

 外は晴天、澄み渡る空を見上げ数度深呼吸をし、進路を決めゆっくりと歩き出す。

その歩みのスピードとは裏腹に、心臓の高鳴りは止まらなかった。







 正直、プロットより何よりこの話が一番好きでした。三題噺として読むには、赤点な気はするんですけれどね。やっぱり日本映画の『野火』から影響受けてますね、そしてこちらは洋画の『ファイトクラブ』からも影響が見え隠れしてます。映画を見漁っていた時期だったので、良いインプットだったんでしょうね。今でも好きです『ファイトクラブ』……というよりブラピ……とエドワード・ノートンな!


 しかしこの練習方法、結構良いので試してみると良いと思いますよ。発想力もあがりますし、運が良ければ物語の種も出来ます。起承転結の練習にもなりますし。とはいっても僕は赤点なのでなんとも言えませんが、論じてはいませんが、オススメの練習方法としての紹介でした。これを以てこの『人狩り』のお話は終わりです。


 というかそろそろこの創作論のようなものも終わりかもしれないな!

「だってよ、いい加減腹ぁいっぱいだろ? 兄弟」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る