第56話【心技体】

アビゲイルとドリトルの早朝スパーリングが終わると、まだ朝食を食べていない面々が配給されている食事を食べに行った。俺は先に朝食を頂いていたのでその場に残る。


未だ広場に残っているのは上半身裸で汗をタオルで拭いているドリトルだけだった。アビゲイルはドリトルの分の食事を貰いに行っている。


俺は汗を拭くドリトルの側にあった切り株に腰掛けながらドリトルに訊いた。


「なあ、ドリトルのおっさん。少し質問していいか?」


「おっさんとは失礼だな。これでも私は次のギルドマスターだぞ。偉いんだからな」


「じゃあ、ちゃんとギルドマスターに成れたらマスターって読んでやるよ」


「当然だ。それまではドリトルさんって呼べ」


「わかったよ、おっさん」


「ぜんぜん分かってないだろ、小僧!」


「そんなことより、なんでアビゲイルと朝からスパーリングなんてしてたんだ?」


「それは彼女が望んだからだ」


そう述べるとドリトルがタオルで自分の体をパチンっと叩く。引き締まった体から乾いた良い音が鳴る。


「アビゲイルが望んだのか?」


「彼女からお願いしに来たんだぞ。格闘技系の技を実践を通して教わりたいってさ」


「それでスパーリングか?」


「流石に実践は私も怖いからね。何せアビゲイルちゃんのパワーは超人のそれを遥かに超えているからさ。あんな鉄拳を装着して殴られたら私ですら死んでしまうよ」


「それで柔術でいなしたのか」


アビゲイルは鉄拳グローブを装着している分だけスピードが僅かに落ちている。だからドリトルは技で力をいなしたのだ。


ドリトルが目元だけで微笑みながら言う。


「ほほう、柔を知っているのかい?」


「柔道や柔術の技をあんたが知っているほうが俺としては驚きだよ」


「アトラス君、それを君が何故に知っているんだい。この業界では柔はマイナーな技術だ。普通の戦士では知る者も少ないはずだぞ」


やばい、墓穴を掘った。俺が異世界転生してきた人間だとばれてまう。


「いや、あのね、それは昔に古文書で見たことがあったんだよ……」


咄嗟の嘘だが、これで誤魔化せたかな。


「流石は天童だね。勉強熱心だ」


よし、誤魔化せた。チョロい。


「私は子供のころギルドに一時的だが種属していたジゴロウ・カノウって言う若者に指導してもらったんだよ」


「カノウって……」


「んん。なんだアトラス君。ジゴロウ先生を知っているのかい?」


「いや、あったことはないけど、名前だけは知っていてね……」


うわぁ〜。また有名人が出てきたわぁ……。柔道の創設者かなんかの達人だよね。


この異世界って、間違い無く俺の居た世界の人が何人か転生して来てるよね。しかも有名人が混ざっているよ。


ドリトルがサイドストレッチのポーズを取りながら言う。


「体ッ!」


続いて正拳突きを繰り出して言う。


「技ッ!」


最後に両手でハートマークを作って言う。


「心ッ♡」


うわ、笑顔がキモイ……。


「この三つを合わせて心技体と呼び、強者の心構えとするのが武道だ。だから私は武道百般すべてを心得ている」


「なるほどね。それで、なんでアビゲイルがあんたから教えを請うたんだ?」


「なんでも彼女は武器を扱うのが不向きらしい。武器の使用が苦手なんだと。アビゲイルちゃんが自分で言っていたぞ」


「それで武器を使わない格闘技を習いたかったのか」


「そうじゃないのか。多分だけれど、前のギルド本部での一件で、素手の戦いかたでは私が一番優れていると悟ったのだろうさ。事実私は素手の戦いが強いからな」


「なるほど。ゴーレムでもファイティングスタイルが異なり、それに合わせて指導員も異なるのか……」


まあ、当然のことなのかも知れない。システム的なレベルが上がれば新たなるスキルを自動的に覚える。そんなゲーム的な学習法が存在する世界は無いはずだ。不自然である。あるとしたらゲームやラノベの世界だけだろう。


何か新しいことを学ぶ。それは、そんなに単純で簡単なことではないはずだ。それは人間もゴーレムも同じようである。


切り株に腰掛ける俺を立っているドリトルが見下ろしながら言う。


「君は魔法以外で戦わないのか?」


「俺は自分で戦うのが苦手だ。魔法も攻撃魔法は有していない。だから護衛としてアビゲイルを連れているんだよ」


するとドリトルが俺の全身を見回しながら述べた。


「アトラス君も、いまから鍛えれば、もっと強い戦士に成れると思うんだけれどな」


「俺が強い戦士にだって?」


「ああ」


「無理無理。こんな女の子よりも小さな体で戦士なんて無理だよ」


「君、まだ15歳だろ?」


「ああ、そうだよ」


「ならば、もっと大きく成長するんじゃあないか。君の父親のタッカラ氏も身長は180センチはあるだろう。それに筋肉質で厚みも十分だ」


「確かに親父は昔鍛冶屋だけあって体は大きいけるどよ」


「それに奥さんは巨乳だ」


「お袋が巨乳なのは関係ないだろ!」


「私も母親は巨乳だったぞ。ラブリリスの母親も巨乳だったしな」


「なるほど、巨乳の息子は大きく育つのか……」


俺はズボンのベルトを緩めて自分の股間を覗き込む。


「ならば、ここももっと大きく成るのかな?」


「それは関係無い」


「そんなご無体な……」


「まあ、まだ15歳だ。これから体が大きく育つ可能性だってあるだろう。だが、技術は勝手に育たない。学んで鍛えなければ成長しない。体が成長してからよりも、若いうちから学んだほうが成長率は断然に高いはずだ」


「武を学ぶなら早いほうがよいと?」


「そうだ。技術は若いころに体に刻み込めば反射として体に染み込みやすい。いざって時に、無意識で発動してくれるぞ。それが命を救うことも少なくない」


「武術を習うなら、今か……」


「しかも、最後のチャンスだぞ。18歳を超えると、そうも行かなくなる。吸収率も吸収速度も遅くなるからな」


「まあ、考えておくよ……」


すると海老スープの注がれた器をアビゲイルが運んできた。それをドリトルに差し出しながら言う。


「お食事を運んでまいりました、ティーチャー」


「「ティーチャー!?」」


俺とドリトルが仰天する。まさかアビゲイルがドリトルを先生と認めていることに驚いたのだ。


俺的には、どうせならもっとエロエロなセクシー美女を先生と崇めてもらいたかった。それが残念である。



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異世界転生したスケベな俺はメイドゴーレムとツープラトン技を決めてやるぜ! 真•ヒィッツカラルド @SutefannKing

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