第30話:エピローグ

 行っちゃったな………


 私こと有賀ありが 千草ちぐさは彼女が出ていった教室の入口を見つめながら、ただいま絶賛放心中。

 まだ私の腕の中にはモモちゃんの温もりが残っているような気がして。


 そっと自分を抱きしめた。


 ほのかに香る確かに彼女がここにいたという証。私は幻を見てたんじゃない。

 しっかりと今日、私は彼女に想いを全て伝えることが出来たんだ。

 後悔は無い。

 けれど涙は止まらない。止めどなく溢れてくる。そしてこぼれ落ちてゆく。


「大好き、だったな」


「大好き、だったんだよ」


「終わらせたく、なかったな」


「本気で、好きだったんだっ!」


 私は私しかいなくなった孤独な空間で。

 泣きながら『好き』を叫んだ。


◇ ◇ ◇


 私こと染谷そめや 桃花ももかは再び廊下を駆けていた。

 体が軽い。

『行ってきます』と『行ってらっしゃい』の効果は絶大で、背中を親友に押してもらえたからこそ、私の気持ちと身体はぐんぐんと前に進んだ。


 そして、、見つけた。


 いったいどれほど走っただろうか。

 どれくらいの時間が探しただろうか。

 どれも定かでは無いし、今はさして重要なことでも無い。


 ただ、その見覚えのある背中。

 見慣れた歩き方。

 見飽きることの無いシルエット。

 今確かに目の前につぼみちゃんがいるという事実だけが、私には一番重要だった。


「つぼみちゃん!」


 そう呼び止める。

 彼女は振り向いて私に気がつくと、途端に花が咲いたような笑顔になった。


「どうしたの?桃花ちゃん。まさか、走って私に会いに来てくれたの??」


 そんなのはどうでも良かった。


「い、今から二人で話せない、カナ!?」

「えっ?う、うん。分かった」


 私はつぼみちゃんの手を引いて、旧校舎の美術室、使われなくなったその場所へと向かった。



「随分と遠くまで来るんだね?」


 つぼみちゃんが不安げになって私を窺うようにそう言ってきた。

 私はと言えば、しっかりと美術室の鍵を後ろ手で閉める。

 これで、誰にも邪魔されない。


「ねぇ、つぼみちゃん」

「な、なに?」

「単刀直入に聞くね?つぼみちゃん、私に隠してることあるよね??」

「か、隠してること?」

「そう」

「……………な、なにも?無いけど??」

「うそ」

「えっ」

「私、知ってるんだからね?もう一回だけ聞くよ??私に隠してること、何かある???」

「…………ある」

「……………洗脳、したの?私に」

「………ぅん。……ごめん、なさい」


 つぼみちゃんは白状した。

 こうして確信から事実へと変わった。

 つぼみちゃんは私に暗示をかけて、今の私とつぼみちゃんのカノジョ×カノジョの関係は偽物。


 でも。


「ねぇ、つぼみちゃん。次の授業はなに?」


 私は次の時間もそのまま体育だ。


「えっ、と。古文、だけど」

「じゃあさ。………それ、サボらない?」

「えっ?」

「サボって、一緒にいない?だめ??」

「えっ、あ、でも、え、……怒らないの?」

「………もちろん、最初にそのことを知った時には怒りも湧いてきたし、正直がっかりもした」

「ッ」

「でも。それと同時に気づいたんだよ。というか、それを信じてるんだよ今も。私は、洗脳なんかされなくても、つぼみちゃんのことが好きだって」

「え?」

「だってさ。洗脳されてるって知っても、相変わらずこの『好き』って気持ちは消えないんだもん」

「そ、それは!私、が、暗示をかけたからで」

さ。洗脳なんて、バレたら通じるはず無いじゃん。だから、気づいちゃったんだよ。この気持ち、、



偽物なんかじゃない。




私はやっぱり、つぼみちゃんが大好き。





だから、偽物なのはこの関係だけ。

だからこそ次の時間は二人でいたいの。

もう洗脳も暗示もいらない。

本当の恋人関係。本当の両想いに。

私はなりたいよ。つぼみちゃんと」


 私はそう言って、つぼみちゃんの手を優しく握る。少し急すぎたかも。話の展開をいそぎすぎたかもしれない。

 でも、それでも私は一刻も早くこの偽りの関係に終止符を打って、新しい本物の関係へと進みたかった。


 だって、ここで進まないと。


 保健室で勇気を出してくだ女性と、

 今も空き教室にいるだろう親友が、報われないだろうから。


 だからここで、私は正々堂々とのだ。

 つぼみちゃんが、正々堂々と『好き』を伝えてくれるのを。


 つぼみちゃんは、最初こそ急な展開にオドオドとしていたけれど。

 さすがはつぼみちゃん。やっぱり賢い。

 先の展開を悟るのが早かった。

 そして決心したように。


「ねぇ、桃花ちゃん」

「………はい」

「ずっと前から大好きだった」

「っ!、、、うん」

「卑怯な手に逃げてごめんなさい」

「もう次は無いよね?」

「うん。約束する」

「それは良かった」

「うん」

「…………」

「ねぇ、桃花ちゃん」

「ふふふ。なーに?」

「私と、、、
















――――付き合ってください」




━━━━━━━━━━━━━━━

完結です!!!


どうにか本作品を完結させることが出来ました。

これも全部、読者様の応援があったからこそです。本当にありがとうございました。


もしかしたら色々と納得のいかない部分もあるかもしれません。

それに関してはごめんなさい。

それでも最後まで読んでくださったことに、ただただ感謝です。


本作品はこれで完結ですが、私はこれからも百合を書きますし、色んな百合を模索しながら書いていきます。

もしも何かの拍子にまた、私の作品を読んでくださる機会があれば、その時はまたよろしくお願いします。


それでは最後に。

ここまでお付き合いくださり、ありがとうございました。


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いつも眠たげなクラスの美少女に「あなたは私のことが大好き♡」と洗脳されそうな私。言っておきますが私の愛は重たいですよ??? 百日紅 @yurigamine33ki

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