ピースフルスーサイド

佐藤華澄

第1話

 一月三日の道頓堀WINSには格子状のシャッターが下りていて、通りは比較的閑散としていた。


 戎橋方面に向かって道頓堀商店街を歩いていくと、どんどん人が増えていく。それに比例するように、景色は徐々に華美なものへと変わっていく。立ち並ぶ店のほとんどに、目を引く豪快な装飾が施されているのである。店主のしかめっ面を模したものや、宙づりの巨大なたこ焼き。その向かいのたこ焼き屋には、赤い足を豪快に伸ばした笑顔のタコがあしらわれている。今から食べられるというのに呑気なものだ。かの有名なかに道楽の動く看板も、この通りにある。雑多で、派手で、華やか。まさに大阪らしい風景が、濃縮されてそこにあった。




 無性にたこ焼きが食べたくなって、三軒あるうちいちばん列の短い、巨大なたこ焼きの下に並んだ。それでも軽く三十人以上は並んでいる。爪先立ちで店先に掲げられたメニューを睨み、しかし身長が足りないので見えず、仕方なく千円札一枚だけを握り締めて財布を仕舞う。


 蛇行式に並んだ人々の言葉は、日本語以外の言語が大半である。ステーションという単語が聞き取れたから、これは英語。そっちはイントネーションから察するに中国語だろう。そしてあれは……なんだ? やけに半濁音が多い気がするが。判然とする前に、回転の速い列はどんどん前に進んでいって分からなくなった。ちらほら聞こえてくる日本語には案外、関西弁が多い。結局関西人は粉もんが好きなのだ。そういう自分も例外でない、東大阪生まれ東大阪育ちという生粋の奈良県民である。気づけば後ろにも長い列が続いていて、自分はその中腹にまで達していた。不意に視線を巡らせる。とはいえ視界のほとんどは、人の群れで埋め尽くされていたのだが。




 その、人と人の隙間。歩道の真ん中に目が留まった。標識を囲むように作られている、円形のベンチ。その中の、標識の支柱と石造りの腰掛の隙間。




 ソースのべったりついたたこ焼きの船。刻み生姜だけ残された発泡スチロール容器。金麦の空き缶。まだ中身が残っているペットボトル。使用済みの割り箸。片方だけの靴。その他諸々、ゴミが隙間に突っ込まれている。それらは座席にまであふれ出し、山を成していた。また一人、誰かがそこにゴミを投げ入れた。小規模な雪崩が起こる。ペットボトルが転がって、中身が路上に拡がった。それを、知らない言語で談笑に勤しむ外国人観光客が踏み抜いていく。足跡ひとつ。雑多な道頓堀商店街の中では、それすらむしろ色を添えているように見えた。




 なんだかんだ、この不法投棄の山がいちばん、大阪らしい。──まあ、東大阪生まれ東大阪育ちの奈良県民には関係のないことだ。せめて、この風景に加担だけはしないようにしよう。なんて胸中で呟いて、徐々に近づいてくるソースの香りに心躍らせた。

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