ヘラの旅路

嵐山之鬼子(KCA)

ざんねん! きみのたびは……

 何かがおかしいとは思っていた。だが、最初からすべてが仕組まれていたとは……。

 祖父よ、あなたは一体どれだけ女神に恨まれていたと言うのか!


  *   *   *


 僕達の一族では、かつて男子は15歳になると冒険の旅に出て修行を積み、伴侶を見つけて帰って来るのがならわしだった。

 しかし、先々代──つまり僕の祖父にあたる人が、とある女神に粗相してその怒りに触れたことで、呪いを受けた……らしい。

 「らしい」と言うのは、その呪いの詳細が伝わっていないからだ。ただ、その呪いを回避する方法は伝わっていた。自分達の領地(といってもたかだか町ひとつだが)を出なければ、祖神の守護を受けて無事に過ごせるのだと言う。

 しかし、僕は顔も見たことの無い(どうやら僕の生まれる前に亡くなったらしい)祖父の遺した遺言になんか縛られるのはまっぴら御免だった。そこで、一族の慣習を口実に、制止する両親や祖母を振り切って旅に出たのだ。


 初めて見る「世界」は新鮮な驚きに満ちていて、僕はすぐに呪いのことなど忘れた。

 「一族の末子」でも「領主様の所の坊ちゃん」でもない、一介の旅人──冒険者としての暮らしは、時には辛いこともあったけど、それ以上に自由闊達な気分を僕に満喫させてくれたのだ。

 大陸の端から端……とまではいかないが、各地を巡り、様々な人々と出会い、ときには旅路を共にした。

 そんな日々の中で「仲間」と呼べる相手とも出会い、それまで以上に危険な場所に赴いたり、困難な仕事も引き受けるようになっていた。


 そして、僕達は、とある町でこんな依頼を受けたのだ。

 「隣りのミュケナイの町がアマゾネスの盗賊団に占拠され、多くの女性達が捕われている。彼女達を救出し、できれば盗賊団の頭を退治してほしい」

 僕は剣の腕や知識には自信があったし、仲間のふたり(歴戦の魔女と弓使いの少女)も頼りになったが、たったひとつ問題があった。

 ミュケナイの町は今くだんの盗賊達に封鎖されていて、女しか入れない(そして運がよければ出られる)らしい。さすがに女性ふたりだけ危険な場所に派遣して、男の僕が外で待機するというわけにはいかないだろう。


 しかしその時、弓使いのメガラが、ひとつの妙案(あるいは奇案)を思いついたのだ。


 「ねえ、ヘルキュール、確かこの間の町で依頼人の老夫婦から報酬代わりにもらったアレ、まだ持ってるわよね?」


 その老夫婦からの依頼は「幽霊になった娘の未練を晴らして、天に送ってやってほしい」と言うものだった。

 首尾よく依頼を達成した僕たちは、報酬金の他に、大きめの背嚢とそれに詰められた何かを報酬としてもらったのだ。中身は、生前娘さんが愛用していた衣裳や小物の類いだ。

 捨てるには忍びないが、見ていると辛くなるので、誰かにあげてしまいたい、と言うことらしい。

 冒険者とはいえ、お年頃のメガラのために貰いうけたのだが……。残念ながら、老夫婦の娘はかなり長身でグラマーな女性だったらしく、小柄でツルペタ体型のメガラには、ほとんど合うものがなかったのだ。


 「なによ~! 私はまだ成長途中なの! もっと大人になったらボンッキュッボンッなナイスバディになるんだからーー!」


 とふてくされるメガラに生返事をしたら逆切れされ、「メガラが成長して着られる頃になるまで」責任を持って僕が保管するハメになったのだ。まあ、大きさのわりに大して重いものでもないから別にいいのだけど。

 

 ……ここまで言えば、もうおわかりだろう。メガラは僕に女装しろと言ってるのだ!


 「確かにヘル坊はなかなか可愛い顔しているからねぇ。女物の服さえ着れば、リッパに淑女に見えるだろうさ」


 いつもは僕ら年少者ふたりをたしなめるのが役目となっている大人のエレイティアも、妙に乗り気で早速袋から衣類を出して物色している。

 一見年齢不詳(たぶん40歳前後?)で、若い頃はさぞかし美人だったんだろうなぁと思わせる彼女は、その外見に見合った落ち着きと、同時に意外な茶目っけの持ち主だが、今回は後者の性分が発揮されているようだ。

 パーティーの過半数が賛成している以上、そして確かにそれが一番てっとり早い手段である以上、僕としても強硬に反対はしづらい。

 渋々、僕はふたりが厳選の末に見立てた衣裳を身に着けた。


 (まぁ、似合わなければ、ふたりもあきらめるだろうし……)


 「気分の問題だから」と悪ノリしたメガラに渡された女物の下着(それも黒の紐パン!)を履いてから、袖の無い膝下丈の山吹色のワンピースを被る。そのままだと胸がないのが丸わかりなので、胸部には革製の女物の鎧(乳房の形に膨らんでいるもの)を装備して誤魔化す。足元には編み上げのサンダルを履き、長い栗色のカツラをかぶってから、両耳には御護りを兼ねた真珠のイヤリングをつけた。いつもは背中に背負っている剣のベルトを飾り帯に変えて、腰に下げれば完成だ。


 「おっと、これもつけときな。喉仏が隠れるから」


 エレイティアが銀色のチョーカーを渡してくれたので、ありがたく首にハメておく。ここまで恥ずかしいカッコをしたと言うのに、ささいなミスでボロが出たら台無しだ。

 ニヤニヤするメガラに姿見の前まで連れていかれ、鏡を覗き込んだ時、僕は我が目を疑った。


 そこには、16歳の小柄な少年戦士は影も形も見当たらず、清楚な美しさと優雅さ、そして力強さを同時に体現したかのような女剣士の姿があった。化粧と服装のせいか、本来より多少年上の17、8歳くらいに見える。

 正直、町ですれ違ったら、僕自身も思わず目で追ってしまうような「イイ女」だ。


 「うそ、これがぼく……?」


 そう呟く声も、いつものボーイソプラノとは少しトーンの異なる、鈴を振るような可憐な声色となっている。どうやらこのチョーカーに変声の魔法がかかっているらしい。 


 「おやおや、なかなか美人さんになったじゃないか」

 「ほんとほんと。これなら、盗賊団に目をつけられること間違いなしだね!」


 しばらく自分の姿に見とれていた手前、否定はしづらい。結局、ぼくはそのままの姿で丸1日、ふたりから「年頃の女性」としての立ち居振る舞いをスパルタで教育されるハメになってしまった。


 傭兵志願者として1&2人に別れてミュケナイに入り、中では盗賊団に雇われるフリをする。頃合いを見て盗賊団のアジトを探索し、捕えられている女性達を見つけ救出。加えて、できれば百合趣味だという盗賊団のボスの目にとまって接近、隙を見て倒す……と言うのが、ぼくらの立てた大まかな作戦だ。

 当初は、ぼくとエレイティアが親子として組になり、はしっこいメガラが単独行動する予定だったが、ボスの好みは妙齢の美女らしいことから、ぼくが「放浪の女剣士」として単身行動して周囲の目をひきつけることとなった。

 (女のプライドが傷つけられたのか、メガラはぶぅたれていたが、エレイティアがうまくなだめてくれたようだ)


 はっきり言ってかなりずさんな作戦だったが、結論から言うとうまく行った。

 町に潜入して2日目に人質の場所は判明して救出のメドはたったし、5日目の夜にぼくは頭領にお酌をする役を言いつかったのだ。

 お酌……と言うか、正確には、差し向かいで飲む明かす役目。

 どうやら酔い潰してアレコレする気だったらしいが、イヤリングにかかった「体調正常化」の魔法をこっそり使っているぼくに飲み勝てるわけもなく、先に女頭領(27、8歳の妖艶な美人さんだ)の方が潰れて、あっさり捕えることができた。 

 それをキッカケに盗賊団は壊滅、人質も無事救出して、ぼくらは依頼を受けた町に凱旋したのだった。


 「おつかれさま、ヘラ」

 「うん、さすがに、疲れたな……って言うか、「ヘラ」って呼ぶのやめてよ~」

 「あはは、だって「女剣士ヘラ」はミュケナイ解放の戦姫ヒロインなんでしょ?」


 そう。女頭領を捕えてからも色々あって、この町に帰ってくるまで着替えている暇などなく、ぼくは女装をしたままだった。

 オマケに、なまじたくさんの人(人質になってた人々+捕えた盗賊達)を連れていたため、町の入り口で騒ぎになり、ぼくらがしたことが知れると、そのまま町ぐるみでお祭り騒ぎとなった。今回の件の立役者として引っ張り回されたぼくは、その可憐な容姿もあいまって町の人々から絶賛を受けたのだ。


 (おかげで、妙に顔と名前(偽名だけど)が知られてしまい、今さら「実は男なんです。テヘッ」と言い出せる雰囲気じゃなくなっちゃったなぁ。

 この町にいる間は、このまま女装してるしかないか。まぁ、もう一週間も女の子の格好してるから、だいぶ慣れたけど)


 そんなことを考えつつ、さすがに汗臭いので水浴場で水浴びでもしようかと思ったぼくは、ここ3日ほど着けたままだった胸部のレザーアーマーを外し、ドレスも脱ぎ捨てる。


 ぷるるん。


 はて、何か胸に未知の感覚が……。

 自分の身体を見下ろしたぼくは、しばし絶句し……そののち、絶叫した。


 「キャアーーーーーーーーーーーーーーーーーッッッ!」


 (うむ、悲鳴はキャアに限るな。欲を言えば、自分の悲鳴じゃない方がうれしいけど)


 そんなどこか他人のような感想を抱きながら、ぼくは意識を失った。


  *   *   *


 ──やれやれ、ようやく呪いが発動したか。


 夢(?)の中で、誰かが話しかけてくる。


 ──そなたは中々善良な気性のようじゃし、まぁ、これくらいが妥当じゃろうて。


 その声は、神々しく威厳があると同時に、どこか聞き覚えがあるようにも感じられた。


 ──お主、運がよいぞ。女とは言え人間、それも妙齢の美女となっただけで、今後呪いに脅える心配がなくなるのじゃからな。


 勝手なことを! と抗議したかったが、ふと、じゃあ最悪のケースと言うのが知りたくなる。


 ──そうじゃのぅ。元々は人間以外の何か、たとえば鹿じゃとか熊じゃとか蜘蛛じゃとかに変えることを意図してかけた呪いじゃ。


 ええっ、かけた呪い……って、貴女もしかして祖父を呪った女神様?


 ──まぁ、そういうことになるの。まったく、お主の爺ぃはとんでもない性悪じゃったぞ? もっとも、その悪党の血筋からお主のような孫が生まれてくるのじゃから、まこと人とは不思議なものよ。


 えーと、そんなにぼくのことを評価してくださっているのなら、この呪いを解いて戴きたいのですけれど……。


 ──ふむ。では、選べ。お主にかけられた呪いは解かれるが、一族の子々孫々はこれまで同様に呪いの発動に脅えつつ、故郷で縮こまって暮らしていくか、お主の呪いを解かぬ代わりに、今後生まれる一族には呪いがかかっておらぬようにするか。


 ! あえて言わせていただきますが、卑怯ですよ、それ。選択の余地がないじゃないですか。……ぼくはこのままでいいです。


 ──ホホホ、すまぬ。ずっと一緒にいたお主じゃから、後者を選ぶことなぞ、わかってはおったのじゃがな。しかし、お主の祖父なら嬉々として前者を選んだろうよ。


 そういう人間のクズにはなりたくないですからね。とくにそのクズの尻ぬぐいに振り回されてる身としては。


 ──まぁ、そう憤るな。僅かばかりではあるが、贈り物も用意しておいたからの。目が醒めたら、部屋のタンスを見てみるがよいわ。……では、さらばじゃ。お主らと一緒に旅してきたこの一年あまり、なかなか楽しかったぞ。


 ええ、女神様に言うのもナンですが、お元気で。

 ……さようなら、「メガラ」。


  *   *   *


 意識を取り戻した時、そこは町長さんから提供された宿屋の一室、水浴びに行く前にメガラと話しをしていた部屋の寝台の中だった。

 ベッドから身を起こしてみるが、勿論、メガラ──年若い狩人に身をやつした少女神の姿はなかった。


 (はぁ……本気で好きだったんだけどなぁ。あと一年ほど修行してから、故郷に帰る時、結婚を申し込もうかと思ってたのに)


 まぁ、神代でもないかぎり女神を娶るなんて不可能だろうし、女になってしまった身では、今さらお嫁さんもクソもないのだけれど。

 夢で言われた「贈り物」をタンスから引っ張りだし、それが女性剣士用の装備一式(かなり上質なもの)や、普段着や下着、一張羅の類いであることを確かめつつ、ボクは溜め息をついた。


 そう、これまた言うまでもないことながら、ボクの身体は女のままだった。救い(と言えるかわからないけど)は、体力や筋力、剣技などの各種能力に関してはとくに男の時と変わりがないことだろうか。むしろ、関節が柔軟になり、体重が減ったぶん、より俊敏かつしなやかに動けるだろう。

 このまま冒険者稼業を続けることも、とりあえずは可能なようだ。


 「あはははは、いや~、災難だったのぅ」


 背後で聞き慣れた中年女性の声がする。


 「エレイティア、いたの? てっきりメガラと一緒に消えちゃったかと思ったよ」


 時々ふたりで意味ありげな視線を交わしてたから、女神の従者か何かかと。


 「ふん、なんでワシがあのクソ生意気な女神と行かねばならんのさ。ワシは、あのメスガキがお主に悪さをせんか、見守っておったのよ」


 ?

 ???

 ……!


 「も、もしかして……まさかと思うけど……エレイティアって、いなくなったボクのお祖父ちゃん?」


 答えは、そのニヤリ笑いで十分だった。


  *   *   *


 あれから一年。

 ボクは今、故郷の町に向かって旅をしている。

 お祖父ちゃん──と呼ぶのはどうにも違和感があるので今もエレイティア(元名エリノース)って呼んでる中年の魔女とは、あの町ではしばらく行動を共にしたものの、町を出て程なくして別れた。


 なんでもあの呪いは「頭の中でいいなぁ、と思ったモノに変身してしまい、戻らなくなる」という内容だったらしい。

 呪いがいつ発動するかはランダムで、ふと空を飛ぶ鳥の姿に憧れただけで鳥になることもあれば、呪いを逆手にとろうとなりたい英雄の姿を思い浮かべ続けていても、まったく変らないこともありうる。

 エレイティアの場合は、女風呂を覗いていて(最低だ、この人)、「俺も女ならあのムフフな場所に堂々と入っていけるのに」と思った時に発動したらしい。

 幸いと言うべきか、すでに結婚して子供もいたので、女になったからと言って困ることもそうそうなかったとのこと。

 また、一度発動してしまえば呪いの発動に脅えることはないため、そのままフラフラと故郷を飛び出し、気ままに世界中を旅していたらしい。

(ボクと違って、女性になった時点で身体的能力がことごとく低下したので、魔法の腕を磨いのだとか)。


 「まぁ、慣れれば女もそうそう悪いものじゃないよ、ヘル坊……おっと、これからはヘラ嬢ちゃんだね」


 女として男とヤるセックスは、男の時のソレとは比べ物にならない快感だし、女同士のソレもなかなか味わい深いものだしね……と耳元で孫に囁かないでください。やっぱ、サイアクだ、この人。

 幸いにしてボクも、童貞のまま女になったのでないのが救いか。

 あ! 勿論相手はこのオバさんじゃなくて、消えたメガラの方ね……って、ボク、女神様に童貞切られたのか。ちょっとスゴいぞ!


 まあ、それでもボクの冒険行につきあってくれてた時の経験から、エレイティアが頼りになる人生の先輩であることはわかっていたし、血縁があるとわかればそれ以上の情もわく。

 とは言っても、エレイティアは町を出た翌朝、書き置きを残して消えてしまった。一見チャランポランだけど、多少は呪いのことを気にしてたのかもしれない。たぶん。きっと。


 ミュケナイの一件で「知勇兼備の女剣士」として妙に有名になったボクは、その後もいろいろな土地を巡りつつ、剣の腕やら人生経験やらを積んでいた。

 しかし、北の最果ての村まで来たころで、ふと里心がついたために、故郷に帰るべく足を進めているという次第。


 実際、この一年、それまで以上にいろいろな場所に行ってたくさんの人と出会い、さまざまな経験をした。

 戦闘や冒険の経験だけじゃない。

 「恋」とは言えないまでも好意と呼べる感情を抱いた男性と一夜を共にもしたし……翌日の戦場で死んじゃったけど。

 「おねーさま」と慕ってくる年下の娘を抱いたこともある……あまりに嫉妬深くて独占欲の強いヤンデレ系だったのは予想外で、ほうほうのていで逃げ出すハメになったけど。


 ──なんと言うか、呪われているような恋愛運の無さだな、我ながら。

 おかしい。女神の呪いは、もう発動しないはずなのに……。


 そんなことを考えながら、ようやく辿り着いた故郷の町をゆっくりと歩き、懐かしの我が家である領主の舘の門をくぐったところで……声をかけられた。


 「おや、お帰りなさいませ、坊ちゃん……いえ、お嬢さま、と言うべきですかな?」

 「あ、メネウス! ボクのことがわかるの?」


 メネウスは、ボクの家の使用人をとりまとめている執事のような立場の初老の男性だ。

 一応、手紙で呪いにまつわる話は伝えておいたものの、まさかひと目でボクと見抜いてもらえるとは思ってなかった。

 何しろ、今のボクは、どこからどう見ても18、9歳の清楚な美女にしか見えないはずだからだ(いや、自惚れてるワケじゃなくて、男としての目で見て、ね)。


 「ええ、それは勿論……ププッ」


 ? なんだろう。礼儀正しいメネウスが、突然後ろを向いて肩を震わせている。


 「な、何でもございません。長旅でお疲れでしょうし、皆様と積もるお話しもあることでしょう。ささ、こちらへ」


 なんか誤魔化してるみたいだけど……しょうがない。言われるままに舘に入り、ダイニングを兼ねた大広間へと足を運ぶ。


 「皆様、首を長くして、ヘラお嬢様のお帰りをお待ちしておられましたぞ」


 ? 歓迎パーティーでも用意してくれてるのかな。でも、今日帰るってことまでは伝えてないはずなんだけど……。

 大広間の扉を開けると、突然、聞き覚えのある声とともに飛びついてくる影がひとつ。


 「おかえりなさい、だーりん☆」


 ──そこには、左手に生後5ヵ月くらいの赤ん坊を抱いたメガラの姿がありましたとさ。


 オーケイ、マイガッデス。さすがにこの展開は読めなかった!


 「お義父さまお義母さまも、お義兄様たちも、首を長くして待ってたのよ」


 その呼び方からして、すでにボクの妻となることは既定事項なんですね。

 いや、ぶっちゃけ嬉しいし、子供のこともあるから責任はとるけどさ。


 ……まぁ、そんなこんなで、呪いを受けてからも、ボクは結構幸せみたいです。


~おしまい~




 それにしても、一応女神様の分際(?)で、ホイホイ自分の職務をほっぽっといていいの?


 「あ、それならダイジョーブ。代理を立てといたから」


 ? 誰?


 「この美女&美少女のカップルという、結婚式でどちらが花嫁衣裳を着ればいいのかわからない複雑怪奇な事態の元凶になった人」


 いや、元凶はキミでしょ?


 「あたしは“人”じゃないもーーん」


 ──あの祖父ひとか。まぁ、賢者に届くほどの魔力と知識をもってしても、女神の代役と言うのは大変だろうが、自業自得だ。少なくともこの子が大きくなるくらいまでは頑張ってもらおう。可愛い曽孫のためだし。

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