【僕まだ外伝】オにソースのオにオにカクヨム譚

ALT・オイラにソース・Aksya

空高くオにソース

 オイラの名前はオにソース。宇宙人だ。だけどそんなことはどうでもいい。オイラは今、カクヨムに来ている。カクヨムがどういうところかは分かるかい? とってもヤバい場所さ。エディターっていうなんかウイルス? みたいなのがカクヨム内を破壊しまくってるらしい。これは由々しき事態である。『由々しき』の意味は知らない。とにかく良くないのだ。カクヨムにはオイラの友人がいる。もしエディターに友人のアカウントが破壊されたりなんかしたら大変だ。だからエディター騒動が始まってからずっと傍観していたけど、そろそろカクヨムに参戦してやろうと思ったのだ。


「そんでここどこよ……?」


 オイラの呟きは辺りを埋めつくすビル群に吸い込まれて消えた。オイラが前回ログアウトした時には、確か秘密基地にいたはずだ。オイラが材料を出してせっせこ作った秘密基地。それが跡形もなくなり、謎のビル群になっていたのだ。泣く。


「誰かいませんか~?」


 アバターを人間フォルムにして叫ぶ。言い忘れていたけどオイラは鷹型宇宙人なのだ。もちろん人型にもなれる。だって宇宙人だもん。


 数秒経っても返事は来なかった。カクヨムの人口はエディター騒動で相当減ったと聞く。身の危険を案じて自主的に退会した人と、エディターに破壊された人がいるのだろう。今どれくらいのユーザーが残っているのか、オイラには検討もつかない。ただ、オイラの友人は今もカクヨムで活動していると言っていた。まずはその友人に会わなくてはならない。


 とりあえずオイラは友人を探すことにした。もちろん何の手掛かりもない。これからサプライズで会いに行くので、普段どこにいるのかとかも聞いていない。そもそもこの時間帯にログインしているのかどうかも分からない。まぁなんとかなるさ。


 辺りを見渡し、どちらの方角へ飛ぼうか考えていると、オイラの宇宙的な勘が背後の気配を感じ取った。


「キシャアーッ!」


 蜘蛛だ。


「なんだ蜘蛛か」


「キシャアーッ!」


 まぁいかにもSFチックなビル群だし、全身が機械で出来た1メートルくらいの蜘蛛がいたとしてもおかしくはない。ところでエディターというのはどういう見た目をしているのだろう? いくつか種類があるというのは聞いているけど、それ以外は全くだ。


 突然、オイラの右腕が飛んだ。機械蜘蛛の足に付いた鋭利で微細に振動している刃がオイラの右腕を斬ったのだ。


「そういえばカクヨムのフィールド全体で戦闘が出来るようになっていたんだっけ?」


 オイラは右腕を再生させながら機械蜘蛛に近寄り、足を全て抜いてやる。


「キシャアーッ!」


「これでよし。あんまり人にちょっかい掛けたらダメだぞ。エディターとかいう怖いやつもいるらしいからな」


 機械蜘蛛に言葉が通じているかどうかはさておき、オイラは適当に忠告をしてこの場を去ろうとした。その瞬間、オイラの右腕に何か粘着質な物が振り掛かった。


「ッ!」


 肉体が警鐘を鳴らす。毒だ。オイラはすぐに右腕を切除し、再生する。


「機械の体からどうやって毒を!?」


 オイラの肉体は金剛石をも凌ぐほど硬い。ただし腕だけは例外的に柔らかいのだ。それには理由がある。オイラが人間フォルムと宇宙人フォルムを使い分けられるのは骨格が似ているからで、逆にオイラは自分の骨格を弄れない。腕が柔らかいのは宇宙人フォルムで腕に相当する翼が柔らかいからである。オイラは翼が古くなったら切り落として新しいやつを生やすタイプの宇宙人なのだ。だから腕は斬られても再生できるのだ。


 だけど毒はまずい。物理攻撃には耐性があるオイラだが、毒だけは本当にまずいのだ。正直蜂に刺されただけで死ねる。毒が付着、及び入った場合はそこを切り離すしか助かる方法はない。今回は腕だったから良かったけど、体だったら即お陀仏だっただろう。


「なるほど、分かったぞ。こいつがエディターということだな!」


 エディターはユーザーに攻撃する。そしてオイラはこいつに攻撃された。つまりこいつはエディターである。QEDだ。駆逐してやる。


 オイラは機械蜘蛛に近寄ると亜音速の拳をお見舞いする。当然貧弱にして軟弱なエディターごときがオイラの攻撃を耐えられるはずもなく、あっという間にスクラップになった。


「ファー! 弱い弱い!」


 どうやらエディターとやらは宇宙人の敵ではなかったようだ。この調子で全てのエディターを滅ぼしてカクヨムに平和をもたらそうではないか。


「キシャアーッ!」


 ビル群の影から新しいエディターが現れた。今後こいつを蜘蛛型エディターと呼ぶことにしよう。どうやらこいつは群れでも作っているようだ。1匹やられたから出てきたという訳だろう。


「何体出てこようと、蜘蛛が鷹に勝てる訳ないんだよォーッ!」


 宇宙人だけど。


「キシャアーッ!」


 蜘蛛型エディターは足を2本高らかに掲げて叫んだ。するとなんということでしょう。ビル群の隙間から10体、20体と同じやつが現れたではありませんか。


「流石にこれだけいるとちょっと気持ち悪いな」


 きっと虫が苦手な人には分かると思うけど、群れてる虫ってなんか異様なおぞましさがあるよね。名状し難きおぞましさが。


「キシャアーッ!」


 呼び出された蜘蛛型エディターがさらに叫ぶ。するとさらに10体、20体と同じやつらが。そいつらがさらに叫んで10体、20体。さらにそいつらが叫ぶと10体、20体。


「おいおい、嘘だろ……」


 ビル群を覆いつくすほどの蜘蛛。数は100や200ではない。1体1体は小さく弱いが、毒を吐ける以上即死攻撃を繰り出してくるのと同義。エディターなんぞ全て消し飛ばしてやろうとは思っていたけど、流石に数が多すぎるか。


「逃げるしかない!」


 周りに他のユーザーはいないようだし、こういうエディターは殲滅が得意な能力を持つ人に任せた方が良い。オイラとは相性が悪い。これは敗走ではなく戦略的撤退である。


 オイラはアバターを宇宙人フォルムに変化させ、上空に飛び立った。一瞬で500メートルほど飛び上がると、ビル群の位置をパッと見ておいて、適当な方角に飛んだ。


 不思議なことに、カクヨムフィールドのビル群以外の場所は殺風景になっていた。何もない。真っ白だ。ちょうどこんな風に。


































 オイラはある程度ビル群から離れると地面に降りた。そして人間フォルムに変身する。オイラの正体が宇宙人だとバレてはいけない。飛ぶ時以外は極力、人間フォルムでいるようにしているのだ。


「しかし何もない場所だなー。どこに何があるのかさっぱり分からない」


 オイラは困り果てた。カクヨムにはエディターに対抗するためにギルドという組織があるらしく、オイラの友人もそこに所属しているらしいのだが、肝心のギルドの拠点が見当たらない。飛び回って探すのはなんだか非効率に感じる。


「という訳で人に頼ってみよう」


 オイラは不可視のキーボードに文章を打ち込んでいく。


 コンクリートの壁、表面は緑のペンキで塗られており、その上から赤い文字で『助けて』と書いてある。縦10メートル、横15メートル、厚さは3メートル。


 公開を押す。すると文章がカクヨムフィールドに作用し、改変を起こす。オイラが文章で描写した通りの物、つまり緑のペンキが塗られ、赤い文字で『助けて』と書いてある巨大なコンクリートの壁が出現した。これだけ目立つ物を置いておけば、誰かしらからは助けてもらえるだろう。


 オイラは気長に待つことにした。万が一の時のために解毒薬でも書いておこうかと思ったけど、エディターの毒がどういう物で、どう作用するのか分からなかったから諦めた。『公開』による改変は正確に描写しないと意味がない。描写していないことは改変されないからだ。例えば『時計』と書いて公開したとしても、多分およそ時計とは思えない概念的な何かが出現するだろう。色も仕組みも書いてないんだから当然そうなる。逆にそれら全てを理解して記述することさえ出来れば、『公開』で作れない物はない。


 1時間くらい経っただろうか。誰もこない。もしかしたらカクヨムは滅びてしまったのかもしれない。オイラ以外のユーザーに誰も出会わない。どういうことなんだ? エディター暴れすぎてこんなんなっちゃったの?


「仕方ない。飛んで探すか」


 重い腰をヨッコイショしようとしたその時、オイラの視界の端に光る物が見えた。人影だ。ライトをこちらに向けている。もしかしたら他のユーザーなのかもしれない。ライトはエディターじゃないよって証明かな? 照明だけにってか? ガハハのハ。


 オイラは懐中電灯を描写して『公開』し、手元に出現させた。オイラは宇宙人なので懐中電灯の仕組みを知っているのだ。宇宙人ってすごいでしょ。


 オイラがモールス信号打つみたいにピカピカ光で応答すると、その人影は近づいてきた。どうやら3人組だったようだ。


「おーい、あんた大丈夫かー? どうしたんだー?」


 顔が見えるほどの距離までくると、先頭に立っていた若い男性が声を上げた。


「いやぁ、助かった。人が全然見当たらなくて困ってたんですよ」


「あ、当たり前だろ……。平日の深夜4時だぞ……? イカれてるのか……?」


 そうか。平日の深夜4時には人がいないのか。なんでだろう? みんなご飯でも食べてるのかな?


「それで助けてほしいみたいだけど、どうしたんだい?」と小柄な男性。


「実はギルドに友人がいて、そこに行きたいんです」


「ギルド?」


 彼らは顔を見合わせる。


「ギルドって言ったってどのギルドだい?」


 え、ギルドって複数あるの?


「『King Arthur』だろ? 『イビルスター』だろ? そして『ディボーション』で、後は……」


「ちょ、ちょっと待って。そんなにあるもんなのかい?」


「そんなにあるもんなんだよ」と背の高い痩せぎすの男性が言った。彼は戸惑うオイラの様子を見て、付け加えた。


「各ギルドには特徴があるんだ。君の探してる友人が書いてるジャンルが分かればギルドを絞れるかもしれない」


 なるほど。ギルドはジャンルごとに分かれているのか。なら話は早い。


「オイラの友人は確かミステリー小説を書いていたよ」


「なら『ディボーション』だね。あそこしかない」


 なるほど。そのギルドにオイラの友人はいるのか。ところで肝心のギルドはどこにあるんだろう?


「ま、ここらで一旦自己紹介でも挟んどこうぜ。お互い素性が分からないまま話すのも不安だろうし」


 エディターがユーザーに化けている可能性を考慮しているんだね。ライトの件と言い、用心深いね。


「俺の名前は――」


 気がつけばオイラはビル群の中にいた。


 いや、オイラだけではない。オイラ達だ。オイラを助けに来てくれた作家さんも一緒にビル群のド真ん中に立っていたのだ。


「!?」


 他3人が息を呑む音がした。しかしオイラだけは違った。このビル群に何が住んでいるかを知っていたからだ。驚愕より警告が肉体を支配した。


「まずい! 逃げろ!」


 オイラがそう言った直後、まず背の高い痩せぎすの男性の顔が鼻の辺りから滑るように斬れた。次に小柄な男性の両腕が宙を舞い、彼の腹から臓物がこんにちはした。最後に若い男性がサイコロステーキのように細切れになり、その次の瞬間オイラの腕が斬られ、体に衝撃が走った。


「クソッ!」


 目の前で3人のユーザーのアカウントが破壊された。破壊されたアカウントは戻らない。しかもそれだけじゃあない。カクヨム内での死亡がリアルにどのような影響を及ぼすか……カクヨムのシステムが半ばエディターにジャックされているような現状を鑑みれば容易に想像できる。


 オイラは腕を再生し、オイラ達を切り刻んだ蜘蛛型エディターに亜音速の拳をお見舞いする。そのまま数十体をスクラップにした時、頭上から毒液が振り掛かってきたので、すぐに宇宙人フォルムになって飛んで回避した。


「いったいなんなんだ!? なんで突然ビルに……!?」


 蜘蛛達は上空のオイラに向かって毒液を噴射してくる。オイラはそれらを躱しながら、訳の分からぬままビル群を去った。


 飛びながらオイラは考えた。あれはいったいどういうことだったのかと。ビル群がオイラ達のいた場所に展開された? いや、違う。オイラの作った壁はビル群の中に放り込まれた時には消えていた。つまりビル群の中に転移させられたと考えられる。だとしたら何故? オイラ達が転移した場所にはあの機械蜘蛛達が待ち構えていた。もしかしてオイラ達を攻撃するために転移させた? そんなの……。


「あのビル群そのものがエディターみたいじゃあないか」


 あり得るのか? 飛んでビル群を抜けるのに9秒は掛かるんだぞ。つまりあのビル群の半径は3キロメートル以上あるということだ。エディターってのはそんなにデカイもんなのか?


 オイラは真っ白な地面に降りる。さっきのビル群がエディターだとしたら厄介極まりない。戦闘向きの作家でなければ……いや、戦闘向きの作家であったとしてもいきなりあそこに放り込まれては対処できないだろう。オイラは初見じゃなかったから助かったけど、初見だったら毒液を浴びせられて死んでいただろう。


 どうやらカクヨムは想像以上にヤバい状況らしい。あんなのがポンポンいたらどうしようもないだろう。なんとかした方が良いのか? でもオイラ1人じゃあどうしようもない。せめて2人なら、誰かもう1人いてくれたらきっとオイラはあのエディターに勝てるのに。


「あの……」


 声を掛けられた。オイラが振り向くとそこにいたのは、男性……いや女性……非常に中性的で小柄な人物がいた。


「エディターが出したモンスターって感じじゃあないですよね? もしかして作家さんですか?」


「いかにも。そしてオイラの秘密を知ってしまった者には死をプレゼントフォーユーしなくてはならぬな」


 オイラは出来るだけ荘厳な声でそう言った。地上に降りてから人間フォルムになるのを忘れていた。この作家はオイラの宇宙人としての姿を見てしまったのだ。そんなやつを生かす訳にはいかないのだ。


「その姿……変身系の能力ですよね。ジャンルは異世界ファンタジーですか?」


「おいおい、君はオイラが獣や鳥に見えるのかい?」


「見えますけど……?」


 そうだった。オイラは鷹型宇宙人。鳥に見えるのは当たり前か。


「良いかね? オイラは宇宙人なんだ。宇宙人であるオイラの真の姿を知ってしまった君は死ななくてはならないんだ」


「はぁ、そういうロールプレイをされてる方ですか。カクヨムが大変な状況なのに良くやりますよね」


 ロ、ロールプレイ!? なんてことを言うんだ!? オイラは本物の宇宙人だぞ!? 本物の宇宙人に会う機会なんて人生に1回か2回あるくらいだろうに。なんて失礼な物言いだ。


「いやいや、オイラは本物の宇宙人なんだ。その証拠にオイラの小説『愚者と賢者と』を読んでみると良い。変身するシーンなんてないから」


「じゃあどういう小説なんですか?」


「悪魔が人間と取引をする話だよ。能力は『他人の願いを叶える』こと」


「他人の願いを?」


「そう。自分の願いは叶えられないんだ。世の中、そう都合の良い用には出来ていないのさ」


「胡散臭いなぁ。やっぱり変身系の能力なんでしょ?」


「だから宇宙人なの! 君なんかだんだん馴れ馴れしくなってきてない!?」


 その作家はコロコロと笑った。悪い人ではなさそうだけど、オイラが宇宙人だということを微塵も信じていないようだ。


「それで、宇宙人さんはここで何をしてるんです?」


「それはこっちのセリフだよ!? しかもなんかバカにしたような言い方じゃない!? オイラの名前はオにソースだよよろしくね!?」


「あ、どうもどうも。僕の名前は――」


 気がつけばオイラ達はビル群にいた。


「同じ失敗をすると思うなよ!」


 オイラは作家の首根っこを掴むとすぐに上空に舞い上がった。コンマ数秒分遅れてオイラ達がさっきまでいた場所に機械蜘蛛達が群がる。その様子をオイラ達は上から眺めていた。


「ぐぇ、苦しい」


「ちょっと我慢しな。後、舌噛まないようにしとくんだよ」


 機械蜘蛛達は空中に手を出せない。毒液を飛ばせる射程にも限界がある。それさえ理解していればこうしてじっくり観察することも出来るのだが、何せエディターは底知れないところがある。長居して予想外の奇襲を食らったら大変だ。オイラは音速……だと連れてる作家さんに負荷が掛かりすぎるので、なるべく速めに飛んでビル群を脱出した。そして見慣れた真っ白な地面に降りる。


「ふう、なんとか逃げ切れたね」


「い、今のはいったい……?」


「エディターだよ。なんかさっきからずっと目を付けられてるんだよね」


「エディター……今のが……?」


 名前も知らぬ作家さんは考える人のポーズになった。どうやら何かを考えているようだ。


「襲ってきた蜘蛛、そして辺りのビル群……『参照型エディター』か? でもそれにしては規模があまりにも……」


 その作家は数秒黙した後、ふいに顔を上げオイラに聞いた。


「あのエディターの詳細を教えてください」


「良いだろう。あのエディターは攻撃したい対象をビル群の中に転移させ、ビル群の中に生息する機械蜘蛛に攻撃させるエディターなんだ。きっとあのビル群そのものがエディターで、機械蜘蛛もエディターの一部」


「機械蜘蛛の戦闘能力はどれくらい?」


「普通に人間を殺せる。戦闘向きの作家でも臨戦態勢じゃなきゃ多分やられる。切れ味の良い刃は人体を簡単に切断するし、強さは分からないけど毒も吐ける。オイラが軽く死ねるくらいの毒だ」


「うん、やっぱりそうだ。どう考えても『参照型エディター』だよ」


 参照型エディター?


「エディターには種類があるんだ。『擬態型』と『寄生型』、それから『参照型』の3つ。中でも『参照型』は比較的雑魚なんだ」


「でもあのエディター、少なくとも3人は作家を殺してるよ」


「うん。それに『参照型エディター』にしてはあまりにも規模が大きい。もしかしたらエディターの中でも相当強い部類に入るんじゃあないかな?」


 ほーん。あのエディターは強いエディターなのか。まぁ意味不明な奇襲できるし確かに強いかもしれない。


「ま、あのエディターのことはオイラに任せて君は早く逃げると良いよ。安全な場所まで送ってあげよう」


「いや、場面転換描写使うんで大丈夫です。それより宇宙人さんはあのエディターに勝てるんですか?」


「当たり前田のクラッカーよ。オイラは肉弾戦最強の作家だと自負しているからね」


 宇宙人が地球人と殴り合って負ける訳がない。


「でも自分じゃあ能力使えないんですよね?」


「そうだよ。だけどオイラの亜音速の拳を見切れるやつはいないはずだぜ」


「亜音速(自称)でしょ?」


 やっぱり失礼だなこの人。


「それに戦闘向きの能力を持つ作家さんの中には光速で動く人もいますよ」


「え、マジ?」


「マジ」


 マジかよ。オイラは飛んでも音速なのに。


「ま、まぁオイラは物理攻撃に対する圧倒的な耐性がありますし! これがある限り負けませんねはい」


「魔法使える人もいますし……手に魔力込めて流し込めば中から破壊することも……」


「マジかよ……」


 内側からの攻撃はズルじゃない?


「し、し、しかしオイラは空中戦では無双のはずだ! 空で鷹に敵うやつがいるかね!?」


「確かに空中戦では強いかもしれないですけど鷹の姿のままだと殴れませんよね? 肉弾戦って話はどこ行ったんですか?」


「ぐう……!?」


 なんということだ。オイラの宇宙的理論武装がこうもあっさり……。


「そんなに言うならさぁ! あのエディターを倒してくれって願ってよ! そうしたらオイラはあのエディターを倒せるのに」


「それ願うくらいなら全てのエディターを滅ぼしてとかの方が良くないですか?」


 確かに!


「というかそんなこと願って本当に実現可能なんですか?」


「当然出来るよ。ただカクヨム運営に出来ないことは出来ないけど」


「一瞬で矛盾しましたね。つまり出来ないってことじゃあないですか」


「逆に言えばカクヨム運営に出来ることは出来るんだ。全てのエディターを滅ぼすためにカクヨム運営が全力で協力してくれると考えれば心強くない?」


「なんか話をはぐらかされてる気がします……」


「はっはっはっはっは! 宇宙人の話術を見くびったらあかんでぇニチャア」


「そのニチャアとか自分で言うの恥ずかしくないんですか?」


「君結構辛辣だね!?」


 その作家は笑った。彼だか彼女だかは分からないけど、とにかく楽しそうな笑いだった。


「それで、どうするんですかあのエディター」とその作家。


「君が願ってくれないなら、能力を使わず倒すしかない」


「出来るんですか?」


「不可能じゃあない」とオイラは言って不可視のキーボードに文字を打っていく。『公開』すると手元に懐中電灯が現れた。


「オイラは宇宙人だ。物の仕組みを詳しく知っている。『公開』で武器を出して戦うことが出来るんだ」


 普通の作家はそんなことしない。自分の能力で戦った方が強いからだ。仮に能力が戦闘向きじゃあなかった場合は、自分の能力を活かす立ち回りをすれば良いだけだ。無理に武器を持って戦闘に参加する必要はない。だけどオイラは違う。オイラは自分の能力を自分で使えない。だから『公開』や素の身体能力に頼って戦わなくちゃあいけないんだ。


「懐中電灯を描写できるんですか?」


 その作家はオイラが出した懐中電灯を触ったり点けたりして性能を確かめている。


「ちゃんと動く……。他のも出せるんですか?」


「当然だよ。オイラは宇宙人だからね」


「じゃあX社の音声レコーダー出してくださいよ」


 なんか具体的だな。もちろん出せるけどさ。


「ちょちょいのちょい」


 X社の音声レコーダーを出して渡すと、その作家はそれをじっくり眺めて言った。


「わぁ、本物だぁ。ずっと欲しかったんですよね、これ」


「なんか良い様に使われてる気がする……。ま、これでオイラが宇宙人であることを信じてもらえたかな?」


「いや信じませんけど?」


「なんでだよ!?」


 気がつけばオイラはビル群の中にいた。


「なんだよもぉぉぉお! またかよぉぉぉお!」


 オイラは急いで近くにいるはずの作家を掴んで飛ぼうとした。しかし、肝心のあの作家が見当たらない。


「まさか……分断された!?」


 そんなことまで出来るのか、と内心で悪態をつく。飛んでくる毒液を回避しつつ、オイラは上空へ舞い上がった。


「クソ、どこだ? どこにいる?」


 機械蜘蛛の毒液が届かない高さまで上昇すると、オイラはあの作家を探した。しかしこのビル群の中だ。簡単には見つからない。せめて何か目印とか信号とかあれば良いのだが。


 そう思いながら探すオイラの視界の端が、僅かに光ったように見えた。そちらの方に向かうと、5体の機械蜘蛛に追われるあの作家がいた。懐中電灯を振り回して抵抗している。あの懐中電灯の光がオイラの視界に届いたようだ。さらに幸運なことに、このエディターはオイラの方に機械蜘蛛を集中させたせいで、こっちにはあまり機械蜘蛛をやれなかったようだ。


 オイラは作家と機械蜘蛛の間に割って入り、飛びかかってくる機械蜘蛛を応戦した。


「ウッシャアアアアアアアアア!」


 オイラは機械蜘蛛をスクラップにすると急いでその作家を持って飛んで逃げた。


「ぐぇ……これ場面転換で逃げちゃダメなんですか?」


「確かに!」


 と言ってもビル群には至る所に機械蜘蛛がいる。安全に場面転換をするなら空中が良いだろう。


「じゃあ場面転換の描写は任せるよ。ほら、オイラ飛んでたらキーボード打てないし」


「分かりました。これでどうでしょう?」


 空中に穴が出現する。入るとそこは何もない殺風景なカクヨムフィールドだった。穴が閉じるとその作家は開口一番こう言った。


「さっきの機械蜘蛛……もしかしたら無限湧きじゃあないんですか?」


 オイラもそう思う。


「あの蜘蛛、スクラップになった後も塵になって消えたりしなかった。もしかしたらあれはエディターじゃあないのかも」


「エディターじゃあない? それってどういうことだい?」とオイラ。


「エディターなのはあのビル群だけで、機械蜘蛛はビル群から生み出されただけの存在じゃあないかってことです。例えば、作家は唾を地面に吐き出すことが出来ますが、吐き出された唾のことをその作家と同一の存在だと見なす人はいませんよね?」


 確かにそんな風に考える人はいないだろう。


「それがあのビル群のエディターにも言えるんですよ。あのエディターにとって機械蜘蛛は唾のようなものなんです」


 オイラ達は唾に攻撃されていたのか。


「あの機械蜘蛛を破壊した時、スクラップになって残ってたのが気になってたんですよ。エディターなら塵になって消えるはずですから。だからあの機械蜘蛛はエディターじゃあない」


「もしかして、ビル群のエディターがあの機械蜘蛛を生産する能力を持っている?」


 オイラの言葉をその作家は首肯した。


「だとしたら本当に無限湧きか。そうならあの機械蜘蛛を何体倒したところで意味はないね。どうやったらあのエディターを倒せるんだろう?」


「おそらく、コアとか核とか、そういう弱点的な物があるはずです。大半のエディターにはそういうのがあると聞きました」


「なるほど。じゃあそれを見つけて破壊すれば良いんだね」


「でもエディターの核ってビー玉くらいの大きさなんですよね」


 え? あの半径3キロメートル以上もあるビル群の中から、ビー玉程度の大きさの核を見つけて壊せって?


「無理じゃない?」


「殲滅が得意な能力を持つ作家なら出来ると思いますよ」


 マジか。爆弾でも使うのかな?


「能力……能力か。そういえば君の能力ってまだ聞いてなかったよね。君は戦えるのかい?」


「戦えませんよ。まんがタイムき○らみたいなやつですから」


 まんがタイムき○ら!? なら戦えないね。仕方ない。


「だとしたら他の作家を呼んでくるのが手っ取り早いかもしれないね。君、知り合いにそういう人いないの?」


「うーん、知り合いの知り合いを当たればいるかも……。今ログインしてるか分かりませんが、基地に行ってみます?」


「いや、オイラは遠慮しとくよ。オイラ、エディターみたいな見た目してるし。まぁ地球人の姿にもなれるんだけどね」


「確かに。鷹にしては大きいですし、作品から引っ張り出された『参照型エディター』に見えますよね」


 オイラのその言葉に違和感を覚えた。


「おかしいな。オイラが最初に君にあった時、宇宙人の姿だったはずだよ。この姿がエディターに見えるなら、どうして君はオイラに声を掛けたんだい?」


 最初にオイラが声を掛けられた時、作家かと思った、と言われた。だけど今の作家の言葉によるとオイラはエディターに見えるらしい。これはどういうことだろうか。


「……そうでしたね。記憶力に自信が?」


「まぁ、あるよ。宇宙人だからね」


 少しの間、沈黙が流れた。しかしその作家はなんということでもないという風に口を開いた。


「僕、小説書くのやめようと思ってるんです」


「筆を折るってことかい?」


「はい。自分の好きな物語を書いて、それを誰かに見てもらうっていうのはすごく楽しかったんです。ですが……最近リアルの方が忙しくなって、もう執筆に割ける時間もほとんどなくて」


 リアル。それはどうしても纏わりついてくる。インターネットのどんな愉快な人間にも必ずリアルがある。ネットの世界だけで生きている訳じゃあない。いつもネットのことを優先できる訳じゃあない。人間、生きていくには仕事をしなくてはならないし、そうでなくとも最低限の生活行動をしないと、あっという間に衰える。


「僕が書いた小説も、あんまり人に求められてる気がしないんです。代表作だって、1件しかレビューが来なかった」


「1件来てるんじゃあないか。だったらそのレビューを書いた人は、君のことを求めているんだよ」


「それは……分かってるんですけど……」


 言い淀む気持ちも分かる。邪な考えだが、結局は数という考えが人間の頭の中には常にへばりついている。それはヘドロのような悪性だ。どんな良い感想、レビュー、FAをもらっても、もっと欲しいと思ってしまう。それは人間なら仕方のないことなのだ。理性では良くないことだと分かっていても、欲することをやめられない。そしてそれを真に理解している人間ほど、自分は悪い人間だと思い込み、気を病むのだ。


「……もしかして、筆を折る理由付けとして片っ端からエディターにちょっかいを掛けていたりするのかい?」


「はい」


「危険だ。カクヨムフィールド内で死んだら……」


「大丈夫です。セーフティをいくつも重ね掛けしてますから」


 だからって絶対安全とは限らないだろうに。


「筆を折るにしてもアカウントは大切にした方が良い。戻ってきたくなった時に戻れる場所がないと辛いだろう」


 その作家がどんな経験をしてきたのか、オイラには分からない。だけど想像なら出来る。オイラも作家の端くれだ。自分が書いた小説が日の目を浴びず、埋没していくのは心に来る。自分は誰にも必要とされていないんじゃあないかって錯覚する。だから筆を折りたいって気持ちが全く分からないって訳じゃあない。


「オイラがとやかく言えることじゃあないけど――」


 気がつけばオイラ達はビル群の中にいた。


「場面転換描写を!」


「もうやってます! 『公開』!」


 しかし効果は現れなかった。穴が開かないのだ。瞬時に異変を察知したオイラはその作家を掴んで飛び上がる。


「! 蜘蛛が毒を吐いてきます!」


「何か描写して防いでくれ!」


「分かりました!」


 その作家は木板を描写し、それを使って毒液を防いだ。オイラは毒液が届かない高さまで飛ぼうとする。


「今度は上です!」


「な、なんだと!?」


 ビルがねじ曲がり、オイラ達を覆った。空へ逃がすつもりはないようだ。


「まさか場面転換描写が機能しなかったのもこのエディターのせいか!?」


「こっちの動きを学習してるってことですか?」


 可能性はあり得る。事実、機械蜘蛛はオイラに斬撃が効かないとみるや、毒液での攻撃に切り替えていたし、こちらを分断しようともした。空を飛んで逃げたからビルで空への道を断ち、場面転換描写で逃げたからそれを封じた。そう考えると納得がいく。


「普通のエディターってのはこんなことするのかい!?」


「しないと思います! そもそもワープもそうですけどこのエディターは多彩過ぎる! 普通のビル群がどうやってこちらの『公開』に干渉するって言うんですか!?」


 それはそうだ。オイラはとりあえず適当なビルの中に突っ込んで、作家を下ろした。


「ガラス割るぞ!」


「割った後に言わないでもらえます!?」


 そんな軽口を挟む間もなく、ビルの一室の中にうじゃうじゃいる機械蜘蛛がこちらを睨む。


「室内にもいるとか聞いてない!」


 毒を噴射される前に音速で近づき亜音速で壊す。人間フォルムと宇宙人フォルムの高速切り替えだ。


「すみません! もしかしたら宇宙人さんの方で場面転換描写って出来たりしないですかね!?」


「え!? なんで!?」


「このエディター、一度起きたことにしか対応しません。場面転換描写は封じられましたが、描写による物質の生成は出来ました。宇宙人さんはまだビル群の中で場面転換描写を行っていない! もしこの仮説が正しければ……」


「妙案!」


 しかし突然ビルが揺れた。窓のガラスが全て割れ、地面が傾いた。まるでオイラ達を放り出そうとしているかのようだった。オイラは飛べるから大丈夫だが、あの作家は飛べない! オイラはビルから放り出されたその作家を捕まえる。安心したのも束の間、オイラの背中をビルが強打した。ダメージはないが、衝撃でオイラ達は地面に叩きつけられる。


「大丈夫か!?」


「幸い! 宇宙人さんが飛んでくれたお陰で重症で済んでます!」


「死んでないなら無傷だな!」


「そんな極端な!?」


 オイラは天を仰いだ。ビル群がオイラ達を押し潰そうと空から迫っている。オイラは潰されても死なないだろうが、身動きが取れない状態にされて毒を食らえば死ぬ。


「逃げるぞ! 場面転換!」


 オイラが不可視のキーボードに文章を叩き込むと穴が開く。穴の先には何もないカクヨムフィールドが見えた。


「これで逃げられる! 宇宙人さんも早く!」


 その作家は穴の中に半身を潜り込ませながら手を差し出した。


「……いや、オイラは残る」


「残る!? どうして!?」


「このエディターのワープは強力だ! どこに逃げても必ず転移させられる。しかもその度にこいつは学習してこちらの手を封じてくる。ジリ貧だ。ここで倒さなくちゃあいけないんだ」


「倒せるんですか!?」


 オイラは答えない。


「ッ! 能力を、能力を使えば倒せるんじゃあないですか!? 願いを叶える能力を!」


「それは……」


 言葉に詰まった。確かにその能力を使えば倒せる。しかしオイラの能力には説明していない続きがあるのだ。


「オイラの能力には制限がある。まず、願いは1人につき3つまでしか叶えられないんだ。そして、願いを叶えた人が死んだ時、オイラはその人の魂を奪う」


「魂……?」


「魂が何を指すものなのかは分からない。オイラはまだ魂を奪ったことがないからだ。だけど、この魂を奪うってのは強制なんだ。任意じゃあない。魂が何を指すか分からない以上、どんなデメリットがあるか分からない」


 オイラは人間フォルムに姿を変えた。横からは機械蜘蛛が目を光らせてにじり寄ってくる。上からはビル群が落ちてくる。この状況を、オイラは能力を使わずに切り抜けないといけない。場面転換描写で開いた穴も、エディターの影響を受けてかひとりでに閉じようとしている。時間はない。


「ここはオイラがになる! 早く逃げるんだ!」


「……だったらこれを!」


 その作家が何かを投げた。オイラは手でそれを受け取る。


「音声レコーダーです! 分断された時に、それに願いを吹き込みました! 使ってください!」


「し、しかしそれでは……オイラは君の魂を奪うことになるかもしれない」


「構いません! 死ななければ良いだけなんですから!」


 その作家はそう言った。死なないなんて、エディターが跋扈するカクヨム内では簡単なことじゃあないだろうに。


「もうすぐ穴が閉じます。必ずそのエディターを倒してくださいね」


「……もしかして、君の名前は――」


 穴が閉じた。残ったのはオイラとその手に握られた音声レコーダーだけだった。


「やるしかないのか」


 オイラはビル群を睨み付ける。もう時間はない。音声レコーダーのスイッチを入れ、オイラは音声を聞こうとして――止まった。


 どうしてもスイッチが押せなかった。押す直前で指が止まった。それは頭の中に魂を奪うという文言があったからだ。魂とは何か。作家にとっての魂とはアカウントとか作品とかだろう。ではそれらを奪うということか? 違う。カクヨム内で死んだ場合、アカウントは破壊される。それを奪ったところで何の意味もない。だとしたら魂ってなんだ? アカウントが破壊された作家から、これ以上奪える物なんて……。


 オイラは最悪の考えに行き着いた。アカウントが破壊された作家から奪える物……アカウントが破壊された作家が唯一持っている物。それは命だ。現実世界での命。セーフティを掛けていればカクヨム内で死んでもリアルでは死なない場合がある。アカウントを破壊された作家が唯一持っている物は、命なんだ。もし魂がそれのことを指しているとしたら? オイラの能力は、願いを叶えた人間がカクヨム内で死んだ場合、現実世界での命も奪う能力ということにならないか? そんな残酷な能力を運営が作るか?


 オイラは決断できなかった。可能性が頭をよぎる以上、この能力は使えない。あの人は儚い。筆を折るためにエディターに話し掛けるような人だ。そんな人の願いを叶えて、オイラの仮説が正しかったら、オイラはあの人を本当の意味で殺してしまうことになる。


 第一、他人の願いに頼りきりってのは作家としてどうなんだ。自分の道を自分で書くから作家なんじゃあないのか。こんな体たらくで、作家を名乗って良いのか。自分の能力に頼らずこの場を切り抜ける方法を考えることを放棄していないか。


「想像しろよ! 創造だろ!」


 オイラは吠え、音声レコーダーを握り潰した。そして不可視のキーボードに亜音速の指で叩き込んでいく。


 半径3キロメートル以上の範囲にあるビー玉程度の大きさの核をピンポイントで狙って壊すことは難しい。砂漠で1粒の黄粉を探すようなものだ。だったらその範囲全てを消し飛ばしてしまえばいい。


 構造は知っている。原理も知っている。材料も作り方、何もかも知っているし描写できる。なぜならオイラは宇宙人だから。


 そして機械蜘蛛達がオイラに毒液を一斉に噴射したその時、ビルが上空からオイラを潰そうとしたその時、オイラは書き上げた。


「『公開』する! 現れろ! 核爆弾!」


 現れたのは小型の核爆弾だ。しかし威力は絶大。このビル群の全域を確実に吹き飛ばす。そしてオイラはこの核爆弾を、顕現して即爆発するように描写しておいた。


 毒液がオイラに届く前に、ビル群がオイラを押し潰す前に、核爆弾はオイラの目の前で爆発した。


 爆発が目の前に広がり、オイラの視界を覆った。すぐに宇宙人フォルムになり、爪を地面に突き立てた。凄まじい爆発が、とても長い時間続いたように感じた。オイラのその間、五感の全てを奪われていた。次に視覚が戻ってきたのは、煙が晴れてきた頃だった。


 辺りを見渡す。何もない。ビル群なんて最初からなかったように、ただ真っ白なカクヨムフィールドだけがあった。オイラは吹き飛ばされた腕を再生させる。腕以外は無傷。当然だ。物理攻撃に耐性のあるオイラが核爆弾程度でどうにかなる訳がない。放射線だって全く問題ない。


「勝ったのかな?」


 オイラの呟きに答える者はいない。直後になんだかドッと疲れが襲ってきた。思えばこれが初めてのエディターとの戦闘だ。きっとこれからも、こんなやつらとバシバシ戦っていくことになるのだろう。


「気を引き締めなきゃな」


 オイラは空高く飛び上がり、カクヨムの果てへと消えていった。





 この一件以降、オイラはあの作家を見ていない。死んでしまったのか、はたまたカクヨムを去ったのか、まだカクヨムにいるのか。真相は分からない。だけど今度会った時には必ず名前を聞こうと思う。


 この物語は、オイラがエディター騒動後、初めてカクヨムに来た時の物語だ。その後の物語を綴るのは彼に任せようと思う。

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