第3話 交代
「よーし。いざ行かん化け猫退治!」
「おー!」
『おー!』
(結局連れて来てしまった、、、)
学校の休み時間になるたびに2人に「怪我人も出ているし行くのをやめよう」と説得したが、そんな言葉は若者の好奇心の前では無力であり結局3人(+悪魔1人)で行く羽目になった。
周囲を見ると同じくらいの年齢の奴らがちらほらいる。こいつらと同じように化け猫を一眼見ようと考えているのだろう。
「先に見つけられるわけにはいかん。3人で手分けして探すぞ。俺は池の方を見てくる。お前たち2人もいそうな場所を探してくれ」
そう言い残し優吾は走ってる池の方まで行ってしまった。
「じゃあ私は向こうの木の生えてるところ」
「俺はこの周辺を見て回るよ。loinのグループ通話開始しするから入ってくれ。そこで情報を共有しよう。優吾は、まぁそのうち通話に入ってくるだろ」
「了解。絶対見つけようねー」
「美沙。実害が出ている以上見つけても絶対近付かずくな。落ち着いて場所を俺に報告しろ。わかったか」
「う、うん。わかった」
確証はないが相手は魔王の力を持っている可能性がある。それがどんなもんなのかわからないが危険性があるのは間違いない。友人を危険に晒すことはできない。
足早に捜索に向かった美沙を見送り、周囲を捜索しようとする俺にアザリスが話しかけてきた。
『ここじゃない。さっきの優吾とかいう男が走って行った方だ。あの辺から魔力を感じる』
「おまっ!朝も言ったらそういう大事なことは先に言えって!」
『仕方ないだろう。感知したのがたった今なのだから。それよりも早く迎え逃げられてしまうぞ』
「言われなくてもそうするよ!おい優吾聞こえるか!早くこっちに戻ってこい!」
マイクをオンにして声をかけるが応答がない。見てみると優吾はまだ通話に入ってきていない。代わりに美沙の声が返ってきた。
「どうしたの?化け猫いた?」
「まぁ、そんな感じだ。だから絶対池の方には近づくなよ。なるべく人のいるところに行け」
美沙が何かを言っている気がしたが、気にせず雑にスマホをポケットへ押し込み優吾の元へ急ぐ。
少し走った先で青い光の玉が見えてくる。
「おいなんかあんぞ!あれか!?」
『あぁ!間違いねぇ!』
とうとう化け猫と相対する。全身の黒い毛を逆立て、牙を剥き出しにして「シャー」とこちらを向いて鳴いてくる。周りの青い光の玉さえ無ければその様子はまさに威嚇する普通猫である。
「お前の力が宿ってるとか言ってたからもっとでかいのかと思ってた」
『俺の力が宿ったお前はデカくなったのか?』
「確かに」
くだらん問答をしながら周囲を確認していると化け猫の奥に人が倒れているのが見えた。暗くて確証はないが背丈的に優吾である可能性が高い。
『前を見やがれバカ!!』
「えっ?」
なにが起きたんだろう?体が動かない。気を失ったのか?どれくらい?生きてるのか?優吾は?あの化け猫をどうにかしないと。
「本当に弱いな。魔法でもない魔力の塊を受けただけで気絶するとは。なんて非力で役に立たない生き物なんだ」
声が聞こえる。あの悪魔の声だ。不思議と意識がはっきりしてきた。
『しょうがないだろ。そんなもん見たこともないんだから!それにそんなに言うなら戦い方くらい教えろよ』
「その必要はない。今からは俺が戦う」
何を言ってるいる?こいつが戦う?どうやって?いや待て
意識ははっきりしてるし喋ることもできる。なのになぜか体の感覚はない。
歩いてる感覚もないのに目に映る情報では俺は真っ直ぐ化け猫に向かっている。こいつの言葉の意味的にもそれってつまり、、、。
『お前が体を動かしてるのか!?』
「やっと気づいたのかバカ。原理はわからんがあの魔力の塊が直撃したことが原因なのはタイミング的に間違いないだろう」
『待てよ一生このままなんて勘弁だぞ!ちゃんと元に戻るんだろうな』
「そこが問題なんだ。元に戻らないのなら気兼ねなく戦えるが、元に戻る可能性がある以上早めにけりをつけたい。だからごちゃごちゃ言わずに静かに見てろよ」
いろいろ言いたいことはある。しかし元に戻っても俺では戦えない。だから今はこいつが言ってることに従う他ない。
「”開かれるのは魔の扉。対象は魔力を纒いし黒き獣。罰の数だけその身を切り刻め”〈ナーブル・スラッシュ〉」
空中に現れた3本の剣が猫の体を切り刻む。
猫はその場に倒れ込むが周りの魔力の塊は一斉にアザリスへ向けて放たれた。
「”現れしは鉄壁の盾。害ある攻撃から我が身を守れ”
〈ハッド・シード〉」
腕を前に伸ばすと透明な膜のようなものが現れる。魔力の塊はそれに触れると溶けるように空中で消えた。
猫はもうなにもしてこない。しかしまるで睨みつけるように目でアザリスを見てくる。それを気にせず猫に近づき手をかざす。
黒い霧状の何かが猫の体から浮き出てくる。それはアザリスの体へと取り込まれていきやがて猫の体からはそれは出てこなくなった。
『終わったのか、、、?』
「いやまだだ。”自然の力よ、我が命に従い、罪なき命を世に繋ぎ止めろ”〈リカバリング〉」
緑の光に当てられ切り刻まれた猫の体はあっという間に元の姿に戻っていった。
目をぱちくりさせて、こちらを一瞥すると晴翔が走って来た方へと走っていった。
『・・・魔王ってのはもっと悪いやつだと思ってた。なんか印象が変わったよ』
「別にそう思っててもらって構わん。予想通りあれは俺の力を持っていた。しかしそのせいで暴走していた。つまり責任は俺にある。王である俺がその責任から逃げるわけにはいかない。そんなことよりもあの男もさっさと治してしまうぞ」
そう言って倒れ込む男に近づく。顔を見てみるとやはり優吾であった。幸いにも大した怪我もなく、先ほどの魔法で傷を治すことができた。
『あとは自然に目も覚めるだろう。目的も達成した。さっさと帰るとす、、、』
「ん?どうし、、、あっ。戻ってる」
肉体の主導権が再び晴翔になる。体の自由を失ったアザリスはこれ以上ないほどに悔しそうに叫びを上げた。
『優吾のやつはこのままいけば明後日から学校に来れるらしいぞ』
「そんなんだ。安心したよー」
あの後、救急車を呼んで優吾は病院へ搬送された。と言っても本人曰く車内で意識を取り戻し病院に着く頃には元気だったらしい。念のため1日入院することとなったが、医者も問題なく退院できると言っているらしい。
化け猫に関しては退治できたし、話題が自然消滅するまで待つこととした。
「教えてくれてありがとう。安心したら眠くなって来ちゃった明日も学校だし寝るね」
『おう。ゆっくり休めよ。おやすみ』
通話は切れた。それでも天内美沙はスマホの画面を眺め続ける。
「朝は結婚したら名字が天宮か天内になるとか言ってた。化け猫退治の時には私を心配して近づかないように注意してくれた。今もゆっくり休めって言ってくれた。優しいなぁ晴翔」
今日1日の晴翔との会話を思い出しながらうっとりした口調で1人呟く美沙。
『美沙。相手は悪魔を宿してる。だから、、、』
「殺さなきゃいけない。分かってるから何度も同じこと言わないでミカエル」
『ならいいけど。あの男に恋してるあなたがが本当に殺せるか不安で』
「晴翔は殺さないよ。殺すのは晴翔に寄生してる悪魔だけ。大丈夫だよ晴翔。すぐに元に戻してあげるからね」
雨宮美沙。大天使ミカエルをその身に宿すこと以外はただの恋する女子高生である。
魔王の力の50分の1が俺の中に宿りました 中町直樹 @NN0707
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。魔王の力の50分の1が俺の中に宿りましたの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます