気取らない恋の思い

 年を取ればとるほど、他人の目を気にするようになる。
 だが、元来、恋というのは「自分」と「相手」との間で行うものであって、その他の大勢からは切り離されている。言うなれば、自分たちが主人公なのであって、残りの人々は、二人の恋愛においてはモブでしかない。
 それなのに、大人に近づけばちかづくほど、恋の場面においてもモブを気にするようになっている。もちろん、それは誤りだろう。目的が逆転してしまっている。

 本作において、著者が鮮やかに描いているのは、ストレートな思い。他人のために気取ることをしない、恋本来の思いだ。その気持ちは甘く、そして濃い。ゆえに力強さを持って、私たちに語りかけて来る。私たちが、衆人の前で恥ずかしい思いをしないようにと、普段から身につけている鎧を、無理やり取っ払ってしまうのだ。

 読んでいる私たちを等身大に戻すのである。気恥ずかしさを覚えるのも当然だろう。
 だが、カッコつけてどうなるんだと、著者の偽らない恋心は読者を優しく諭している。
 自分の恋において主人公なのは、大多数のモブではない。自分と、常に意中の「相手」である。その人からどう思われるか以外、私たちにとってはどうでもいいことのはずなのだ。

 いつの間にか忘れてしまった、だれかに夢中になることの素晴らしさ。それが自然と思い返される、ダイナミックな連作であろう。人間関係に悩むことの多い当代だからこそ、色んな方に読んで思い出してほしい。恋は、すてきだ。