映画を意識した連想ゲームのような描写は、物語の背景がわからない序盤を勢いよく牽引してくれる。その反面、場面が途切れ途切れになってしまうので、どのくらい最終的な目的地に進んでいるのかという不安を覚える読者も少なからずいるだろう。だがそれも、前半で「待つ」という言葉が印象的に使われているところからも明らかなとおり、読者と主人公との気持ちをシンクロさせるための技巧であることがわかれば、一気に親しみを覚えるはずだ。人を選ばぬ現代ドラマ――丁寧な心理描写によって紡がれる濃密な世界を、是非とも味わい尽くしてほしい。