第4話 ついでに、北斎さんのビンボー話。

 北斎さんて、馬琴ちゃん同様、もともとは武士の出なんですよ。「忠臣蔵」ってェ、メジャーな時代劇があるじゃないですか。んで、吉良の屋敷に赤穂浪士が討ち入ったとき、この浪士さんらとチャンチャンバラバラ。獅子奮闘して、あっぱれ討ち死にした小林平八郎ってェ立派なお侍さんが、北斎さんのひいおじいちゃまってワケ。


 でもね。そのあと、吉良って幕府からお取り潰しになっちゃったでしょ。だから可哀想に、ひいおじいちゃまの討ち死には報われず、小林家は没落して、北斎さんのパパ上の頃は超ビンボー暮らし。おっかさんも若死にしちゃって、結局、幼い北斎さんは叔父さんのところに身を寄せるんですけどね。


 この叔父さんというのが、中島さんてェ、幕府御用鏡師。何人もの職人さんを使って、大奥に納めるきれいな鏡をつくっていたんですけどね。で、ガキの北斎さんも鏡づくりを手伝うことになったんですけど、これが性に合わない。えっ、なぜかって?鏡づくりって、お江戸当時の作り方は省きますけど、昔からの慣例しきたりどおりで、毎日おんなじことの繰り返しなんですよ。もともとクリエイティブな資質の北斎さんは向いていないんですね。


 で、15の春に叔父さんの家を飛び出して、貸本屋の丁稚でっちどんなんかを皮切りに、彫師の見習いになったりと、ビンボー暮らし突入ってワケです。そうこうするうちに、「オイラ、やっぱし、好きな絵を描きたい。お絵師さんになるんだ」ってんで、勝川春勝さんてェ、花形絵師のところにツテを頼って入門というか、拭き掃除・掃き掃除アリ、パシリの内弟子となります。


 ここで19から15年間ほど、絵の修行に明け暮れるんですが、北斎さんはこのときがいちばん楽しかったかもデス。お師匠さんも「オメエはたいしたもんだ。オイラの弟子はいっぺえいるけど、オメエの才能がいっちすげェや」なんて、目をかけてくれ、旅行なんかにも連れて行ってくれる、かわいがられよう。


 しかしながら人生、好事魔多しでんな。かわいがってくれたお師匠さんが、突然、ポックリ、あの世へ逝ったのが運のツキ。いままで、「ありゃ、エコヒイキじゃね」なんて嫉妬していた兄弟子らが寄ってたかって、イジメの嵐。あげく、「もう勝川派から破門だァ」なんて、言い渡されちゃって、モー大変ってェワケでゲス。


 やむなく北斎さん。一匹オオカミの絵師になりましたけど、はぐれ者の絵師なんて仕事がありゃしませんぜ。たまにあっても、画料はのみのションベン、のナミダ程度。でね、一味唐辛子やこよみなんかをトボトボ売り歩き、なんとかホソボソと糊口ここうをしのいでいたら、やっぱし絵の天才、栴檀せんだん双葉ふたばよりかんばしってヤツですよね。天才ってのは、鼻のきく人には独特の香気がありんす。


 でね。ひょんな縁で蔦屋重三郎さんと知り合うや、天才の香気ってェのを敏感に嗅ぎわけられ、「こいつ、ひょっとしたら絵師として大化けするかも」なんてェ認められつつありました。そんな頃に、蔦屋さんの手代として地道に頑張っていた馬琴ちゃんと天才同士、相まみえるってェワケです。


 ――つづく(次回あたりから、ボチボチ本題に入りますね)

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