第3話 馬琴ちゃんのビンボー話を一席
本題に入る前に、馬琴ちゃんのビンボー話をしておきまひょ。どうも馬琴ちゃんて、ムダにプライドが高かったみたいで、それゆえ若い頃は失敗の連続でござんした。
旗本の家に仕える二本差しのおうちに生まれ、殿さまの孫の小姓となったまではいいが、このガキ孫がとんでもないクズ。甘やかされ放題に育ち、
でもね、小姓の馬琴ちゃんが忍耐強ければ、ノープロブレムだったのですが、そうは問屋がおろしまへん。この男も若気の至りで辛抱がない。途中からアホくさくなって、わがまま放題のガキ孫のアホ顔を見るのもイヤになり、「オラやめた」って
こうなると、馬琴ちゃんは、変に自尊の念が強いだけに、完全に自我が崩壊し、破れかぶれで放蕩三昧。酒を浴びて、夜鷹を買い、梅毒バッチリうつされて散々でござんす(この当時、夜鷹の梅毒感染率90%)。
で、身をもちくずし、江戸は流れ流れて深川裏長屋。ここで、1枚16文の筆耕バイトをしたり、占いの真似事なんかで、おかゆをすするような超ビンボー暮らしをしておりましたが、ある日、「これではいかぬ」と一念発起。戯作者として売れっ子だった山東京伝センセイの家に、酒樽ひとつ引っ提げて頭を下げました。
「京伝さん、弟子にしておくんなせえ」
すると、京伝センセイ、お女郎さんあがりの女房の隣で、
「おメエさん、文を書くのが上手らしいけど、でもさァ、戯作なんてェ読み物は、習ってどうこうできるもんじゃありませんぜ。でえいち、オイラ、弟子をとらないんでさァ」
「そこをなんとか」
「ふーむ。まいったね。では、弟子とまではいかないけど、うちへときどき遊びにおいでな。その程度で勘弁してくんな」
「あ、ありがとうございます」
そうこうするうちに、師匠の京伝さんは、幕府から「くだらぬ本なんか書きやがって。風紀を乱す不届き者め」ってんで、
でもね、お女郎さん相手の貸本屋から、一代で江戸随一の版元に成り上がった重三郎さんは、これしきのことではメゲませんぜ。
「また、這い上がってやるさ」
そんなとき、馬琴ちゃんは京伝センセイから蔦屋に奉公しながら、コツコツ地道に戯作修行してはどうかと勧められ、重三郎さんの手代となったワケです。
でもね。武士ともあろう者が、身分の低い商売人の下で働くなんて……って、当初はかなり渋ったらしいですよ。
食うや食わずの極貧生活だのに、ムダにプライドの高い馬琴ちゃん。この癖は一生、なおりませんでしたとさ。
――つづく(次回は、たぶん北斎さんのビンボー話です)
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