第三十話 第二次戦
余波だけで周囲の建物は軒並み崩され、直撃した地は生命の一切が繁栄することの無い死の大地と化す。さながら、息絶えた砂の大地のように。
あまりにも理不尽な光景、相対することがどれだけ愚かな判断なのか……否が応でも理解してしまう。
基礎生命としての
〝不定の化身〟――
人が人たらしめる理由が〝理性〟と〝知恵〟なのだとすれば、竜が竜たらしめるのは〝本能〟と〝力〟だ。他の生命体を凌駕する本能、あらゆる生命体を蹂躙する圧倒的な力。
理不尽だがそれが摂理、不定な理だが、それは狂いようのない事実。
「クッ、ソ――」
バンッ、と瓦礫を退かし悪態を吐きながら地面から這い上がる一人の男がいた。そして、そのすぐ近くの瓦礫も少ししてガラガラと崩れもう一人、牧師の男が這い出て来る。
「ローシュム、生きてるか」
「何とか……ふぅ、あなたのおかげで命拾いしましたよ」
命辛々、生き残ったという風に一息を吐くヴァーリとローシュム。
彼らは
しかし、ヴァーリの張った障壁は彼が持ち得る最大の防御手段、その性能は一介の魔術師のものとは比較にならないほどの性能であった筈だが、たかが余波を防ぐために使用することになった。
彼は自身の持つ魔力の大半を消費することになった。次に
……だが、第一――それは、あれがイグナイスの本気であればの話である。
仮に、イグナイスがまだ本領を出し始めただけなのであるならば、彼に生き残る方法は無いのだろう。
「クソが、あんな生命体がいてたまるか……」
忌々しいモノを見る目をイグナイスに向けるヴァーリ。自身の全力を以てしても一切の意味がない現状、これから先、どんなに自身が魔術を究めようと到達できない壁を見て、彼は憎悪と嘆きを叫ぶように言葉をこぼした。
だが――それはあまりにも間違っていた。
そもそも、魔術師というのは限界を知って尚、世界の〝真理〟を目指す者たちである。初めから結末を知って、それでも探究を続けるが故に魔術師であり、到達できないことなど先刻承知である。
彼らはただ、次へ繋ぐ者であり、繋いだ先に真理があるのだと信じて妄信する、一種の異常者。
であるなら、眼前の越えられない壁、到達できない結果があるとして、何の問題もない。魔術師とは、越えられない到達できないモノをあらゆる術を尽くして越えて、到達する者たちなのだから。
それは人間の在るべき正しい形の一つだ。何も――何も間違ってない。
「チッ。偵察のつもりだったが、こうも被害を被るとはな」
「そうですね。〝竜〟という存在、想定していた以上のバケモノのようです」
切り替えるようにそう口にする二人。
「身をもって体験したが、アレを殲滅するのにこの戦力がどうかしている。協会も教会も、竜の出現を把握しておきながら、この程度の戦力しか投下しないとは、一体どういう思考回路をしているんだ」
愚痴をこぼすようにそういい、心底呆れたようにため息を吐いた。
「同意ですが、仕方ないでしょう。これでもアレは当初より規模は小さくなっています、不可能という事はないです。それは三年前のリリィ・アーネットが証明しています」
「…………」
「それに何よりこの国は何かと厄ネタが多いですからね、協会も教会もあまり関わりたくはないのでしょう」
ヴァーリはなるほど、と納得するように頷いた。
確かにこの国、日本は小さい島国でありながら協会や教会、様々な組織内で悪い噂が流れている。かと言ってそれらはあくまで噂、その程度で〝竜〟という大災害に大した手を尽くさないのはおかしいだろう。
「それも理由の一つだろうが、双方、そこまで人命救助に関心のある組織じゃないのが一番だろうがな」
「でしょうね」
彼は司祭の立場でありながら、そう平然とその言葉に同意した。
「〝目的の為に手段を選ばない探究者〟と〝異端の排除と神の恩恵を預かる者の裁定者〟、双方そんな者達の集まりだ。前者は興味がなければ何もせず、後者は異端でなければ我関せず、貴様たちだけでも送られてきたことが不思議なくらいだ」
あまりにも対応が雑な自身の所属組織に嘆くようにそう言った。
「例の条約のため渋々送られた人員ですよ、我々は」
「だろうな」
小さく笑うヴァーリ、その笑いはどこか彼を同情するようなそんなものだった。
二人の眼前には、
「こんなモノ、一体どうしろと言うんだ……?」
火焔竜は全てを焼き尽くし、一人の少女は一人絶望の荒野で希望を紡ぐ。そして、彼の者は――静かにその秤を揺らしていた。
星架の望み(ステラデイズ) 零元天魔 @reigentenm
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