第二十九話 最悪の焔

 周囲が昼間より尚明るく光った次の瞬間、音がすべて消え、爆破による凄まじい暴風が吹き荒れた。

 体を持っていかれないように地面に掴まり、暴風が止まるのをただひたすらに待ち続ける。頭の中で警報のようなものが鳴り響いていた。うるさくて、うるさくて、たまらない。

 周囲の情報が遮断されている今、よりその警報は確かなモノとなっている。

 その警報が、この場の危険性を訴えるものかのか、それ以外に対してのものなのか、全然理解できない。俺に理解できることはただ一つ。


 この音は――何もできない俺を、急かしてくる。


 無力さを痛感している。だが、元より無力であることは理解している、承知の上でこの場でいる。

 第一、何かをするために俺はここにいない。まあ、強いて言えば、彼女を、クレアを見届けるためにこの場にいるが、その目的は現在進行形で果たされている。

 であれば、一体この警報は、何をしろと言っているのだろうか?

 白い世界の中、唯一真面に感じられるこの音に疑問を抱いた。

 この耳鳴りの様な不快な警報音。これは、もしかしたら――術を持っていながら、それを行使しない愚者への叱咤なのかもしれない。

 そんな思考が頭を過った直後、白い世界が終わりを告げ、世界は再び暗い夜の世界へと還っていった。

 「う……嘘、だろ……?」

 視界の光景に驚愕の声を漏らす。

 そこには――更地と化した街が広がっていた。

 イグナイスが向いていた方向は確か、星十字団とやらの仮拠点の在った場所だ。その仮拠点の周囲一帯、あるいはイグナイスの放った青白の光弾の射線上の物体、それら全てが消し飛んでいる。

 あれは、一生物が行っていい芸当じゃない。いくら空から降ってきた星の破片と言えど、限度を超えている。

 あんなのに、〝勝てる〟のか……?

 プシューと白い息を吐いているイグナイスの姿を見てそう思った。

 直感だが、あれですら、まだあの怪物の本気ではないのだろう。それほどまでに、〝竜〟という存在は大きなモノで、俺という小さな人間に計り知れない存在なのだと理解させられる。

 ほとほと呆れる存在だ。あんなものに勝てる人間が、この世にいる筈が無い。そんな事が可能なら、それは人間じゃない。


 そう――



 ――――――そうか?―――――


 ジリジリと頭にノイズが走る。 


 ―――――なら、やっぱり―――――


 気分が悪い音だ。頭に響いた警報音以上に、俺を最悪な気分にさせる。

 

 ―――――遠の昔に―――――


 知る必要のない事実を突きつけるように、それは――


 ―――――■■■■■■―――――


 〝壊れたキカイ〟に、メモリーを差し込んだ。


 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 ビィィィィッ―――――!!!


 「――ッはぁ。ハアハア、ハアハア……」

 激しい耳鳴りと同時、急激に意識が引き戻される。

 遠のいた意識は過去を追憶し、逆刃大叢真という人間を構成する一つの要因となった者、あるいは言葉を振り返り、壊れる〝個〟を無理やり繋ぎ止めた。

 しかし――

 「俺は、一体――何を観た……?」

 霧散した意識が見たモノを、俺自身が自覚することはできなかった。俺はただ、胸の中に溢れる謎の懐かしさに、疑問を抱き続けることしか、できない。

 「……ん? 何の音だ」

 ふと、周囲から正体不明の音が聞こえた。

 人の足音? でもこの音の大きさは……

 周囲から聞こえた音は人の足音のようだが、明らかに数がおかしい。

 「――っ」

 辺りを見渡し、驚いた。

 そこには、星十字団の仮拠点で見たような服装な人物たちが、大量にこちらに近づいて来ていた。百や二百なんて数じゃない、五百を越える数の人間がこの場に集まっていた。

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