黒い虫をやっつけろ! 王太子視点

 マイネンの別荘に近づいた所で休憩を取った。マイネンの別荘は領土の端にあり、道も入り組み複雑な場所にあった。罠や待ち伏せに警戒しつつ進んでいた為、思ったよりも多く時間が掛かってしまった。魔術士は味方だと頼もしいが敵に回ると厄介この上ない。ギル殿にホグマイヤー様へ伝言を頼み、馬の並足であと三十分程度でマイネンの別荘に着く事を伝えた。


 時刻は夜の帳が下りる頃だった。


 すぐに、「んじゃあ、あと十五分したらそっち行くか。お前ら少し進んでろ」と、返事が届いた。


 休憩を終わらせ、馬でゆっくりとマイネンの別荘に近づいていると、ギル殿が光った。


 魔法陣が現れ、ホグマイヤー様が現れた。



「よー。あいつの家、現金もたんまりあったぞ。安心しろ、現金に手は着けてない、証拠になるだろ?あ、趣味の悪いアクセサリーも証拠にいるか?返した方がいいか?でも、もう貰ったしなア。ヘンリーに聞いといてくれ、必要なら売ってやろう。現金は誰も取らないように第一騎士の奴に見張らせてるぞ。ランが見たら目の色変えて喜びそうな束だったな。別荘も色々ありそうだよなア」



 近くまで行き様子を見るか、と言われ、我々はマイネンの別荘の近くまで馬をゆっくりと走らせた。


 騎士の一人が駆け付け、伝令が届いたと報告をした。マイネンの家を我々が出てすぐに陛下からの魔鳩が届き急ぎ駆け付けたようだ。



「コロン伯爵は捕らえた。家族全員だ。法務官の取り調べを始めている。コロン領も抑える。王宮の魔術局も問題ない。マイネンは逃亡の恐れがある為援軍を送っている。国境、港も抑えてある。周辺の領主にも通達は出した。マイネンの屋敷周辺を固めておけ。新しく情報が入り次第すぐに知らせる」



 陛下からの魔鳩を読み、マイネンの屋敷周辺で班を分け待機となった。開けた場所で休憩を取りながら援軍を待つ事になった。


 了解の魔鳩を送り待機している場所を教えた。次の指示は別荘近くの街の宿屋に送るとあった。


 待機になった事もホグマイヤー様は気にしておられないようで、煙草を吸われたり、時々ふらりと出かけてはまた戻って来てを繰り返されていた。


 次の日の朝に援軍は到着した。一度戻した第一騎士と第二騎士の援軍が加わった。作戦会議だ、とホグマイヤー様を呼びマイネンの別荘へ突入する事を伝えると、箱と瓶、手紙を見て笑われていた。



「ジョージ、ロブ。さっき、ランや、ロゼッタに手紙送ったら、ロゼッタが良い物送って来たぞ。ロゼッタが開発したねばねば薬だ。お前らも見た事あるだろ?」



 私は大きな黒い瓶を見るが首を傾げた。



「おいおい、王太子は黒い虫を見た事ないのか。甘ったれだな、一度王都の南の洞窟に行ってみろ、たんまりいるぞ。ジョージ、一回連れて行ってやろうか。ロブ、お前はうちの商品を知ってるか?あの商品のべたべたした所あるだろ、あれがこれだ」



 ブルワー法務大臣が頷く。



「成程、コレを紙に薄く塗られているのですか。これを今回お使いになるのですか?」


「ああ、面白えだろ?ロゼッタは考える事がえげつねえんだよ。まあ、ランにアドバイス貰っただろうがな。すげえ魔女だろ。今、自信なくしてるがなア、大体が怖い物無しなんだよ。お前には無理だとか、止めとけとか言われても言う事聞かねえよ。見てておもしれえ奴だ。瘤作って泣きそうな顔して噛みついて来るからな。目線が違うんだ。ランは真っすぐで怖いけどな、あいつは肝心な所が優しいからなあ。ロゼッタは魔女だなア、ヒヒヒ、本人は気付いてない所が恐ろしいよ。で、ジョージ。今からこれを使うとする。お前ならどう使う?」



 ニヤニヤとホグマイヤー様は笑われ、ぽーいぽーいと大きな瓶を投げられて遊ばれている。



「ほらほら、もう少し進んだ所で作戦会議だ。それまで考えてろ。おい、ロブ、ロゼッタが菓子もくれたぞ。お前も食べるか?」



 私が考えていると、ジル殿が黒い液の取り扱い説明書の紙をくれた。これを今から作戦に使う。確かにこういう物を使えば、魔術師の罠に対抗できるかもしれない。


 私は説明書を読みながら頭を回転させていた。


 近くの騎士にねばねばを使った商品の構造を聞きながら、どう使うのが一番良いか考える。


 騎士の人数も増員出来た。ホグマイヤー様の魔術を頼るにしても、魔術の罠解除等にお願いしたい。我々が突入する事を考え、ねばねばがかからない様にしたい。


 どうしたものか。


 作戦場所に付くと、ホグマイヤー様が紙をヒラヒラさせて、ヒヒヒと笑っていた。



「さあて、ジョージ。お前の作戦を聞こうか。時間は無いぞ、すぐにムッツリ大臣を捕まえないとなア」


「は。ねばねばした液体を使う事を考える作戦となりますと、屋敷の周りに撒くか、屋敷の中に投げ入れる事になります。ただ、どちらも突入の事や捕縛の事を考えますと使いづらいかと。騎士がねばねばに引っかからないようにしないといけません。やはり、一つの場所に撒き、そこに敵を誘導するのが良いでしょうか」


「三点だな。おい、ロブ、お前はどうだ?」



 菓子のクッキーをサクサク言わせながらホグマイヤー様は言われた。菓子の箱を出され、お前も食べるか?美味いぞと言われ箱を渡された。一枚クッキーを取ると、騎士にも回してやれと言われ、近くの騎士に箱を渡す。



「は、先程説明書を読みましたら可燃性との事でありました、火矢に使うのはどうでしょうか?魔術師も炎の魔法を使うのをためらうのではないでしょうか?一方には撒いて退路を塞ぐのはどうでしょうか」



 私は成程、と思いながらブルワー法務大臣の作戦に頷く。



「うん、まあ、発想は良いな。ただ、証拠はどうする。ムッツリ、焼き殺すか?五点だな」


「ホグマイヤー様の作戦をお聞きしても宜しいでしょうか?」



 私はホグマイヤー様に向き、教えを乞う。



「ヒヒヒ、答えはこの中だ、いいか、聞け。「巣ごとの黒い虫のやっつけ方ですか?師匠、説明書読みました?そうですね、まず、巣の周辺の出入り出来そうな所を一か所を除きねばねばで固めます。撒くんじゃないですよ。出れないように固めます。中に撒いたり面倒な事はしないですよ。次に、少し離れた所、そこに出入り口があるはずです。黒い虫は離れた所に出入り口何か所か作りますからね。そこもねばねばで固めます。無理そうなら外にねばねば撒いておきますかね。」


 一度ホグマイヤー様は息継ぎされ、ヒヒヒ、あー、最高だな、と言われ、続きを読まれた。


「最後に一カ所開けていた出入り口から臭いスプレーを中に噴射します。痒いのと目潰しと両方ですね、混ぜると煙が出るんですよ。師匠試しました?すごいですよ。で、最後の入り口も固めます。暫く待つと弱っているんじゃないですか?良いと思いますよ?もし、離れた出入り口が分からなくても煙出ますから急いでそこにいってねばねば撒いたらいいんじゃないですか?」だ、そうだ。これなら、火も使わず、証拠も綺麗なまま。そして、抜け道も塞ぐ事を忘れるな。少し離れた所が怪しいらしいぞ?どうだ、うちの新米魔女は優秀だろ?」



 私は納得した。成程、抜け道はあるはずだ。そして、それは少し離れた場所。もし発見できずとも、煙が出れば、おのずと分かる。しかも火による煙ではない。ホグマイヤー様曰く、死なない程度の煙らしい。但し、喉も目もやられる、そして臭い。



「素晴らしいですな。騎士は出て来た所を捕まえれば良い、ねばねばで勝手に捕まってるかもしれぬ。仕掛けられた罠の心配もない。しかも、喉も目もやられ、嗅覚もやられていては魔術も上手く使えない」



 ブルワー法務大臣も頷く。



「だろう?それにな、消臭剤も目薬もマスクもこちらはある。あ、使用した物はマックスに請求するからな。ジョージ、お前でもいいが、ちゃんと言っといてくれ。ある程度落ち着けば中に入るのは問題ないだろう。この案はお前らには少し難しいがな。臭いスプレーを知ってないと無理だ。とは言っても、先の討伐で使ったんだ。作戦に入れて良いはずだ。いいか、頭を使え。強い物が勝つんじゃない、ズルい奴が生き残るんだ。生きる為になんでも使え。無駄死にはするなよ、うちの弟子、最高だろう?」



 ヒヒヒ、と笑いながらホグマイヤー様はポーチから新しい菓子を出し食べ始めた。


 ジェーン嬢の可愛い姿を思い出すが、へへっと笑いながらねばねばを使ってる姿や、臭いスプレーを、うわーっと言いながら噴射している姿を想像した。


 成程、ぷんぷん怒っている、姉弟子のラン嬢よりも怖い物がある。私は頷くと、騎士とブルワー法務大臣と作戦を完全に詰める事にした。


 ホグマイヤー様は手紙を読むと、ヒヒヒと笑いながら、あ、あいつ、本使ったかな、まあいいか、どうにかするだろ、と言いながら煙草に火を点けられていた。










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