その頃の師匠達 王太子視点

 私が馬を走らせ、ブルワー法務大臣と騎士二人と共に第一騎士団と合流した所で、ホグマイヤー様の使い魔が光られた。


 ぽおっと使い魔殿が光られて、魔法陣と共にホグマイヤー様が現れた。



「よう、ジョージ、調子はどうだ?」


「は、王都のマイネンの屋敷は空であったと報告を受け、第二軍団が周辺警備を、第一騎士の一部が館を押さえております。マイネンの領地の方の館にむかう途中の第一騎士団と合流した所です。ロイス第一騎士団長がまもなく参ります」



 ホグマイヤー様と話をしていると、ロイス団長が駆け足でやって来た。私に礼をし、ブルワー法務大臣、ホグマイヤー様にも礼をした。



「マイネンの屋敷は明かりが少しも灯っていません。この時間ですがあまりに不自然です。暗闇で待ち伏せしているか、おそらく別荘に逃亡したと思われます。準備が調い次第、屋敷の中に突入致します」


「分かった。王宮の状況は第三からの伝令の通りだ。マイネンはホグマイヤー様の弟子、ジェーン嬢の誘拐にも関わっている。家族全員捕縛の命が出た。大人しく従わない場合は生きていれば良いと陛下から言われている」


「は」



 私とロイス団長の話が終わるとホグマイヤー様が話し掛けられた。



「よー、ジョージ。あと、ロイスか。お前ら暗いなら明かりを点けろよ。見えないだろ?バカだなア。燃やさなければいいよなア。王都でやるとうるさいかもしれんが、ここ、マイネンの領地だろう?じゃあいいな、領民から文句が来るのはマイネンだ。もう夜も明けるし問題ないな。あと、ジョージ。悪い奴の物は俺の物っておとぎ話あったよなア。特別ボーナス貰っていいよなア」



 ニタリとホグマイヤー様は笑われると、私が返事をする前にプカリと浮かばれた。そして、どんどん上空へ上がっていくと、上からロイス団長に話し掛けられた。



「おい、あそこに見える、大きな館だな。黒い虫が張り付いてるな。んじゃあ明かりを着けてやろう。お前ら急いで向こうに行け。ここで馬は降りろ。走れ。どれくらいで行ける?ん?そんなかけんのかよ。三分で行け。三分後に目を一回閉じろ。馬にはカバーをかけてやろう」



 我々は馬を降り、近くに繋ぐとホグマイヤー様は馬の周りに薄い膜を掛けられた。



「ほら、数えるぞ。走れ。最後の奴のケツには火球打ち込んでやるかな。いーっち、にー---、さー--ん」



 ホグマイヤー様は数を数えだした。とにかく言われた通りに早く屋敷に行かなければ。


 ロイス団長も、「三分後に突入だ。急げ。聞こえたな、三分後に一度目を閉じろ。ホグマイヤー様に打ち込まれるぞ!目を潰されるぞ!」と、激を飛ばし、騎士を走らせた。



 息を切らしながらマイネンの屋敷に到着すると、「んじゃあー、いっくぞー。お前らいいかー。照明だぞー」と言う声がホグマイヤー様から聞こえると、上空が真昼の様に明るくなった。


 照明と言われたが、我々が普段使っている照明魔法のレベルではない。太陽が出来たのかと思う位の眩しさだった。


 木の陰に隠れていた者。屋敷の屋根に潜んでいた者などが、ホグマイヤー様の声に気付き上を見上げたのだろう、呻きながら目を押さえていた。


 私達も一瞬目がくらんだが、目を閉じたおかげで大丈夫だった。ブルワー法務大臣はいち早く木の陰に潜んでいた者を取り押さえていた。



「ほら、落とすぞー。誰か受け取れー」



 ホグマイヤー様の声と共に、うわあーーーー、や、ぎゃーーーーっと言う叫び声が聞こえ、屋根から何人かがボトボトと落ちて来た。



「んじゃあ、中に入るか。私が先にめぼしい物取っても文句言うなよ。一応罠が無いか調べてやる。これはサービスだな、あ、でも、魔術以外の罠は解除出来ないかもしれんぞ?古典的なシンプルな罠が結局一番使えるんだよなあ。罠に引っかかっても私のせいにすんなよ。自己責任だ」



 ホグマイヤー様は屋根に降りられ屋根をトンと杖で叩かれた。屋敷全体が光り魔法陣が空に浮かんだ。魔法陣が消えると、屋敷からぱすんっと言う音が聞こえた。



「やらしい魔術、こそこそ掛けやがって。ムッツリ野郎だな。腐っても魔術大臣だなア。お前ら一応気を付けろよ。んじゃあな、私は先に頂くぞ。残らずかっさらってやる。ヒヒヒ」


「「は」」



 ロイス団長とブルワー法務大臣が返事をしたが、盗賊のお頭のような話の内容だ。


 私も近くに転がる大臣の手下を縛りながら屋敷の中へ突入した。


 入ってすぐの屋敷のドアの裏には魔法陣が焦げて張り付いていた。突入すると何らかの魔法の仕掛けが発動していたのだろう。屋敷のドアを騎士が開けていくが誰も潜んではいないようだった。どうも、木の陰や屋根に張り付いていた手下は、私達が突入したのを見届ける為の様だ。ブルワー法務大臣が手下の一人を縛りあげ、屋敷の中に連れて来た。



「屋敷の中を案内させましょう。不穏な事をすればまだ転がしてる者はおります。代わりはいますのですぐに処分して問題はありません」



 ブルワー法務大臣が拘束した者を処分などするはずもなかろうに、マイネンの手下は顔を青くし震えながら屋敷の中を案内する。屋敷の中は所々焦げ臭い匂いがし、辺りを見ると天井やドア、窓などに魔法陣が焼き付いていた。


 屋敷中に罠がなされていたようだ。ホグマイヤー様がいなければ、被害があったのは間違いない。



「おーい。こっちに来い」



 ホグマイヤー様の声が下の方から聞こえ食堂の奥に行くと隠し扉があり、地下室があった。



「ほら、ここ、ファン草の跡がある。これ、証拠で押さえとけ。ここに一度保管したんだな。あと、屋根裏も変な隙間があるぞ。調べろ。三階の東の部屋の上だな。じゃあ、私はめぼしい金目の物を頂くか、お土産分は稼がないとなあ。ランは高価な物であれば文句言わんだろうが、ロゼッタは趣味が分からんな。あいつ、男の趣味が悪かったからな。変な物が好きかもな。気持ち悪い絵があったが、あれはいらんだろうなあ。まあ、適当でいいか」



 ブルワー法務大臣はホグマイヤー様に礼をすると、捕らえた手下に三階の東の部屋に案内させた。


 私とロイス団長は証拠を押さえ、陛下に魔鳩を飛ばし現状の説明をした。ここを第一騎士が封鎖し、マイネンの別荘の方に暫くしてむかう事を送った。


 一時間程調べ、第一騎士を三班に分け、王宮に手下を送る者、軍団の交代が来るまでこの場に残る者、マイネンの別荘に行く者に分けられた。


 陛下から返信の魔鳩が届き、現状了解した。急ぎ、マイネンを捕らえよ、との事で、このままマイネンの別荘へむかう事が決まった。


 ホグマイヤー様は、「見ろよ、この金にエメラルドの指輪。ゴテゴテして趣味悪いな。でも貰っておこう。あの花瓶も趣味悪いな、でもルビーがたんまりだ、貰っておこう。おい、そこのお前、十代の娘が好きそうな物はこの辺あるか?うん?アクセサリーか。じゃあ、趣味悪いが、この重たいばかりのサファイアのネックレスも貰っておこう」と言ってポーチに入れられていた。



「ホグマイヤー様、マイネンの別荘に向かいますが、宜しいでしょうか?」



 ロイス団長がホグマイヤー様に聞かれると、ホグマイヤー様は黒猫の使い魔に手紙を持たせていた。



「ああ、いいぞ。お前らこのまま走るのか?馬にポーション飲ませたら回復するかな。一応渡しておくか。これはマックス支払いでいいな。馬を潰さん程度にお前ら先に走ってろ。で、休憩もしておけよ。私も適当にする。ああ、私はこのまま少しこの屋敷を見る。隠し部屋がまだあるからな、開けといてやる。でも、高そうな物は貰っとくぞ。呪いの物とかあればランが喜びそうだなあ。本は貰ったらダメか?ロゼッタにやろうかと思うが。ベッドの下の本は怒るかな。お前欲しいか?ギルはまたジョージに付けとくぞ、じゃあ、また後でな」


「いえ、私は結構です。一度確認させて頂ければ、本も持っていかれて問題ないかと。国王陛下も納得されると思います」



 私が話が終わるとひらひらと手を振られ、ホグマイヤー様は近くにいる騎士に声を掛けると、お前もくるか?手伝え、と言われ、引きずるように一緒に屋敷の奥に入って行った。


 騎士の顔は若干引きつっていて、すがるように他の騎士達を見たが他の騎士は目をそらしていた。いい経験が出来ると思うのだが、若い騎士は昔お忍びで王都の市場で見た売られていく子牛の様だった。



「さ、早く行きましょう。マイネンの別荘までは少し距離がありますからな。また何か罠もあるかもしれません。気を付けて参りましょう」



 ブルワー法務大臣は何事も無いように言われ、「ああ、気を付けよう」と言い、皆で馬に乗り、マイネンの別荘へと走らせた。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る