モラクスさんの教え

 その後、無事に飛竜で飛び続け東の森があるコロン伯爵の領地へと入った。


 飛竜は東の森には入れないので、第四軍団から指示をされた屋敷に降りた。飛竜が降り立とうとすると、建物の中から人が出てきて手を振った。



「ジロウ隊長ですね。ハワード隊長が休憩の時に魔鳩を飛ばしていたので、お待ちになっていたようです」



 私は手を振る人に目を凝らしても、ジロウ隊長とは分からなかった。飛竜乗りの人って目も良い。


 飛竜が着地する瞬間はおへその下がひゅっとなる感じがして、ぞわっとして苦手だった。私がホーソンさんに安全ベルトを外して貰っていると、ランさんはハワード隊長に、有難うと言ってネーロさんからぴょんっと飛び降りていた。



 凄い。



 私は、ホーソンさんから抱きかかえられる形でチェリアさんから降ろして貰った。もう、力が入らない。地面に降りた後もプルプル足が震えたが、どうにか立つ事が出来、ランさんに支えて貰った。



「ハワード隊長、お待ちしてました。ラン嬢、ジェーン嬢、ご協力ありがとうございます」



 ジロウ隊長がハワード隊長と私達に話しかけた。ランさんはどうもーと手を振っている。



「ジロウ隊長。ラン嬢、ジェーン嬢をお連れしました。国王陛下からの書類等もありますが、ダンツ男爵もこちらに?この屋敷で、お二人も過ごされて良いのですか?飛竜もこのままで良いですか?」


「ハワード隊長、お疲れ様です。はい、先程ダンツ男爵も到着されました。屋敷の中に移動しましょう。コロンの街中では飛竜は降ろせませんので少し街から距離はありますがここを使われて下さい。東の森に行くのもここからの方が近いですし、移動の事を考えると便利だと思います。飛竜は屋敷の裏に使ってない倉庫があるそうです。大きな倉庫でしたから、そこで休まれてはどうでしょうか。外がいいならそのままでも」



 ハワード隊長はホーソンさんに頷くと、ホーソンさんが裏の倉庫を飛竜達と見て決めると言われた。



「では、中へ。コロン伯爵の別邸ですが、コロン伯爵と家族は王都にて現在法務官の取り調べを受けています。この別邸、取り調べ中にコロン伯爵より好きに使って良いとサイン頂いてますから、お二人は好きに過ごされて下さい。第四の軍団隊員も数名常駐させてます。何かあれば隊員に言って貰えれば、私に伝わります。ああ、ダンツ男爵とはコロン伯爵の従弟です。隣の領にいたので呼んでいます。客間にて話をしましょう」



 ジロウ隊長が案内をしてくれる。客間に案内されると中年の男性が一人待っていた。



「この度は軍団の方にはご迷惑をお掛けして、申し訳ありません。コロンの従弟に当たります。キース・ダンツです。頼りない従兄ではありましたが、まさかこんな事になるとは。皆様、申し訳ありません」



 ダンツ男爵は深々と頭を下げられる。



「ダンツ男爵、今後の事は陛下が決められましょう。今は早急に東の森の魔物とファン草をどうにかしなければなりません。また、領内にファン草の被害が無いか調べなくてはなりません。領内の冒険者に声を掛けて貰えますか?軍団よりも、冒険者の方が東の森や領内の事は詳しいでしょう」



 ハワード隊長がダンツ男爵の方へ向き話をしていく。



「今はコロン伯爵の領内の権限を全て凍結しております。権限は国王陛下にありますが、陛下から一時的にダンツ男爵にコロン領の伯爵代理を命じられました。こちらが国王陛下からの任命書になります。もうすぐ、王宮から事務官の方が来られ、その方がダンツ男爵の補佐に就く事になります。ダンツ男爵にコロン領の権限が移った方が領民も受け入れやすいはずです。コロン伯爵は取り調べの最中ですが、今後コロン領、王都の屋敷の取り調べ、捜査等もあるでしょう。早急の解決にご協力下さい」



 ダンツ男爵は静かに頷かれた。



「かしこまりました。伯爵代理の命、国王陛下より謹んで承りました。各役所にすぐに伝えます。私の権限ですぐに書類等は押さえましょう。また、冒険者ギルドにもすぐに魔鳩を飛ばします」


「宜しくお願いします」



 私はランさんに支えられソファーに座って少し落ち着いた。飛竜の旅は頻繁は無理ね。


 ジロウ隊長、ハワード隊長が、ダンツ男爵と話をしていく。ダンツ男爵がメイドを呼び、魔女様、お疲れなら休まれますか?と私に聞いた。


 私は素直に頷き、ランさんに少し休みます、と言い、メイドさんと隊員さんに付き添われ部屋に案内して貰った。部屋に着き、二人にお礼を言うとベッドに倒れこんだ。何だろう、すごくだるい。飛竜ってこんなに疲れるのね。



「皆、何かあったらよろしくね。ちょっと疲れたみたい」




 私はフォルちゃんとアルちゃんに声を掛けると意識を手放した。



 私が夢の中をふよふよ彷徨っていると、声が聞こえた。






「ロゼッタ」





 私が振り向くとモラクスさんがいた。



「モラクスさん。お久しぶりです。あれ?ここは?」



 私は何もない空間に浮いていた。周りは小さな粒子が飛び回っている。魔力の塊だろうか。



「ここは夢の中と、私の世界の狭間だな。あまり長くはいない方がいいが、お前に伝え忘れていたからな。急ぐぞ、手を出せ」


「はい」



 私はモラクスさんに手を出す。



「ロゼッタ・ジェーン。お前と私は契りを結び、私とお前は力を渡し合う。お前はその制御を覚えろ。今、お前は私に魔力を垂れ流している。まあ、私は構わんが。お前ともう少し一緒にいる方が楽しいからな。ジュリエッタから言われなかったか?良いか。解るか?この流れだ。この流れをコントロールしろ」



 私とモラクスさんの間に魔力の帯が出来ていた。



「お前の魔力が私に流れ出し枯渇に近づくとな、感情のコントロールも難しくなる。普通の魔力枯渇と違ってな、我らの魔力がお前の魔力に混じるのだ。今のお前にとっては毒に近いな。それによってお前の弱い部分が曝け出る。我ら悪魔の得意技だ。魔力枯渇に気付きにくくなる。いいか、魔力を鍛える為には精神を鍛えろ。魔女の言葉には力がある」



 モラクスさんの渋い声が体に響く。耳で聞いてる感じではない。不思議な感覚だ。私は意識を集中し、魔力の流れを感じるようにする。



「お前は私と契りを結んだんだ。誰よりも強くあれ。よその奴に食われるな。自分を信じろ。お前の魔力は真っすぐだ、美味い。契りの間は我の物だ。ははは、ジュリエッタを思い出すな。よく似ている。魔力が落ち着いたら、お前の使い魔に分けてやれ。喜ぶだろう。良し。出来そうだな。夢に戻すぞ。あと、髪の色が変化するが、気にするな」


「はい」



 私が返事をすると、私は夢の中ではなくベッドの上で、目が覚めていた。アルちゃんとフォルちゃんが傍にいた。私は二匹を撫でながら、もう大丈夫だよ、と言った。



 そうか、旅の途中からふらふらだったのは魔力垂れ流しのせいだったのか。



 成程。私は魔力の流れを自分に留めるようにした。



 胸がドキドキしていたのが落ち着いてきた。感情のコントロールが出来ないなんて。



 とりあえず、精神を鍛えるようにしないと。どうやるんだろ、確かに師匠は精神力強そうだ。師匠の真似をしていけばいいのかな。



 私はパンっと頬を叩いた。



 私は私の好きなようにやれば良いのよ。



 ま、どうにかなるでしょ。これからは魔女の礼だって、ふんぞり返って受けましょ。


 モラクスさんと使い魔ちゃん達の繋がりは小さな川の様な物なのかな。私の大きな河に小さな川が出来たからそちらにずっと魔力が流れて行ってたのね。時々せき止めたり、流したりしないといけないのか。


 納得したが、師匠、本をくれた理由をしっかり教えて下さいよ。と、ちょっと思い、二匹を撫でながらそのまま眠った。

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