王宮飛竜舎
次の日の朝から薬屋は臨時休業となった。
突然の休みでもご近所さん達は驚かなかった。
「まあねえ、ゆっくり休むといいよ。なんかあったら教えてやるさ。使い魔達か軍団の人に言えばいいんだろう?」
私達が休みの挨拶にご近所を回ると裏の奥さん達から言われた。
「ご迷惑おかけしますねー。暫くは不定期で店は開ける予定です。長くは休みませんよー。面白い物仕入れたら店に置きますんで覗いて下さい。帰ってきたらまた挨拶に行きますねー。これどうぞー」
ランさんはご近所に試作品の携帯食料を配り、店を留守にする間も軍団警備が店に付く事を説明した。
薬屋から見送るウェルちゃんは少し心配そうだったけど、ジルちゃんといい子にお店を守ってね、というと、アルちゃんとフォルちゃんとお話しをして、ピピっと鳴いてくれた。
ジルちゃんは任せとけと、しっぽをピンと立てて振ってくれた。
私達は二匹に手を振って店を出ると鍵を閉めた。店にはこれで誰も入ることは出来ないはず。
それでも絶対は無い。
使い魔も守っているが、キムハン副隊長やピットマンさんは店の見回りをしてくれると言っていた。
キムハン副隊長さんは少し困った顔をされて、「申し訳ないとは思わないで下さいね。魔術大臣の手の者が店を狙っている可能性がありますから。お二人がいない時を狙う可能性もあるのですよ。なので、怪しい者がいないか、同じような者が不自然に何度も見てないか等定期的に見回る必要があるのです」と、言われた。
「魔物の確認が出来れば、ランさんが一度は帰る予定です。なるべく早く帰ってきます。見回り宜しくお願いします。店の周囲で何かおかしなことがあったら、ウェルの名前を呼んで下さい。お二人の事は伝えているので現れます。ウェルに伝えて頂ければ私に伝わりますので。ジルちゃんも助けてくれますよ」
私達は話を終えて、キムハン副隊長達にも手を振り店を後にした。
王宮にある飛竜舎は初めて行くが、裏門の方が近いとの事で乗合バスで普段降りる表門ではなく裏門で降りた。
師匠のブローチはあれからずっと着けている。
門番の人が私の使い魔を見て一瞬ビクッとしたけど、名前を言うとすんなり通された。
裏門から少し歩くと大きな屋根が見えて、それが飛竜舎だった。
王都に第五の人が来る時はここに飛竜を休ませるらしい。
ホーソンさんが先に歩き、飛竜舎の中に声を掛けた。
「おはようございます。ホーソンです。ジェーン嬢と、ラン嬢をお連れしました」
ホーソンさんが飛竜舎の中に声を掛けると、中にいた隊員達や飛竜ちゃんが一斉にこちらを見た。
飛竜を間近で見たのは初めてで、思ってたよりもずっと大きかった。
馬よりちょっと大きなくらいかな?と思っていたけど、馬の二倍位ありそう。足の太さが違う。アルちゃんが大きくなるとこんな感じかもしれない。
アルちゃんに、ちょっと似てる?と聞くと、ぺっと舌を出された。
「おおー。飛竜って迫力ありますねー。どうもー。ランだよー」
ランさんは飛竜に挨拶をしていた。
私も挨拶をする。
「どうも、ロゼッタ・ジェーンです。飛竜さん、初めまして。宜しくお願いします」
私が礼をすると、奥からおじいさんが笑いながら歩いて来た。
「ははは。お嬢さん達、ご丁寧にどうも。こいつらも宜しくってさ。そっちの子達は使い魔かい?ホグマイヤー様の使い魔とは違うね。お弟子さんかい?」
「どうもー。師匠の弟子のランです。おじいさんも隊員さんですか?師匠の子達を知ってるんですか?ここにいますよー」
「こりゃあ、ランさんどうも。おお、久しぶりだなあ。バル殿だな。私もバルだから覚えておるよ。元気そうだなあ」
バルちゃんはバルおじいさんにウインクした。
「おじいさんの名前もバルなんですかー?」
「私はアルバルトなのさ。ホグマイヤー様にお会いした時に名前を言ったら「じゃあお前は今日からはバル二号な」って言われたなあ。杖でも頭叩かれたし、痛かったよ。懐かしいなあ。今日東の森に行く薬師はお嬢ちゃん達だったんだね。薬師長が行きたかったと、残念がってたそうだよ。私は飛竜の世話係だよ。軍団隊員は退役したがね、飛竜が好きで世話係に鞍替えしたのさ」
師匠、バル二号って・・・。
他にもジル二号、ギル二号がいそうね。
「宜しくお願いします。アルバルトさん。師匠の弟子で魔女のロゼッタ・ジェーンです。こっちは私の使い魔のフォルと・・・・アルです」
ぶはっとランさんが笑った。
「こりゃ参った。アル二号にもなっちまったな」
ふはは、と笑われ、ランさんも笑い、ホーソンさんも困った顔して笑われた。
「なんだかすみません」
私が困った顔をして言うと、いやいやと手をアルバルトさんが振られた。
「魔女さんの使い魔の名前と二度も同じなんて光栄だね。ジェーン嬢はアル二号って呼ぶかい?フォル殿、アル殿、宜しくな。光栄ついでに礼をして良いかな?」
ランさんはぶはっとまた笑っていた。
「アル二号とは呼びませんけど。私で良ければ礼をされて良いですよ」
こりゃ、光栄だ、と言いながらアルバルトさんは礼をされ、私は頷いて、ランさんはまだ笑っていた。
私達が話しているとハワード隊長が来られた。
「待たせたかな?おはようございます、ラン嬢、ジェーン嬢、バル殿、アル殿、フォル殿。ホーソンもサンドーさんも楽しそうだな」
「ハワード隊長、私はホグマイヤー様の使い魔からジェーン嬢の使い魔にもなっちまったんだよ」
私達はハワード隊長に挨拶をして礼をした。
「アルバルトさん、私はなんて呼んでいいのかなー?アルさん?バルさん?」
「可愛い嬢ちゃんからならアルさんでもバルさんでもなんでもいいさ。二人が乗る飛竜の準備は出来てるよ。連れてくるから待ってな。ハワード隊長は今日は別嬪に囲まれて羨ましいねえ」
アルバルトさんは飛竜の方へ歩いて行くと、二匹の飛竜に合図をした。
「いや、別に囲まれてなどは・・・」
私の肩に乗ってるアルちゃんがハワード隊長にペッと舌を出した。
私が優しくアルちゃんを撫でると、アルちゃんは目を瞑り気持ちよさそうにしていた。
フォルちゃんも私の足にしっぽをすりすりつけている。
甘えんぼさんだ。
ホーソンさんがその光景を見てにっこりした。
「フォル殿はとても勇ましいが、ジェーン嬢がいるとやっぱり甘えるのだな。とても可愛く見える」
ホーソンさんの言葉にフォルちゃんはピクリと反応して、私の足からしっぽを離した。
あら、恥ずかしいのかな。
「ハワード隊長、表に出していいかい?」
アルバルトさんが声を掛け、飛竜を二匹連れて来た。
一匹は黒い飛竜でもう一匹は赤い飛竜だった。
「もう準備は出来てるよ。お嬢さん方、気を付けていっておいで。楽しい空の旅を」
私達がアルバルトさんにお礼を言うとアルバルトさんは飛竜舎に戻って行った。
「サンドーさんは大ベテランの飛竜乗りだ。飛行距離で誰もサンド―さんには敵わないな。さて、こちらの黒の飛竜がネーロで、私の相棒だ。赤の飛竜がホーソンのチェリアだ、ではラン嬢はこちらへ、ホーソンはジェーン嬢を頼む」
ホーソンさんがハワード隊長に礼をした。
「ホーソンさん、チェリアさん、宜しくお願いします」
私が挨拶するとチェリアさんは可愛くウインクをしてくれた。使い魔の子達もチェリアさんに挨拶をしていた。
「ジェーン嬢、これはゴーグルです。飛竜は風魔法で飛びます。飛竜の周りの風は弱くなりますが、ゴーグルをしないと目を開けるのはきついかと。こちらのマントもお使い下さい。上空は冷えます。どうぞ」
「成程、あ、ランさん。これはあれが使えますね。ランさんどうぞ」
「おー。ロゼッタ、流石。スーパー防護マスク、サードタイプ!!これがあれば完璧ねー」
私達は防護マスクを着け、飛竜に乗った。
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