私は私の出来る事を

 師匠は王宮から帰って来た。


「よー、帰ったぞ。疲れたから寝る。ロゼッタ、これ貰ってくな。あ、ラン。ファン草患者の薬作る準備しといてくれ」


「はーい、師匠。今日は店、早く閉めていいですかー?」


 ランさんが師匠に聞くと、「好きにしろ」と言って、師匠は私のおやつを口に入れながら工房へ入って行った。


 その後暫くしてハワード副隊長が店にやってきた。


 何かな?と思っていたら消臭剤の買い物だった。


 ハワード副隊長が買い物をしているとジロウ隊長からの至急の注文書が届いた。


「消臭剤を五本、ハワード副隊長に持たせて下さい。王宮に残しているうちの隊に渡すように言ってください。一本先にホグマイヤー様よりおまけで頂いてます。残りの注文は事務方と話し合ってからまた注文します。すみません」と書いてあった。


 安定の謝罪注文ね。


 そして、どんどん丁寧になっていく気がするわ。


 ランさん納品書に何か書いたのかな。


 ハワード副隊長は買い物後すぐに王宮に戻られるとの事で、ジロウ隊長のお使いを引き受けてくれた。


 消臭剤が無いと、飛竜に乗れないのですって。


 第五の人達大丈夫だったのかしら。


 今後の事も考えて、飛竜達のマスクを作ってあげようかしら。飛竜ちゃん達も臭いのは嫌よね。


 かっこいいマスクをした飛竜ちゃん、素敵よね。着けてくれるかしら。


 マスクにトゲトゲとかつけてもいいかも、と考えていると、ランさんは了解の魔蝶をジロウ隊長に飛ばしていた。


 ランさんが、「隊長や副隊長が注文内容把握してなかったり、事務方がネコババしたりする事は今まで何回かあったんだよー。特に隊長の交代時期はあってねー、隊長が事務方とどれだけ上手く出来るかで隊は上手く回るか決まるんだってー」と、師匠の受け売りを教えてくれた。


「師匠は、「剣も盾も薬もなんで出来てっか知ってるか?金だ」って言ってましたよー。力だけじゃ駄目だって。物を無駄にするやつはアホらしいですよ。無駄にしたらマイナスですからね。強くなりたいなら金がいるって言ってました。しみったれにはなるな。賢くケチになれって師匠言ってましたよ。ハワード副隊長も頑張って下さいねー」


 と、ランさんは言ってハワード副隊長からの注文をカウンターにどかどか出していく。



 流石師匠。お金は剣より強いのね。



「自分の部隊の注文とー、在庫をー、隊長や副隊長が把握してないと死んじゃうんですってー。師匠は隊長変更になったらいつも暫く薬屋に隊長来させるんですよー。師匠優しいでしょー?」


 あ、これおまけしときますね。と言ってアップル石鹸を入れた。


「新しい香りの石鹸がいい時は言って下さいねー。香りのリスト、入れときますねー。苦手な香りがある人だったり、女性隊員からも要望聞いて下さい。厨房とかからもお願いしますねー」


「成程、ラン殿、親切に有難う」


 ランさんに礼をし、ハワード副隊長は黒色の刺繍が入ったマジックバッグに商品を入れていく。第五軍団のマジックバッグかしら。


 刺繍がいいわね。


「まいどどーも、ちょっと納品書と振込依頼書作るんで待っててくださいねー」



 ランさんは答え、私は山積みにされた新規の注文書を見ながら、商品を作っていく。


 私が錬金釜に魔力を貯め石鹸を作っていると、後ろから視線を感じた。


 ふっと視線を感じた方を見ると、ハワード副隊長が出来上がった石鹸をじっと見ていた。


「どうされました?錬金、珍しいですか?」


「いや、失礼した。邪魔をしてしまったか。そうやって作っていくのだな。薬はジェーン嬢が作っていると聞いた。この度の戦いでは大変助かった。ジェーン嬢、有難う」


「いえ、私だけじゃないですよ。ランさんの練薬から私が作ったりしますし。今回、師匠が作った薬もあったはずです」


 私はハワード副隊長とランさんを見る。


「ラン嬢は店の管理だけでなく薬も作れるのか。これは失礼した。ラン嬢、有難う」


 ハワード副隊長がランさんに向き礼をする。


 真面目な人ね。


「いいえー。私が作ったのは傷薬と、クサクサ薬の元と、いい香り石鹸の元ですよー。ロゼッタがいないと良い薬は出来ませんよー。ハワード副隊長、師匠から元気になる薬貰いました?」


「私の隊は主に飛竜で上からの攻撃を任されていたからな。今回、森には飛竜を降ろす事が出来なかったのだ。私は飛竜が興奮してしまったら困るので頂いていないが、第四軍団と一部の魔術士、第五の一部の者が飲んでいたな。ああ、治療師も少数だが飲んでいる者がいたか。飲んだ者はすごい効果で、鬼人の様な働きだった。まあ、その後、あの匂いのスプレーをかけられ、動きが鈍くなってまるで歩く屍のようであったが」


 ハワード副隊長は遠い目をして言った。


「ほうほう。師匠に後で効果の程を詳しく聞きます。あ、請求書出来ました。納品書、こちらです。討伐お疲れ様でした。お代は週明けまでに振込でお願いします」


「かしこまった。ではこれで失礼する。では、ラン嬢、ジェーン嬢また」


 と言ってハワード副隊長は店を出た。



「「有難うございました。」」



 私達はハワード副隊長を見送るとカウンター横の席に座ってお茶にする事にした。


「ランさん、歩く屍になるそうですよ。すごいですね」


「鬼人になっている時間が知りたいねー。そして屍時間もー。あと、効くまでの時間、体格と性別、年齢別も知りたいなー。どれくらいの間隔で飲めるのかも知りたいねー」


「フニャンフニャンになった所で臭いスプレーかけたのかな?だから歩く屍なのかな?流石師匠ですね」


 ランさんがお茶を入れてくれ私の前に差し出した。


「敵に使った場合のスプレーと、味方に使ったのかとか今後の使い方を考えたいねー。ロゼッタ。今ある注文終えたら、また在庫作りを頑張ろうねー」


 ランさんと話を終え、短い休憩を切り上げるとまた錬金釜にむかった。


 最近は本当に忙しい。


 師匠が給料アップしてくれないかな。ま、お給料上がっても使う暇もないし、慰謝料もあるからいいんだけど。


 ランさんは、店のドアに「今日は早く閉めます」と札を出していた。


「今まで忙しかったからねー。私達も、休みましょー」と言って、師匠から貰ったお土産のポーチを物色しながらどんな魔物がいたのかをメモしている。



 私は私の出来る事をやるわよ。



 私は新しい薬をまた作ってもいいわね、忘れ薬、まだ必要かしら、皆忘れてくれたかしら?飛竜マスク、売れるかしら?と、思いながらミント飴を作っていった。


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