気にしないのが一番の薬

 注文された薬を作り終わり、店の中を見るとすっかり店じまいの準備が出来ていた。


「師匠も帰って来たから、早く店閉めますよー」と、クローズの札を出しているランさんに言われ、私はランさんに挨拶をすると店を出て、久しぶりにゆっくり買い物をしようと商店街の方へ歩いて行った。


 商店街の方へ歩いて行くと、「ロゼッタさん」と声を掛けられた。


 この声は、と思って振り向くと綺麗なお姉さんのライラさんだった。


「お久しぶりですね、ライラさん。お元気ですか?新しい寮はどうですか?」


 私達は道の隅によけ挨拶を交わした。


「お久しぶり。元気そうね。新しい寮は快適なんだけど、来月には国を出るの。お店にも行こうと思ってたんだけど、ロゼッタさんに会えて良かったわ。学園の引継ぎも無事に終わったし、今は新任先生の補助の仕事をしてるのよ。いよいよって、感じかしら」


「お仕事お疲れ様でした。新しい土地でも沢山の出会いがあると良いですね」


「有難う。仕事を辞めるのはやっぱり寂しかったわ。しょうがないのだけどね。短い間だったけど、ロゼッタさんと知り会えて良かった」


「私もライラさんと出会えて良かったです。御主人様はお待ちでしょうね」


「うふふ、私も早く会いたいわ。でも、メリアに行くのは楽しみ半分、不安も半分かしら。旦那様はメリア国の血が半分流れているの。だからメリアに知り合いも多くいるみたいだけど、私は誰もいないから。もちろん新しい土地での楽しみもあるわ。向こうに着いたら手紙を書くわね、良かったら返事を頂戴。そうそう、この間魔物討伐があったのね。ライアンからロゼッタさんの薬のおかげで無事だったと聞いたわ。有難う」


 にっこりと微笑むライラさんは眩しい。


「いえいえ。今回の討伐は軍団の皆が帰還出来たと聞きました。ハワード副隊長が無事なのは私の薬よりも、ハワード副隊長ご自身の強さ、周りの軍団隊員の強さと思いますよ。私の薬で少しでも軍団のお手伝いが出来たのなら良いのですが。あ、ライラさん、荷物になって良いならうちの店で出している石鹸なんですけど貰って下さい。オレンジのお礼も何もしてなくてすみません」


 私はマジックバッグから「夢見る香りシリーズ」の石鹸を出してライラさんに渡した。


「あら、この石鹸、今人気の物よね?ロゼッタさんの店で出してたのね。こんなに頂いていいのかしら?私のオレンジは頂き物だったのだけど」


 ライラさんは手を出していいのか迷いながら首を傾けた。


「あの時、店が忙しくて大変だったんですけど、オレンジを皆で美味しく食べて仕事したんです。助かりました。荷物になって申し訳ないんですけど、色々香りがあるので一種類ずつどうぞ。お好きな香りがあったらいいんですけど」


 ライラさんはにっこり笑って受け取ってくれた。


「ありがとう。どれもいい香り。向こうで使わせて貰うわ。ロゼッタさんを思い出して使うわね」


 石鹸の香りをすーっと吸い込んでライラさんは穏やかに微笑んだ。


 短い時間しかライラさんとはお隣さんではなかったけれど、とても素敵な人だと思った。


「それとね。やっぱり、ロゼッタさんのお手伝いとても有難かったみたい。戦いが上手くいったのは、薬屋さんのおかげだとライアンが言ってたの。有難う。やっぱりね、戦いに行ったって聞くと、心配で。誇らしい事でもあるのも分かるのだけど。私はお祈りしか出来ないでしょう?こうやって後から知る事も多いの。だから、ロゼッタさんの薬は私も有難いのよ。ロゼッタさん、メリアに着いたら手紙を出すわ。石鹸の感想も書くわね。ふふふ、ライアンと良かったら仲良くしてあげて」


「感想お待ちしてますね。ハワード副隊長と仲良くですか?うーん。副隊長さんと仲良く出来るのって、うちの師匠位と思いますけど。師匠は仲良くとは違うのかな?うちの姉弟子も強いですから、仲良く出来そうですけど。ライラさんのお手紙お待ちしております。お返事書きますね。無事にメリア国に着けるようお祈りします。ライラさんに沢山の幸せを、新しい出会いに祝福を、再び貴女に出会えますように」



 私は胸の前で手を合わせ、杖を持ち、旅人を見送る挨拶をする。


 杖をゆっくり振るとキラキラと魔力が光った。



「貴女にも沢山の幸せを。同じ空の下で祈ります、又再び会える時まで」



 ライラさんも胸の前で手を合わせ、残された人に向けた挨拶をする。



「ライアンを宜しくね」



 パチンとウインクをされた。


 ウインクに星が飛んでるのが見えたわ。


 師匠の杖のバチコンとは違うバチコンだ。


 私もウインクの練習してみようかな。


 でも、店でやって師匠に見られたら「目が痛いのか?」とか言われ、目薬出されそう。


「では、お気をつけて」と、挨拶をかわし私は商店で買い物を、ライラさんは手紙を出しに魔鳩屋さんに行くようで少し歩いた先で別れた。


 いくつになっても弟って心配なのね。ライラさんは素敵なお姉さんね。


 ランさんが私を心配するのに似てるのかな。




 メリア国はこのオースティン王国の東にある。


 東の森のさらに先だ。



 遠いな。



 東の森で魔物が湧いたならメリア国の方は無事なのかな?


 家に帰ったら、地図で東の森以外の森の場所や湖等、魔物がよくいる場所を調べようと思った。


 新しい魔物図鑑も必要だ。


 魔物がまた湧いたら、どんな薬が効くか、何に弱い魔物かを調べて先に作っていれば役に立てる。


 今回は臭いスプレーが役に立ったけど、スライムや、アンデッドにはきっと効かない。


 携帯食料をもっと美味しく出来ないかな。栄養価も考えたい。


 ランさんの割合で作った携帯食料は栄養価は高かったけど、味が凄まじく不味かった。


 臭い練薬といい、ランさんオリジナルは一味違うすごい物が出来る。


 あれはもう、凶器だった。



 一種の武器ね。



 私が作った携帯食料改良版もあるが、新しく色々作りたい。私には私の戦い方があるはずだ。


 ライラさん達みたいな、軍団や騎士の家族の人が安心して待てる手伝いが出来たらいい。


 ふむ。ふむ。と考えながら私は道を歩く。


 商店街ではお店の人達に声を掛けられ沢山おまけを貰いながら買い物をした。


 前までウハウハで貰っていたおまけも、ランさんの、「みんなにバレてるよ」という話を聞いてからは複雑だ。


 忘れ薬やっぱりまだ必要かな。


 いいえ、私がしっかり忘れる事が一番よね。


 忘れなくても、思い出に昇華するのよ。


 人に何言われても気にしないのが一番。


 私は自分の頭をバチコン殴ってすっきりするのが一番の薬じゃないかな。


 沢山買い物をして本屋にも寄り、魔物の本を見て、薬草や錬金の参考書の新刊が無いかチェックしてから家に帰った。


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