ズルい奴らばかりだなぁ ハワード視点

「は、大叔母様のお言葉、胸に刻みます」



 国王陛下が頭を下げる。



 ホグマイヤー様は陛下に、おい、頭上げろ、と言われた。



「ヘンリー。この国は良い国だ。平和になった。お前も良い王だと思う。運が良いしな。国はよく発展し、私の顔も知らない奴ばかりだ。良い事だ。ただな、どんな時でも悪い奴やずるい奴はいるんだよ。お前は王だろ?気い抜くなよ。平和ボケすんな。私を頼るのはいい。でもな、寄りかかるな。私はいつまでもおらんぞ」


 ふっと息継ぎをホグマイヤー様はされた。


「ヘンリー。王族が汗を流させ、血を流すのは軍団や騎士の仕事だ。流したいなら王族が流してもいいぞ?先駆けでもいい。王族が逃げるな。王族で終わらせろ。首一つで民や国が守れるんだ。安いもんだろ。格安だ。あのな、お前が守ってるもんを間違えるなよ?国はな、そこに王がいなくても民がいれば国なんだ。次の代に託せ。お前が守るのはなんだ?民は普段、ケツの毛むしられて税納めてんだ。お前らしっかり働けよ」


 顎に手を当て、まあなあ、と言った後優しく微笑まれた。


「いざとなったらお前を守りたい奴や、逃がしたい奴はいるだろうがな。踏ん張れよ。クソ男になんなよ」


「お言葉、肝に銘じます」


 陛下はゆっくり頭を下げ、ホグマイヤー様を見られた。



「大叔母様、一つだけよろしいでしょうか?」


「おい。ヘンリー。自分で考えろよ、ボケるぞ。なんだ」



「ジェーン嬢を大魔女にとお考えで?」



 ホグマイヤー様は新しい煙草に火を点けられ、ふーっと吐き出された。



「ロゼッタが望み、時が満ちて、運が重なったらな。簡単になられてたまるかよ」


 ただな、と言われてもう一息煙草を吸われ、ゆっくりと吐き出した。



「ロゼッタがならないなら、もう大魔女は私で終いだな」



 ホグマイヤー様はもう一度、すうーっと煙草を吸われ、ゆっくり吐き出された。


 陛下の方をゆっくり見られ、トン、と杖で床を叩かれた。


 叩かれた床がキラリと光り、魔法陣が一瞬浮かんだ。



「別に、ロゼッタがどうなろうと、お前に関係ねえだろ。大魔女なんて、いてもいなくてもいいんだよ。あいつは男を見る目がなかった魔女見習いだ。あいつも、勉強は一度きりにするだろ。ダセえ弟子はうちにはいねえしな。お前、余計な事するとシメるからな」


「は。申し訳ありません」


「余計な事言うなら魔法紙で一筆書かせるぞ。分かったな」


「は」


「おい、ランにも手え出すなよ。あいつが怒ると怖えぞ?私がしっかり仕込んでるからな。あいつは、頭いいからなア。余計な事すると、私より怖えぞ?」



 陛下が頭を下げ、皆がホグマイヤー様に頭を下げる。



「お前らもだぞ」



 そう言われ、ホグマイヤー様は部屋を見渡した。


 ズルい奴らばかりだなぁ、と言われ煙草を吸われた。


 皆は頭を下げたまま、ホグマイヤー様の言葉を待つ。大魔女とはそういう存在だ。



 自由を愛し、自由に生き、自由に死ぬ。


 誰の下にもつかず、王でさえ頭を垂れる。


 美しいエルフの顔立ちで小人族の体型。


 ホグマイヤー様の事を大叔母と陛下は言われるが、誰もホグマイヤー様の年齢を知らない。細かい事は王族以外誰も分からない。国王でも知らない事は多いかもしれない。


 ホグマイヤー様に聞けるはずもない。


 ジェーン嬢に近づくな。


 彼女を傷つけるな。


 この偉大な大魔女も、彼女を抱いた姉弟子も、ドラゴンがその至高の玉を抱くようにジェーン嬢を守るのだろう。


 ああ、それでも。私はその玉に手を伸ばしたい。



「話は終わったな。あとはそっちで適当にやれ。じゃあな」と、言ってポシェットにティーセットを片付けられた。


 ホグマイヤー様が立ち上がり、


「あ、そうだった。おい、マックス。こいつの後任、早く決めとけよ」と、言われ私を指さした。


「おい、お前。お前の後任の話だ。誰がいいんだ」


「は。私は第一班長のキムハンが適任だと思います」


「なんでだ」


「判断が早く、視野が広く、書類整理も出来ます。力の強さや飛竜の扱いだけであれば他の班長に長けている者もいますが。周りをまとめられるのはキムハンです」


 ホグマイヤー様は宰相と陛下の方を向いた。


「だってよ。おい、推薦者の中にその、キムハンの名前はあったのか」


「はいございます。ただ推薦者が隊長クラスではハワードだけでして、大臣等の推薦がなく保留となってました」


 宰相が答え、ホグマイヤー様はお前らの推薦はどうなんだ?と陛下と宰相に聞いた。


「私は報告書を見る限り、三名ほどの班長から決めかねましたが、キムハンも候補には挙げました。若く力があり勢いのある者がいいのか、ベテランがいいのかと、悩みますがハワードが望むならキムハンが良いかもしれません」


 宰相が答え、ホグマイヤー様は、お前は?と、陛下を見られる。


「ハワードが副隊長になったのが二年前でその時も若い副隊長と言われました。今回も異例のスピードの隊長就任となりますが、魔物討伐の功績も足せば文句を言う者はいないでしょう。若いハワードを補佐出来る副隊長が良いので、ベテランのキムハンは適任ともいえます。儂も問題は無いと思いますが、年齢を考えると、次の隊長にキムハンがなることはないかと。まあ、ハワードは若いので、今しばらくは第五を安定させる事に重きを置いても問題はないでしょう。実力はありますが、キムハンが推薦に挙がらないのは年齢と平民のせいだと思います」


「じゃあ、副隊長はキムハンでいいじゃねえか?貴族じゃないと不味いのか?平民出は普通にいたと思うけどなあ。平和になると、アホが増えるな。推薦してきた奴で、治療、魔術が言ってきた奴は多分金貰ってるぞ?がめつい奴だな。金の亡者だな」


「では、早急に。」



 タウンゼンド宰相が頭を下げる。



「決まって良かったな。あ、魔術士隊長、治療師隊長も早く決めろよ。じゃあな。もう、こっから帰るぞ。門の所のジョンに言っといてくれ。今回の手伝い料、ケチるなよ。ちゃんと振り込んどけよ。」


 ホグマイヤー様はクソガキが多くて困る、と言われると指を鳴らされ消えられた。


「さ、急がねば。やることは山積みだぞ。せっかく大叔母様が力をお貸し下さったのだ、情けない姿ばかり見せられぬ。皆も頭を叩かれたくないだろう?タウンゼンドも頼むぞ」


 と陛下が言うと、宰相が頭を押さえた。


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