魔女の力は魔女の物 ハワード視点

 謁見室はシンと静まり返った。



 陛下は宰相、騎士団長の方を向き直ると指示を出された。



「東の森はコロン伯爵の領地だな。すぐにコロンを呼べ。討伐完了の件と言う事にすれば良い。あとは、魔術大臣だな。ロイス、お前の第一騎士団がマイネン魔術大臣を迎えに行け。今回の討伐についての事で呼び出しとしろ。一部を王宮に残し、現場の指示はお前に任せる。抵抗するようなら、少々手荒でも構わん。第二騎士団エマーソン隊長をここに呼んでくれ。伝令蝶をすぐに飛ばせ、至急でな。第二は謹慎している魔術士隊長、治療師隊長の自宅、魔術局の監視をさせ必要ならすぐに拘束する準備をさせよう」


 陛下は一度息継ぎをなされた。


「第四軍団も帰って来たばかりで悪いが、ジロウ隊長、大叔母様より場所を聞いてすぐにファン草の場所に向ってくれ。人数は任せる。直ちに現場を押さえるように。大叔母様、マスクを購入することは可能ですか?」


「ああ、五十でいいなら持ってきた。あと、サービスで石鹸だ。ファン草の周りを囲むだけにしとけ。あと第四の薬師を誰か連れて行ったがいいぞ。第四も緊急用のマスクをいくらか持ってるはずだ。ジロウ、事務方に聞いとけ。薬師からも細かく指示を出してくれるだろ。ああ、火に気を付けろよ」


 ホグマイヤー様は、ポシェットよりマスクと石鹸を出して、ジロウ隊長に渡された。


「これはヘンリー、お前が払えよ。請求書はお前に出すぞ。ジロウ持っていけ」


「は」


 陛下はホグマイヤー様に返事をすると、今度は私の方を向かれた。


「ハワード副隊長、本来なら第五の方が現地まで飛ぶのがいいだろうが、飛竜で行かせたくない。第五も戻って来たばかりだが、王宮で待機を頼む。マイネンの領地まで行くことになるだろう。ただ、飛竜で行っていいものか。第三を動かした方が早いか。他の軍団も動かさなければ。ハヤシ大隊長にも伝令蝶を。今日は王宮にまだいるだろう、こちらも至急でな。タウンゼンド、お前にも大臣達に指示を出して貰う。あと、王太子にも伝令蝶を。ロイス隊長と、ジロウ隊長はすぐに動いてくれ。タウンゼンドは、大叔母様の話をもう少し聞いてくれ」


 陛下が一気に話されると、私、ジロウ隊長、ロイス第一騎士団長が「「「は」」」と礼をした。


 タウンゼンド宰相は静かに礼をし、「陛下、伝令蝶を飛ばします、しばし失礼」と言われ、部屋の隅の机で作業をしだした。


 ロイス隊長が「私はこのまま騎士団を招集し、マイネン大臣の屋敷にむかいます」と言い、部屋を出て行った。


 ホグマイヤー様は「ジロウ、ここだ。ここ。印書いてやった。ほら、私が水流した所あるだろ、あの先だ。あと、すぐに行くならおまけ分を今やろう」と言い、ジロウ隊長に地図と消臭剤を一本渡された。


 ジロウ隊長も礼をすると「すぐにむかいます」と言い、部屋を出て行った。


 慌ただしく皆が動く。私はその間、ジッとホグマイヤー様の後ろに立っていた。



「大叔母様。有難き土産です。今回、大叔母様が後方支援に回られたのはこの為ですか?」



 陛下はホグマイヤー様に向き直り聞かれた。



「今回の討伐、大叔母様であればすぐに討伐出来たはず。それが補助に回ったと聞き及んでおります。二ヵ月近くかかったのもそのせいだと、謹慎させている魔術士、治療師達が言っておりました。それは今後の事を考えた事ですか?」


 ホグマイヤー様は足をまた組み直し、ポシェットからティーセットを出され、ティーカップにお茶を注がれた。


「おい、ヘンリー。お前まで腑抜けた事言うなよ?「出来たはず」、じゃねえよ。なんで私がするんだ?私が出て一瞬で終わらせたら、また腑抜けが増えるだろう?治療師と魔術士は邪魔しかしねえし、私が出て楽が出来ると思ってたようだがな。ピクニックじゃねえんだよ。甘えんなよ。私がいなくても魔物湧き位討伐しろよ。」



 ゆっくりとお茶をスプーンで混ぜられ、砂糖を一つ落とされた。



「ヘンリー、お前も私が手を引いてやらんでもいいだろ?いい歳こいたジジイじゃねえか。私は不老不死じゃないぞ。こんなナリだからな。勘違いする奴が多いが、いつまでも私はいない」


 私も節々、痛えんだよ。いい歳だな。と言ってカラカラ笑われ、お茶を飲まれ、じっと国王陛下を見られた。


「ファン草を見付けても、見付けなくても手は出さなかったさ。薬を出してやってんだ。魔物討伐くらい、お前らでしろよ。前の討伐で私がぶっ飛ばしたからそう思ってたのか?前の討伐の時と状況が違うだろう?あの時は辺境の奴ら、私が行く迄死に物狂いで守ってたぞ。泥にまみれ、血にまみれ、前に進んで戦ってたなア。ぬるま湯浸かってる奴らと一緒にすんなよ?あそこで守り、名誉を刻んだ奴らに失礼だろ。今回、私は手伝いで行ってんだ。討伐はお前らがやるのが当たり前だろ?ズルすんなよ」


 ホグマイヤー様はまたお茶を一口飲まれ、ゆっくりとティーカップを降ろされた。


「騎士団も、軍団もお前ら好きでなったんだろ?戦うのが嫌なら辞めりゃいいんだよ。腰抜けはいらねえよ。邪魔だからな。守りたい奴が戦えばいいんだ」



「それとな、一応言っとくがな」



 ホグマイヤー様は陛下の目をゆっくり見られ、足を組み直された。



「弟子は魔女になっても戦いには行かせんぞ。私が戦いに行くのはお前らに頼まれて行くんじゃない。私が好きで行ってるんだ。私とロゼッタを一緒にするなよ?魔女は騎士じゃない。魔女の忠誠は王にない。魔女の力は魔女のもんだ。国は人を選ぶのか?人も国を選べるぞ?ヘンリー、間違えるなよ。いいか、戦いは騎士団、王国軍団の仕事だ。魔女はあくまで薬屋だ。魔女に頼らなきゃ滅びる国なら滅びろ。はき違えるな。まあ今回、死人は出さないでやったんだ。大概私も甘いな」




 こういう事言わせるのが、嫌いなんだ。とホグマイヤー様は杖を持ち直された。


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