不自然な魔物湧き ハワード視点
「おい、行くぞ」
ホグマイヤー様はそう言われると、「名無しの薬局」を出られ、王宮へとむかわれた。
私は、ホグマイヤー様の小さな背中を見ながらジロウ隊長と共に付いて行く。
「しっかし、王宮まで歩くの面倒だなぁ。おい、お前らちょっと来い。魔力の残りはまだあるな?」
ホグマイヤー様は小さな路地に入ると杖で道をコンっと叩いた。ホグマイヤー様を中心に、ジロウ隊長と私を魔法陣が包み込み、
「よし」と、ホグマイヤー様が言うと指をパチンと鳴らした。
次の瞬間には王宮の門前にいた。
「お、ジョン、久しぶり。子供元気か?」
「お久しぶりです。この間は腹薬、有難うございました。ランさん、ジェーンさんにもいつもお世話になります」
突然現れた我々に門番は驚いていたが、ホグマイヤー様が門番に手を振り挨拶をすると礼をされ、すんなり王宮へと入った。
短い距離とはいえ瞬間転移を三人。本当に規格外の方だ。
「この間さ、いきなりジジイの前に行ったら煩かったからな。何処行けばいいんだ?」
「は。第一謁見室で国王陛下、宰相殿がお待ちです」
「ふーん。第一謁見室ね」
ホグマイヤー様が黒蝶を飛ばす。我々の周りをひらひらと蝶が飛ぶ。
「ギル。気になる奴は溶かしていいぞ」
物騒な事をホグマイヤー様が言い、それに答えるように蝶が優雅に飛び回る。
第一謁見室に着くと、ノックもせずにホグマイヤー様は部屋に入られた。
急いでジロウ隊長が「失礼します」と敬礼をして後に続く。
「失礼するなら帰るか?私は別に帰っていいんだぞ」
待っていた陛下達が慌てて立ち上がり、ホグマイヤー様に礼をした。
「ホグマイヤー様に御足労頂き、誠に有難うございます。この度の東の森、魔物討伐の御尽力、重ね重ね有難うございました」
タウンゼンド宰相が深々と礼をする。
「大叔母様、この度は誠に有難うございました」
陛下も礼をする。
「おい。いいから座らせろ」
ホグマイヤー様は手を振り、ドカッと四人掛けソファーに一人で座られ、ジロウ隊長と私は後ろに立つ。
「おい、ヘンリー。お前んとこの治療師と魔術士。なんだあれ。なんであんな腰抜けなんだ?給料泥棒か?あいつら、月いくら貰ってるんだ?五万ルーンか?あいつらの働き、千ルーンねえぞ。下育てた方がいいな。ちょっとはマシなのいたからな。隊長と副隊長いるか?あいつらは給料泥棒だな」
「は。申し訳ありません。すぐに罷免は難しいかと。今は自宅にて謹慎させております」
「おい。難しいだけなんだろ?命かかってる事だぞ?出来なくないんだろ?おいマックス。どうなんだ?」
ホグマイヤー様はタウンゼンド宰相殿にも話を振る。私とジロウ隊長は壁となっている。
「可能です。陛下。やりましょう」
「大叔母様。ご迷惑をお掛けして申し訳ありません」
二人は頭を下げる。
「人を討伐にむかわせるなら、ましな人材そろえとけよ。こっちは命懸けてんだ。ヘボの下に就かないといけない奴らの事考えてやれよ。隊長や副隊長が持ってんのは自分らの命だけじゃねえだろう?部下の命も預かってるんだぞ?あいつら、カスだな。あとな、なんで、第五は隊長不在なんだ?こいつ一人で走り回ってたぞ」
ホグマイヤー様は私を指さす。
「は。魔物湧きの少し前に第五軍団隊長のマンスールが大病を患いました。ハワードを隊長に昇格しようとしたのですが、後任の副隊長の推薦等で揉めまして。隊長に昇格させる前に今回の討伐となり、隊長代理のまま、現在に至っております」
「おい、ヘンリー。ジロウが隊長なったのも半年位前だろ?なんだ、事故だったか?怪我だったか?第四の前隊長とマンスールの共通点洗ったがいいんじゃないか?影使ったか?」
「は。四ヵ月程前に任命致しました。怪我に関しては怪しい事はないかと。二人の共通点もなかったはずです」
陛下が後ろを向き、いつの間にかいた護衛に指示を出すと、護衛は音もなく消えた。
「ホグマイヤー様、魔術士、治療師の隊長の交代もここ三年で起こった事です。年齢や、家族の理由での交代でした」
「マックス。報告すんなよ。私は、聞いただけだ。責任ないから好き勝手言ってるんだ。お前らの仕事だろ?あとな、お前らに土産がある。ま、これ見たら魔術士、治療師のクビなんてすぐなんだがな」
ホグマイヤー様は足を組みなおした。
「うちの使い魔が魔物湧き見つけた時な。違和感があったんだよ。湧き方が不自然なんだ。まあ、魔物が湧く時の事知ってる奴は少ないか。前回の魔物湧きは十五年前だしな。前回は酷かったのを覚えてるだろう?普通、一気に来んだよ。今回はジワジワと湧いただろう?だからヘボ達がいてもどうにか出来たんだがな。平和な事はいいが、軍団も経験ない奴が多くなったよなあ。ヘンリー、ダンに一回、シメさせたがいいんじゃないか?で、今回仕留めた魔物はこれだ」
ホグマイヤー様はポシェットから、ポンっとオークの首を出された。
「色々いたがな、これが分かりやすいだろ?瞳の色を見ろ。死んで時間経ってるが、氷漬けにした。だから新鮮だぞ。ほやほやだ」
国王陛下と宰相は魔物を覗き込み瞳の色を確認する。
「赤ですか。魔物の瞳としては一般的だと思いますが」と宰相が答え陛下も頷く。
「瞳のな、奥をよーく見てみろ」
ホグマイヤー様は煙草に火を点けられ、ぷはっと煙を出された。
「・・・。中心が薄い?」
陛下が答えられると、ホグマイヤー様がニヤリと笑われた。
「正解だ。普通瞳は中心に行く程色は濃くなるのが一般的だ。魔物湧きの時は特に瞳の色は濃い。どろっと赤黒くなる程にな。でな、瞳の奥の方なんて普通見えねえんだよ。見えるだろ?奥がな薄いんだよ。ありえねえがな。こんな症状の人間をお前ら知ってるだろ?」
タウンゼンド宰相が、「はっ」と息を呑まれ、「天国の門・・・。ファン草患者ですか?」と答えた。
「ああ。似てるだろ?でな、調べたんだよ。東の森付近をな。そしたらなー、あったぞ?ちょっと離れてたがな。近くで栽培してあったぞ。ファン草。んでな。そこをな、一部の魔術士と治療師が守ってたんだよ。どういう事だろうなア?」
ホグマイヤー様の小さな体の周りを黒い蝶がヒラヒラと飛んだ。
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