不安を解消させるのは
師匠が王宮からの呼び出しで消えてから二週間が経った。師匠からの連絡は無いが、相変わらず注文が入るので元気なのだろう。
師匠のギルちゃんを使った注文の内容が、明らかに変わった。
「ポーション50本、ハイポーション20本、傷用練薬50本、携帯食料200個、ラベンダーのお香100本、ローズ石鹸100本、痒み止め100本、目薬100本」
「・・・・。ねえ、ランさん。これ、絶対師匠のせいですよね」
「うん。まあ。うちの売り上げ上がるし。色々売れる方が材料調達する分もこっちも楽でいいんだよねー。ポーションばかり売れると材料も高騰するからさー。石鹸とか売れるのいいよねー」
「私も色々作れるのは飽きなくていいんですけどね。勉強にもなりますし。ランさん、石鹸欲しがってるなら、消臭剤作ったら売れますよね?作った方が良いですよね?」
私はハーブやドライフラワー等を眺めながら本をめくる。
「うーん。師匠がどういう風に戦いで使っているか分からないから、師匠にはこっちから勧めにくいなー。消臭剤だと、匂い消えて戦いに困るかもしれないし・・・。作った方が良いと思うよー?でも、石鹸売れるの嬉しいから、師匠に消臭剤は言わないでおこう。」
最後の石鹸売れて欲しいは聞かなかった事にしよう。
「あ。そっか。じゃあ、逆に匂いを継続する効果を上げる薬はどうですかね。一度肌に着いたら取れにくい、みたいなの。もう、ずっと臭いんです」
「お。いいかもね。他にも使えそうだし。スライム系の素材でいけるかな?」
ランさんが戸棚をごそごそして瓶を出していく。
「粘着力が弱くて伸びやすいのはグリーンですかね?ブルーの方が伸びますか?」
「うーん。伸縮率見るの?粘着力じゃないんだ。匂いを張り付ける感じじゃないんだね。うーん、ブルーの方が伸びるみたいよ」
瓶の中のスライムを鑑定しながらランさんが答えてくれる。
私は本をめくり、調合の案をノートに書きだしてランさんに材料をお願いする。
「ランさん!では、「臭いのなかなか取れないのー。もう本当困っちゃう!薬」を作りますよ!!」
「おー!!待ってました!!頑張れー!!」
パチパチとランさんの拍手を受けながら、私は錬金釜に魔力を貯め新しい薬を作っていく。
薬が体を包み込み、薄い膜で覆われ、ぴっとりくっついて取れないイメージで作っていく。
あのクサクサ薬がくっ付いたら、もう一生臭いんじゃないかと錯覚するイメージだ。
暫くすると、ぽわっと錬金釜が光り、新薬は完成した。
新しい薬、「臭いのなかなか取れないのー。もう本当困っちゃう!薬」が出来て、ジルちゃん郵便で「こんなの出来ましたがいりませんかー」と、師匠に手紙を送った。
ジルちゃんが師匠からの返事を持ち帰り、「いいな。使える。あるだけ送れ」との事で、私達はせっせと薬を詰めてジルちゃんにマジックバッグを持たせ、送った。
新薬は師匠からの希望で塗り薬とスプレー式、二種類作った。
師匠、どういう風に使うのかな。
言われた物を作るだけじゃ駄目だ。
言われる前に行動をするんだ。
私は偉大な師匠の弟子で、頼りになるランさんの妹弟子だ。
塗り薬は自分達で塗るのか、何かに塗るのか。
スプレーは敵に吹き付けるのか。
頑張らないと。少しでも役に立たないと。
ふと横を見るとバルちゃんの優しい目と、目が合った。
バルちゃんからパチリとウインクをされ、「無理するなよ」と師匠に言われているようだった。
そうね。焦ってもしょうがないわね。
一つ一つ、丁寧に行きましょう。
私はバルちゃんに「有難う」と言って撫でると、バルちゃんはゆっくりと目を閉じた。
薬を作り、注文を消化していくが、第四からも第五からも注文が途切れる事はなかった。第五軍団からの注文はハワード副隊長からで、「元気ですか?変わりはないですか?」との文も添えてあり、納品書に「ライラさんが引っ越しをされました」と返した。
ジロウ隊長からも注文の度に一言添えてあり、「多くてすみません」とか、「急ぎですみません」とか、「感謝してます、すみません」とかこちらは謝ってばかりだった。
ランさんが納品書に、「早く師匠を返して下さい」と書いていた。
その後の使い魔郵便の注文はまた変わり、
「ポーション20本、ハイポーション5本、傷用練薬20本、携帯食料200個、鼻栓100セット、ローズ石鹸100本、ミント飴200セット、うがい薬100本」
となった。
「ランさん、ポーション減ってるから、きっと戦況はいいんですよね?」
「うん。きっとそうじゃない?師匠が出たんだし。また、新しい作戦になったのかな。売上上がるねー。流石師匠!!」
私は、鼻栓を作る為の材料をランさんに貰いながら、
「ランさん、鼻栓は分かるんですよ。石鹸も。うがい薬とミント飴は何でしょうね?風邪ですかね?流行ってるのかな?熱冷まし作った方がいいですかね?」
「うーん。クサクサ薬、口に入っちゃったのかな?」
「うげ」
「きっついミントにしてあげなよ」
「はい。口に入れた瞬間、鼻から耳からツーンと突き抜ける位の奴にしましょう。歯磨きセットも勧めたら売れるかもしれませんね!!」
私とランさんは、せっせと作り、一般注文も販売し店を守った。
きっつい味のミント飴は、お店に来た新聞記者さんに試しにあげたら気に入られ大量注文が入った。
「ここまでキツイの食べたの初めてだ。鼻から抜ける感じがすごい!!しかもキツイのに食べれる。後味が美味い」と絶賛された。
記者さんの仕事はどの部署でも徹夜が多いらしく、その時に食べたいと言って、会社からの大口注文が入り、ランさんがウハウハしていた。
ランさんは練薬でいい香りを作り、私に色々な香りの石鹸を作らせた。
ランさんは「夢見る香りシリーズ」と石鹸を名付け、私はローズ、ラベンダー、ジャスミン、バニラ、アップルと香り付きの石鹸を作った。
出来た石鹸の切れ端を、「お試しでどうぞー」と王宮勤めのお姉さん達にランさんは配って回り、ちょっとお高いお店等にも「どうぞどうぞ」と、配っていた。
ランさんが配って3日後には続々と注文が入り、私は石鹸作りを頑張りランさんはまたウハウハしていた。
次は何を売り込もうかと、ランさんが目をキラキラさせ、私がげっそりしていた頃にギルちゃんが師匠の手紙を持ってきた。
「もうすぐ帰る」
それだけの手紙だったが、ランさんと抱き合って喜んだ。
きっとランさんも不安で、一生懸命金儲けしてないといけなかったんだなと思った。私も商品作っている間は師匠の為になってるんだと思っていた。
二人で喜んだが、師匠が帰ってきたのはそれから二週間後だった。
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