サレ女忘れ薬

 あれから何日か経ち、師匠の予想通り第五軍団も東の森に行った。


 ギルちゃんからの情報らしく、師匠は使い魔に色々指示を出していた。


 街では東の森の噂は聞かない。


 ランさんが王宮に行くと丁寧に対応されて王宮でも噂話を聞かないらしい。



 私の件で怖がられてるな、と思う。



 ライラさんとアパートで偶然会った時に、ハワード副隊長が私を心配していた事を言われたが、「元気です、と伝えて下さい」と言った。


 正直、軍団の人はもういいのよ。


 ダレンのせいで胸焼け中よ。


 私の心配よりも、魔物討伐に行くなら自分の心配をして欲しい。


 ただ、ライラさんは魔物討伐の件には触れず、「ライアン、しばらく王都には戻らず会えないらしいの」と言っていた。私も勝手に軍団の任務の事は言えないので、「そうですか」と答えるだけにした。


 店には第四、第五軍団の注文書がバンバン届き、第三と、第六軍団からも第四と第五軍団の穴埋めで大変なのか注文が届きだした。



「ったく。だらしねえなあ。おい。ラン、ロゼッタ。もうすぐ、ジジイの呼び出しが私に来る。お前らに店任せる。ラン、お前が店を管理しろ。ロゼッタ、ランをしっかり支えるんだぞ」



 師匠が煙草をふかしながら言い、その煙草を吸い終わる前に王室の印が入った魔鳩が届いた。



「ほら来た。人に甘えんじゃねえよ。んじゃ、行ってくる。お前らも気をつけろよ。ジルとバルは置いていく、お前ら一匹ずつ付けとけよ」



 ジルちゃんとバルちゃんが出てきてジルちゃんがランさんにバルちゃんが私の傍に来た。



「じゃあな」



 師匠はそう言うと私達の返事も待たず、指を鳴らして消えた。


 師匠が消えるとランさんが、「さ、ロゼッタ、頑張りましょー!師匠がいない間しっかり店を守って、売り上げがっぽがっぽさせて、師匠を驚かせましょー!」と言った。


「はい!ランさん。お金は裏切らないですからね!がっぽがっぽですよ!!」


 私は錬金釜にむかいハイポーション作りを頑張った。


 正直、師匠がいないのは不安だ、心配だ。でも、ランさんを信じているし、自分の事も信じる。


 やるべきことをやるだけだ。


 それに最近ハイポーションばかり作ってるせいか、魔力がまた上がりハイポーションを作るのが上手くなった気がする。


 まああれだけ作ればね。と思い、まともな色に戻りつつあるハイポーションやポーションをドンドン作っていった。


 ランさんは一般注文や緊急注文を振り分け、その合間に練薬を作っている。


 あの臭いスプレーを師匠はどう使うんだろう?


 師匠、怪我しないで欲しいな。


 不安に思う気持ちはあるが、私がここで不安に思っても何もならない。それなら一つでも薬を作り師匠に届けたい。


 私が薬を作りランさんがお店を切り盛りし、どうにか一段落してお昼休憩となった。


 近くの食堂からサンドイッチとスープを配達して貰いランさんと食べていると、



「あ、そういえばロゼッタ、居酒屋のリリーさんの事聞いたー?」と、ランさんが私に聞いた。



 サンドイッチをもぐもぐさせながら私は首を傾け、



「リリーさんって、浮気男の相手、「うさ耳ムチムチボディお姉さんのリリーさん」ですか?知りませんよ」


「うふふ。しっかり覚えているね。そうそう。そのうさ耳ムチムチボディのリリーさんなんだけどね。居酒屋クビになって田舎に帰ったんだってー」


 トマトのスープを飲んでランさんに尋ねる。


「え、なんでクビになったんですか?」


「えっとね、ダレンとリリーさんが深い仲ってのは一部では有名だったみたい。ま、他にもダレンの相手はいたらしいんだけどー。今回の騒動で、ダレンの恋人がロゼッタだったって皆知っちゃったのよ。で、うちを敵に回したくなくて、クビ切られたみたい。あと、軍団やら、王宮がダレンを処分したでしょう?関わり合いたくないんじゃない?客商売で、信用大事なのに人の男に手を出す奴を雇った店って言われたくなかったみたいねー」


「えー・・・。私、皆にサレ女ってバレてるんですか・・・・。そして、ダレンの相手は複数なんですか・・・うわー。いまさら情報いらないわ・・・」


「うん。皆にバレバレー。ま、急いでクビ切っても居酒屋の評判は落ちるでしょうね。クビ切った事で却って悪く言う人もいるしね。従業員切って逃げるな、みたいにねー」


「リリーさんにも居酒屋にも悪いけど、「サレ女みんなにバレてる件」の方がショックだわ。うわー。最近やたらおまけして貰えるの、そういう事なのかな?・・・。皆優しいし。声よくかかるし。ラッキー、とか思ってたのに・・・。せっかく忘れかけてるのに、もう皆、忘れてくれないかな・・・。サレ女忘れ薬作れないかな・・・」



 私が遠い目をしていると、ランさんはサンドイッチをごっくんと食べ終わり、お茶を入れてくれた。



「まーねー。ロゼッタはいい意味で有名人だから、皆、許せない気持ちもあるんじゃない?あと、ロゼッタがフリーになったって、狙ってる人も一杯いると思うけどー、師匠の目が光ってるうちは大丈夫じゃないかなー」



 え。師匠の目は本当に光りそうでなんか怖い。


 目から何か出そうだし。



「あと、軍団にも腹立ってるみたいだよー。普段偉そうにしてて、結局やってんの浮気かよって。軍団もイメージダウンしたから、今大変みたいよー。自業自得だけどねー。ちょっと甘えてたんじゃない?全体的に第二軍団は民と距離近くて、そこが良いって事だったけどねー。軍団ってだけで調子乗ってた奴がいたのも確かだしね。第二軍団はダレンの他にも何人か処罰された人がいるんだってー」


「えー。処罰された人ってやっぱり浮気ですか?」


「うーん、どうだろうねー。でも多分そうじゃない?規律を乱したって事らしいし。情報を漏らしたとか?なんだろねー。第二は大変みたい。街の治安守るのに、民から嫌われそうで。副隊長や隊長が街によく出てるらしいよ。上が動いてるのを見せてるんでしょうねー」


「ええー。でもなんか、もうどうでもいいかな・・・。せっかくサレ女って私の中でも忘れかけてたのに、皆にバレてるのが辛い・・・。第二軍団大変でも、私はもう関係ないし・・・。サレ女忘れ薬・・・、作れないかな・・・」


 ランさんは食器をトレイに置きお茶を飲んだ。


「まあねー。ロゼッタの気持ちが大事だからね。今は恋より仕事でいいんじゃない?これからよーこれから。それにロゼッタは師匠みたいに大魔女になれるかもしれないんだから。頑張って、ポーション作りましょー!!」


「うん?なんか上手く丸め込まれてませんよね?バンバンポーション作りますけど。大魔女は無理でも魔女になれるように頑張ります!」


 お茶をグイっと飲んで休憩を終わり、お互いの仕事に戻った。


 ジルちゃんとバルちゃんは私達の近くに常にいてくれる。


 師匠が傍にいてくれているみたいで心強い。


 私は錬金釜に魔力を貯め、ポーション作りに明け暮れた。


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