お留守番の虚しさ

 街を歩くと、東の森の討伐の噂がされていた。


「もうすでに軍団が討伐を終えているらしい。よかったよかった」、と言う人の声や、「さすが軍団、頼りになるな」、と言われていた。



 噂がされているわね。



 皆の不安を煽りたくない事、人気の回復、軍団戦力の誇示等理由は色々あるのだろうな。


 だから今迄、情報を出してなかったんでしょうね。


 まあね、ダレンの事で色々あったけど、軍団の人が悪い訳じゃないものね。


 第二軍団の隊長達が信頼回復で頑張ってるのも知っている。大変よね。


 早く元通りになって欲しいわ。


 時間は戻らないけど。


 前に進むしかないのだけど。




 店に戻りそんな事を思っているとカランとドアベルが鳴り、師匠が店に帰って来た。


「おーい。帰ったぞー」


 やったー!!と思ったものの、師匠は一人ではなく、鼻が曲がりそうに臭い男の人を二人連れて来ていた。



「「おかえりなさい!!師匠!!」」



 シュコーっと音を出しながら師匠を迎える。



「おいラン、なんだそのマスク。かっこいいな」


「あ。これはですねー。スーパー防護マスク、サードタイプです。自分であの失敗練薬を作った時に、こんな事もあろうかと、ロゼッタに作って貰っていました。改良版なんで息がしやすいです。師匠の分もありますよ」


 私とランさんは顔をすっぽり覆うマスクを被り、シュコーっと音を出しながら話し、臭い匂いから身を守った。


「いや、私は大丈夫だ。ロゼッタは風魔法でこれくらい出来るようになれ。で、こいつらの匂い落としてやれ。どうせ、消臭剤作ってるだろ?」


「はい。お代は時価ですか?」



 ランさんがそう言いながら、特大スプレーに消臭剤をドバドバ入れ、男の人達を裏庭に連れて行き、容赦なく噴射していく。ついでにと、店の周りにも噴きかけていた。



「お、すごいな。効果抜群だな。おい。ジロウ。お前これいるか?これがあれば、あの臭いスプレーこれからも使えるぞ?」



 師匠がニヤニヤしながら一人の男の人に聞く。臭い男一号はジロウ隊長だったか。


「は。是非、我が隊の分を注文させて頂きたいです」


 ジロウ隊長って、師匠に脳みそ溶けてるか調べられた隊長さんよね。謝罪注文の人だわ。


「おい、ラン。注文受けろ。お前んとこはどうする?今なら一本おまけで付けてやる。」


 臭くなくなったもう一人をみて師匠は聞いた。


「は。我が隊の分もお願いします」


 あら、臭い男二号はハワード副隊長だわ。と言う事は第五も注文するのね。



「よし。ラン、第五も受けろ」


「はーい。大丈夫ですよー。師匠、他はいいですか?」



 師匠はジロリと二人を見て、トントンと杖で床を叩きながら二人に聞いた。



「どうなんだ?あの、王宮から来てた治療師共も欲しいかなア、役立ってたかなア。売ってやろうかなア。おい、ジロウ。お前どう思う」


「は。ホグマイヤー様に売って頂けるのであれば、王宮治療師、魔導士、両部隊は喜んで買わせて頂く事でしょう。しかしながら、決めるのはホグマイヤー様かと」


「ほー。役立たず共でも、欲しいかねエ。口だけで働かなかった奴が、欲しいのかねエ。おい、お前。お前はどう思う」



 師匠はハワード副隊長をじろりと見て聞いた。



「は。ホグマイヤー様が売りたくないのであれば致し方無いかと。仕事に支障は出るやもしれませんが。治療師、魔導士の失態は国王陛下の耳にも既に入っております。ホグマイヤー様の一存で問題ないかと」


「ふん。わかった。じゃあ、売らん。ラン、分かったな。売るのは第四、第五軍団だ。他の部隊が欲しいと言った時は部署と名前を聞いておけ。王宮にお前が直接届けるか、こいつらが取りに来た時だけ売れ。他には売らん。お前らも自分の部隊が欲しい時は部隊の奴に買いに来させるなよ。暫くはお前らが直接買いに来い。あと、お前らにも欲しいと言ってきた奴は名前と部署を王宮のマックスかジジイに知らせろ。まあ価格を十倍にしていいなら売ってやろうかなア」


「「は」」



 十倍なら考えるんだ。


 あの匂いの人達が大量にいるんでしょう?


 王宮臭いだろうな。噴水も臭くなった事があるから、いいのかな。


 もう、王宮の人、臭いの慣れちゃったかしら。



「ラン、店番ご苦労。よく守ったな。後で売り上げ見せろ。ロゼッタ。お前の薬、良かったぞ。えげつなかったぞ。二人とも頑張ったな」



「「ししょー----!!!!!」」



 うわーんっ、とランさんと師匠に抱き着き泣いた。



 師匠は私とランさんに抱き付かれると見えなくなった。


 師匠が無事で良かった。


 最強で最恐で。最高で最悪な師匠だから大丈夫だって思ってたけど絶対は無い。



 心配で不安で、自分の未熟さが身に染みて分かった。



 なんで私は店で薬を作っているんだと、虚しくなった。



 でも私に出来る事を頑張るしかなかった。



 早く力をつけたい、師匠の横に立てなくても、後ろを守れるようになりたい。



「ほいほい。わかったわかった。泣くな。ガキじゃねえんだ。じゃ、ちょっくら王宮のジジイに会ってくるから、お前ら、いい子に待ってろ。ほら土産だ」



 そういって、ランさんにお土産用ポシェットを投げた。ガキじゃなくてもお土産をくれる師匠は優しい。



「素材をたんまり取ってきた。タダだぞ。いいだろ。好きなのとっとけ」



 そう言うと、師匠はジロウ隊長、ハワード副隊長を連れて王宮へと行った。


 ジロウ隊長は私達に礼をし、ランさんと目が合うとビクッとした。


 ハワード隊長は「お会いできて良かったです」と言い、師匠に二人とも着いて行った。


 私達もペコリと礼をして、すぐに師匠のお土産を見た。



 私とランさんはポシェットの中を



「うわーすごーい。なんですかコレ?角?」


「お、この色、激レア。これ欲しー。よし、貰っておこう」


「げ。師匠、目玉直接入れるの止めて欲しい。ぶよっとしちゃった」


「おー。ナニコレ、初めて見た。ほい、鑑定」



 等、言いながらお土産物色に忙しくした。

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