夢の中での捜査
@uz610muto
夢の中での捜査
―トゥルルルる、トゥルルルるー
「はい、和歌山県警です」
「実は、山の中に死体があるのを見つけまして…」
林田高志は、通報のあった場所へと向かった。仏は青いビニール袋に包まれていた。高志は中を確認した。頭から血を流した跡が見えた。高志は、念仏を唱え、仏の顔を記憶してから、その場から離れた。
事件は、I日経っても目処が立たなかった。高志は、捜査に当たっていたが、近くから目撃情報は、何も得られなかった。高志は眠る前、事件について考えていた。すると、ベッドの隣の亜利沙が尋ねた。
「事件はどう」
「まだ迷路」
「陀仏だったの」
「そう。明日も朝から調べるよ」
「ハーッ、ハーッ、ハーッ」
私は息を切らして山道を歩いていた。手には、血痕が付いている。
―見つかる、見つかるー
「ワォーッ」
遠くで犬の声がした。びくっとしてつまずいて転んだ。そして、ズボンに枝が絡まった。ズボンから糸が出た。
―さっきの人の声、まさか気づいてはいまいー
勢いよく引っ張ると、糸がぴりりと切れて、鋭い痛みとともに膝から血が流れてきた。
―しまった。しかし、先を急がなくてはー
そのまま、立ち上がり、闇へと向かって行った。
がばっと高志は跳ね起きた、隣を見ると、亜利沙が寝ている。ベッド側に置いてあるコップを手に取り、水を呷った。
隣で亜利沙が起きたようだった。
「どうしたの」
と、高志に声をかけてきた。
「夢を見たんだ、夢の中で、僕は人を埋めて、そこから逃げ出しているんだ」
「それで」
「逃げ出しているときに、茂みの中を進んでいるんだ」
「それから」
「犬の遠吠えがして、転んでしまい、ズボンを破いてしまい、血を出すんだ」
「そうしたらどうなったの」
「そこで目が覚めたんだ」
「それ、今回の事件に似てる」
「そうなんだ、なんか事件のことのような」
「転んだ場所、覚えてる」
「うん」
「探してみて」
高志は、水をもう一口啜り、しばし瞑想にふけった。
次の日の朝、高志は現場へと向かっていた。亜利沙には探してみるように言われたが、半信半疑だった。
死体が見つかったところに辿り着いた。そこから、周りを見渡すと、曲がりくねった木があり、昨日の夢を見ているかのような錯覚に襲われた。木の方に進み、しばらく進んでいると、昨日の興奮が蘇ってきた。焦燥感を感じる。
そのまま、進んでいると、夢に出てきた高い木に着いた。高志は息が上がっていた。その時、木の枝が、高志のズボンに引っ掛かり、びりっと音を立てて破れた。しまったと思ったが先を急いだ。
しばらくすると、夢でみた茂みが見つかった。五メートルくらい離れた場所に衣服の切れ端と血痕が見つかった。
事件は、DNA鑑定することで、犯人の目星がついた。
「林田、よくやったな」
同僚が肩を叩いた。
「妻の助言もあって」
「ちぇっ。新婚は羨ましいよな」
笑いながら、同僚は、廊下を進んでいった。
帰ってから、亜利沙に報告した。
「…。そういう訳で、夢で見た所に、服の切れ端と血痕が見つかったんだ」
「そうなの。正夢ね」
「そうなんだ。不思議なこともあるもんだな」
「そういうこともあるものよ。夢の中での捜査ね」
「そうだね」
「そういえばズボン出してみて」
亜利沙は言った。
「やっぱり破れている」
高志はびっくりして答えた。
「どうしてわかったんだい」
「夢の中での捜査よ」
完二〇二二年十月三十一日
夢の中での捜査 @uz610muto
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