第8話 大胆不敵であれ!
「何でお前何だ!?」
エゴンは驚きを隠せなかった。
「俺は…絶対に引かない。俺たちの戦いを…邪魔しようとするやつが…許せない。ただ国を守ろうとしただけなのに…」
そう言うと息を引き取った。
「まさか、こんなことになるとは…」
空軍のボング中佐も来た。
「さすが特殊部隊!素晴らしい対応だった!一瞬で奴らを黙らせたな。」
「ボング中佐、ご無事で良かったです。」
「初めて君が戦っているところを生で見た。素晴らしい!本当に強い!君が率いる部下も素晴らしい!」
「いえ。」
「謙虚だな。次の作戦の時は俺の強さを見せてやるよっ!」
ボング中佐は興奮状態が収まらない様子だった。
「クリーガー大尉、浮かれない顔だな。」
「…人を殺したのは初めてなんです。俺は悪魔を殺して、この国を守って、偉大な将軍になるのが夢なんです。人を殺したいとは…仲間を殺したいとは一回も思ったことがありませんでした。」
「でも君が戦ったおかげ兵卒たちの暴走は止まってで俺は助かった。市民義勇兵たちも助かった。これは誇るべき戦果だよ。」
「たしかに、そうなんですけど…人を殺すのって悪魔を殺すのと何かが違うような気がするんです。」
「でも人だろうが悪魔だろうが、敵ならば殺す。それが軍人ってもんだろ。」
「…」
その時、高級士官を乗せるジープが近くに停車した。
「エゴン!無事だったのね!」
中からエルザが降りてきてエゴンに抱き着いた。
「よくやった、エゴン。」
パットン少将も降りてきた。
「師団長閣下?!」
「今はそのままで良い。」
「ボング中佐、アンデリング空軍基地の基地警備隊が対峙してくれたのは助かった。ありがとう。」
「少将の力になれて幸いです!」
憲兵がやっと駆け付けた。生き残った連中を逮捕し、遺体も運び出した。
「エゴン、お前には今どういう状況か話しておこう。師団の司令部についてきてくれ。」
「了解!」
「エルザ、ありがとう。」
エゴンとパットン少将はジープに乗り込んだ。
「どうした?顔色が悪いな。」
「初めて人を殺しました。しかも、相手は同期で訓練学校を卒業した奴で、死んだ時のそいつの顔が忘れられないんです。」
「なるほど、エゴンは悪魔を殺すことと、人を殺すことは別だと思っているな。」
「はい。」
「俺が子どもの頃は海の向こうにヴィマナ王国以外にも国があってな、その国に攻撃された時に王国を守るのが軍隊だった。軍は人と殺し合っていた。実感がわかないだろ。俺は攻撃してくる外国をぶっ潰して祖国に貢献してやろう!って思って訓練学校で頑張った。今とは大違いだ。だけどな、一つ言えることがある。悪魔を撃退できた時には、エゴンは必ず人を殺すことになる。悪魔を殺す様に人を殺すことになる。覚悟しとけよ。」
エゴンは自分の中でパットン少将の言葉を解釈するために考えた。そしてジープは司令部に到着した。ようやく太陽が西に傾いていた。
「まず知っているとは思うが、公人評議会はこの街を死守するように命令を出した。」
「はい。」
「自分の封土で悪魔にどれ程抵抗できたかで貴族としての地位が変わるからな。ここの領主はさぞかし必死だったろう。だがこの件は解決した。」
「どういうことですか?」
「王政側と裏で取引ができた。命令はそのままだが、王政側はこちらが命令無視をしてもそれを大きくとがめるつもりはないそうだ。」
「一日で説得できるものなんですか?!」
「俺も驚いた。治安維持局のアンデリング支部局長から口頭でその旨を伝えられた。どういうことかわからないがエルザが何かをしてくれた。わかるのはこれだけだ。」
「そうですか…」
「問題はここで戦いたいと言い張る一部の兵卒たちだな。」
「例の新聞のせいで言うこと聞きそうにないですよ。」
「今夜、俺がみんなの前で演説して説得する。」
「わかりました。」
「それでなんだが、言っておくことがある。もし俺が戦死した時、エルザを師団長にしたいと思っている。」
「え…」
「そしてお前はエルザを支えて欲しい。」
「ノア・パットン大佐は…」
「息子のことは気にするな。」
「あいつよりエルザが優秀だ。本当はお前を師団長にしたかったんだが…詳しいことはいつか話そう。」
「…」
「話は以上だ。明日から作戦だろ、今日はゆっくり休め。」
「はい。」
エゴンは司令部を出た。
「何であいつなんだ…」
エゴンは嚙み締めた。
夜になった。パットン少将の演説を聞こうと兵士たちが駐屯地に集まる。エゴンも気になって演説を聞きに行った。そこに一人の士官がパットン少将の元に向かった。エゴンは後を付ける。
「パットン少将、演説を中止して下さい。」
その声は震えていた。
「君は誰だ?」
「アンデリング公、ロビン・ネヴィル大佐の前線代理指揮官、クリス・ネヴィル中佐です。命令に従ってください。父と第四軍団第二師団長、バルデマー・ロイス少将の命令です。」
脅しの文句を言っているが口調はとても弱弱しかった。
「命令に従う義務はない。」
「…」
「エゴン、隠れるな。出てこい。」
エゴンは動揺する。
「すいません。」
「いや丁度良かった。そこでネヴィル中佐と演説を聞いていろ。」
「了解しました!」
ネヴィル中佐は下を向いていた。
「何かあったんですか?」
「父に軍の撤退を阻止するように言われました。できなければ貴族身分を剥奪されると…」
「…」
「僕はもう終わりです…」
兵士たちが整列した。
「これより第四軍団第一師団長、ジョージ・パットン少将より訓示がある。心して聞くように!」
パットン少将がお立ち台で語り始める。
「初めに言っておくことがある。俺はお前らと同じだ。闘争を愛している。戦いの痛みやぶつかり合い、そして勝者を愛している。兵士であれば皆同じだ。負けることを考えるのは兵士に対する冒涜である!絶対にあってはならない!俺は負けるために撤退するのではない。勝つために撤退する。ここで宣言をしたい!ヴィマナ王国陸軍第四軍団第一師団長ジョージ・パットンはヴィマナ川要塞群より西に逃げないことをここに宣言する!要塞を枕に死ぬ覚悟で戦い、必ず反撃して悪魔を皆殺しにする!俺たちは必ず悪魔に勝利する!当たり前だよなぁ!」
「うおおおおおお!!!!!!」
兵卒たちは大盛り上がりだ。
「すごい…僕もあんな風にできたら…」
「ネヴィル中佐、あなたは父親の命令に従ってパットン少将に進言したんですね。」
「はい。」
「自分で正しいと思うことをして下さい。」
「いやしかし…」
「俺は自分の望みは世界を敵に回してでも叶えますよ。」
悪魔の子プラスアルファ!
・ヴィマナ王国の治安維持組織
ヴィマナ王国には主に二つの治安維持のための組織がある。一つは国が管理している組織で、内務省の治安維持局である。この組織はもともと国内における反乱分子を摘発するために設立された組織で、主に反体制派の弾圧を行っている。活動するためにはその土地を治める領主の許可が必要であるが、忠誠派貴族が各領主に圧力をかけて全国的に活動している。二つ目は各封建領主が運営している警察で、通常の犯罪の捜査などを行っている。
・前線代理指揮官
貴族たちは公人評議会に参加するため、王都にいることが多く、自ら軍を率いることは少ない。そのため、王都にいる貴族の代わりに現場で軍を指揮する前線代理指揮官という役職がある。ロビン・ネヴィル大佐は、自らは公人評議会に参加し、自分の次男であるクリス・ネヴィル中佐を前線代理指揮官にしてアンデリングを防衛する自らの軍を任せていた。ちなみにパットン少将は自らが前線に出て、代議員を公人評議会に派遣している。
・ヴィマナ川要塞群
アンデリングの西約120kmにあるヴィマナ川周辺にある要塞群である。たくさんの要塞が出城のように建設されていて、山岳部の終わり目から南部の下流まで続いている。100m巨人が来ようと一撃で仕留められる、かつての戦艦から移植した45.7cm砲12門を中心に大小様々な火砲、地対空ミサイル陣地などあり、ヴィマナ王国で最強の防衛ラインである。反攻作戦のための陣地もある。
悪魔の子 わざお @wazao
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。悪魔の子の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます