バカと怪我
以前、怪我について、文章を書いたことがある。
部活に励んでいた時に同期はよく怪我をしていた(注)。
怪我を長引かせるのは根性主義だ。
「一日休むと二日分後退する」、「気持ちで負けるな」などと言われ続けていると多少身体が痛くても休みますとは言い出しづらい。
耐えきれなくなったところで、ようやく休むわけで、それでは良くなるものも良くならないし、気がつけば怪我の度合いも進んでいよう。
あの異様な場にいたときは、それが当たり前だと思っていたが、あいつらみんなバカである。
朱に染まればムッシュムラムラだっただろうか、バカというインクのなかにずぼっと浸かっていれば、それはバカになるわけで、私も当然バカだった。
過去形で書いたのだが、ここには問題がある。
バカは大抵の場合、高校生あたり、分野によっては小学生あたりで精神的成長がとまるのだ。
実際、たまに会う同期はやっぱりバカである。
これはそんなバカの話である。
先日、一人のバカが気分良く、片手技を決めて駆け抜けた。
「おめぇおめぇおめわー」
一人で激高しているおかしな人か、今まさに絞められようとしている鶏のような奇声をあげながらバカが駆け抜けた先には別の組が稽古をしていた。
バカがけつまずく。
ただし、こいつはバカだからいたがる素振りも見せずに、そのまま続行したのである。
それどころか、件のバカはそのまま別の場所での少年指導にまで向かったのだ。
このバカ、大人同士ではよく片手で竹の棒をぶんまわすが、子ども相手にそれをしたら、ただの虐待である。幸いなことに、バカはバカでもそれくらいの分別はあるバカであった。
ちなみに片手でぶんまわしているときと、基本の構えでは前に出る足が違う。
先程、ぶつけたところに力がかかると鈍い痛みが走ることにバカはようやく気がついたのだ。
気がついたけれど、「病は気から」と言い放って、そのまま続ける。
バカは病と怪我の区別があまりついていない。バカだからである。足を引きずりながら自宅に戻り、指を見て「なんだかえげつない色してるなぁ」とかつぶやいているが、今更つぶやいても、もう遅い。まるで流行りの小説のタイトルのようである。
結局、翌朝、バカは痛みに耐えられなくなるのだ。
病院に行ったバカに医師が放った言葉は、
「レントゲンも撮りましたけど、まぁ、そもそも見るからに骨折してますね」
である。
バカは医師の言葉に絶句する。
絶句の理由は「カルシウム足りてなかったかな」という後悔である。
とことんバカである。
なお、賢明な皆様はすでにお気づきのように、この文章は、そのバカがしたためている。
足、痛い。
注:「無事是名馬なり」、『立蝮帖』
https://kakuyomu.jp/works/16817330658925656472/episodes/16817330664468698588
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