応援考

 男子校だったので、何かしらの大会で異性の声援が飛んでくることはなかった。

 一度、定期戦的なもので、近所の女子校のチアリーダが応援してくれるという僥倖があったが、うちの部はそれを蹴った。

 えらいOBが「神聖な武道場にポンポンなぞけしからん」的なことを言ったからだ。

 心底残念だった。何が神聖な武道場だ。私たちはOBを呪った。


 とはいえ、通常の大会では残念に思うようなことはなかった。

 もともと女子の少ないスポーツであるし、大会に出てくるような学校は大抵が男子校であった。私たちは丸刈りが強制されていない分だけ、他の学校よりましであった。

 

 ある年、小さな大会での出来事である。

 通常ならば補欠にすらなれなかった私が出られたくらいだから、規模の小さなものであったことだけは確かなはずだが、そこらへんはあまり憶えていない。

 当たったチームは共学で、驚愕することに部員らしき女の子たちがたくさんいたのだ。

 私たちは激怒した。メロスのごとく激怒した。必ず、かの 喜色満面なリア充を除かなければならぬと決意した。

 「ちゃらちゃらしやがって! 神聖な武道をなめやがって!」

 先述のOBはこうして人間形成されていったのであろう。人間、非モテをこじらせるとろくな大人にならないのだ。

 私たちは今まさに(ろくでもない)大人の階段を登ろうとしていた。

 

 「がんばってー!」

 黄色い声援が飛ぶ。

 さわやかに応答する相手チームの前で無言で立ち並ぶ私たちの背中からはおそらく黒いオーラが出ていたであろう。

 うちのチームの先鋒(注)が蹲踞をした。

 「いいとこー」

 有効打突には程遠くとも声援が飛ぶ。

 何をしても彼らは女の子に応援されて、自分は応援されない。

 そのことにバカは気がつき、試合を終わらせるのが、この状況を改善する唯一の手段だと感じたようだった。

 猛攻をかけてすぐに試合を終わらせた。

 

 「コロセ」

 次鋒の私の胴をどんと叩きながら、バカが語る。

 正確に表現するならば、やつの目がそう語っていた。すくなくとも、私はそう解釈した。

 もちろん、私も中堅に同じメッセージを伝えた。 


 五勝〇敗、取得本数一〇。

 たしか一本も取らせなかったので完封だったはずだ。

 むしろ、私たちは応援されていたのかもしれない。

 ありがとう、あなたたちの声援に僕たちとってもやる気が出ました。


 注:こいつは、ここで自分の腕にむしゃぶりついて「キスマーク」を作ろうとしたバカである。

 「台湾ラーメン:キスマーク(エロ回)」『御痴走帖』

https://kakuyomu.jp/works/16817330657029655846/episodes/16817330657333818288

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