土曜の深夜、異国にて
先日、使う言語で人格が変わるみたいな話を書いた(注)。
それで思い出したことがある。
飛行機に搭乗したときのことである。
迂闊にもポケットに入れていた百円ライターを空港のセキュリティですべて取り上げられてしまった。
当時の私はわりとヘビースモーカーだったので、すぐに耐えきれなくなった。
飛行機から降りて、ターンテーブルの前でスーツケースを待つ。
タバコが吸いたくて仕方がない。タバコはポケットにあるが、私は炎魔法が使えないから、こいつに火をつけることができない。
ちょうど、タバコをふかしている空港職員がいたので、例の喋り倒し力を発揮し、事情を話して火を借りた。
煙を吸い込んで、ほっとしている私は、壁に目をやる。
「喫煙禁止」と書かれたプレート。
小心者の私はあわてて、タバコをもみ消したのだが、職員はゆうゆうと吸っている。
ちなみに火を貸してくれた職員は荷物のチェックをする保安要員だった。
タグを見せて、「さっきは火、ありがとう」と告げると彼はにっと笑った。
空港を出たのは二三時すぎだっただろうか。
鉄道で北駅という駅を目指す。
安宿がたくさんあるところで、予約してなくてもなんとかなるうえに空港から一本だ。タクシーで市内の宿のある地域まで行くような金もない自分は常に鉄道を使っていた。
深夜、スーツケースをごろごろと引きずりながら、宿をまわる。
三軒目あたりで、空いている部屋を見つける。
ベッドに転がってほっと一息をつくと、タバコを吸いたくなった。
しかし、深夜にやっているコンビニなどという便利なものはない。
チェックインのときに火はあるかとたずねたが、なかった。
このあとの記憶は曖昧だ。
着いたのが土曜深夜、翌日は日曜。
店はあいていなかったはずで、カフェにでも駆け込んでライターを手に入れたのだろうか。
顛末こそはっきりとおぼえてはいないが、夜や休日はかっちりと休む店というのは印象に残ったし、案外どうにかなるものだと思ったことはおぼえている。
日本も大分そうなってきた。
夜は煌々としているよりも暗いほうが良いと思ってしまうのはホラー小説愛好家だからかもしれない。
なんにせよ、今のところはそれほど不便していない。
(注)「言語と性格、そしてチー牛」『立蝮帖』
https://kakuyomu.jp/works/16817330658925656472/episodes/16817330666461271758
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