しおり紐の思い出

 文庫本(に限らないが)にはしばしばしおり紐がついている。

 あれには苦い思い出がある。


 高校生の頃、小説を貸し合う友人がいた。

 同じ部活で、帰り道も途中まで一種だったので、たまに一緒に本屋にも行った。

 

 ある日、私は一冊の文庫本を貸した。

 架空の世界の後宮を舞台にしたその小説の途中には、暗記のために身体に筆で文字を書くみたいな場面があった。

 恥ずかしい話だが、私はそれだけでどきどきしてしまったのだ。まぁ、箸が転んでもドキドキするお年頃だったのだ。

 読み切った後にその部分だけ再読し、また読んでドキドキしたいとその部分にしおり紐をはさんだわけだ。


 オチは皆様の予想の通りでほんの少しのひねりもないものだ。

 私は証拠をばっちり残したまま、友人に本を貸した。

 「なにエロいところにしおり挟んでるんだよ」

 あのときは教室に穴掘って消えてしまいたいくらいに恥ずかしかった。


 どのように解釈するかは読者に開かれているなんて言葉を後年きいた。

 別に誰かを欲情させようとして書いたわけではないだろうが、常に鼻の穴をふくらませていやらしい妄想にふけっている高校生だ。

 一人でどきどきしたっていいじゃん。

 いらない知恵をつけた私は自分の情けない物語消費を開き直ったものだ。


 さて、以前、別の回(注)でも書いたが、たいていの男性は高校生で精神的成長がとまるというのが私の持論だ。

 まさか、この年になって、さらっとした描写でそんなにどきどきするわけないとは思っていたら、たまにあるのだ。

 (なまめかしさが素敵だなと思うことは、よくあるが、そのとき、鼻の穴は膨らませていない)

 最近も、さらっとした描写でなぜかどきどきしながら、鼻の穴を膨らませてしまうことがあった。

 問題はこのサイトでは回ごとのPVがわかるのである。

 妙なところで自意識過剰な私は読み直せないでいる。

 ああ、電子の時代になってもしおり紐が私を縛る。


追記

 これを書いて寝かせている間に、しおり紐の思い出の契機となった小説の作者が鬼籍に入られた。ご冥福をお祈りします。


注:「脱衣(エロ回)」、『立蝮帳』

https://kakuyomu.jp/works/16817330658925656472/episodes/16817330661218828197

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