最強勇者、チート級勇者と出会う
モリワカ
最強勇者、チート級勇者と出会う
この世界で最強と呼ばれる勇者は、世界を破滅に導かんとする魔王と対峙していた。
だが、世界最強の勇者の力をもってしても魔王は強く、勇者は苦戦を強いられていた。
「所詮勇者と言っても、その程度か。 その程度の力で我を滅ぼさんとするなどとたわけたことを抜かすな」
「僕は、この世界を救うために勇者になったんだ! だから、お前に何と言われようと魔王を倒すまでは絶対にくじけない!」
「ほう、心意気だけは認めてやろう。 ただ、思うだけでは変わらないものがあるということを身を知って感じるがいい!!」
魔王は勇者に向けてさらなる攻撃を繰り出す。
勇者は魔王の攻撃を耐えることしかできず、圧倒的に勇者が不利な状況だった。
「もういいだろう。 終わりにしようか」
魔王は勇者との戦いを終わらせんと、とどめをさしにかかる。
勇者は散々魔王の攻撃を受け続けており、攻撃に反応することが出来ない。
あまりの無力さに死を覚悟した、その時だった。
パッリーン!!
魔王城の窓が割れ、その割れた窓から一人の男が入ってきた。
その男はろくな装備もつけておらず、ほとんど身一つで魔王城に特攻してきた。
「貴様ッ! 何者だ!」
「俺が誰かって? 知ってどうする?」
「貴様もろとも、我の手に寄って葬るまでだ」
「そうか。 それは残念だ」
男は静かにそう言いながら、魔王に近付く。
その姿からは、勇者以上に強い何かを感じる。
「貴様! それほどまでの力、どこで手に入れた!?」
「さあな。 知っていたとしても、お前には関係のない話だ」
そして、その男は魔王の顔を片手で叩いた。
少なくとも、勇者にはそう見えた。
だが、魔王は男に叩かれた威力ではあり得ないほど吹っ飛んだ。
「がはッ!?」
魔王と勇者だけが、この場の状況を把握できていなかった。
男は満足した様に、魔王を叩いた手をパンパンと払う。
「き、貴様!! 我に何をした!?」
「何って、叩いただけなんだが?」
「ただの人間に叩かれただけで、我が吹っ飛ぶわけが無かろう!」
「そう怒るなって。 次で完全に仕留めてやるからさ」
そんなことを言うと、男は何かの構えをとる。
勇者から見ても、魔王から見てもその構えは成っていない。
しかし、その男なら魔王を倒すことができるのではないかと勇者は思っていた。
「一瞬だからな? くれぐれも見逃すなよ?」
男はそう言うと、宣言通り一瞬で魔王の間合いに入り、魔王の首を叩き切った。
魔王は声一つあげることなく死んだ。
勇者は一瞬の出来事で、何が起こったのか理解するのに時間が掛かった。
「ふぅ、今回も簡単だったな。 所詮魔王と言ってもこの程度か」
そう言いながら、再び窓から去ろうとする男を勇者は呼び止める。
「あ、あのッ!」
「んん? 何だ?」
特に話すことも考えず、勢いで呼び止めたことを今さらながら後悔する勇者。
ここで話をしなければ、今度はいつ会えるか分からない。
勇者はとっさに思いついたことを男に尋ねる。
「あ、あなたの名前は……?」
「俺の名前? そんな大層な名前してねえよ。 まあ、他の人と区別するためにチート級勇者って呼ばれてるけどな」
「あなたも勇者だったのですか?」
「勇者なんて、俺に取っちゃあただの肩書にしか過ぎねえよ」
「それでも、あの魔王を一瞬で仕留めてしまうなんて、あんなの勇者にしか出来ませんよ!?」
男の言う『チート』というものが勇者にはよく分からなかったが、勇者は男の強さに憧れ共についていくことにした。
男と行動を共にすることで、男の強さの秘密が分かるかもしれないと思ったからだ。
「一緒についていってもいいですか? あなたの強さの秘密が知りたいんです!」
「強さの秘密? 特に俺は何もしてないが、それでもいいのか?」
「はい! 僕はこの世界の勇者なので、どんな敵にも負けないぐらい強くならないといけないんです!」
こうして、勇者はチート持ちの勇者と共に行動するようになった。
しかし、男は勇者に言った通り訓練や鍛錬と言った体を鍛えるようなことは一切せず、ただ遊んでは食べて寝ての繰り返しだった。
こんな生活をしていて、強くなれるのかと勇者は半ば半信半疑になりかける
勇者が男と生活して、しばらくたったある日。
勇者は男に戦いを申し込んだ。
無論、勝てるはずもない。
魔王をいとも簡単に倒した男に、勇者が敵う相手ではないと分かっていた。
それでも、勇者は男の強さの秘密をどうしても知りたかったのだ。
「今から、あなたに勝負を挑みます。 この勝負で僕が勝てば、あなたの強さの秘密を教えてもらいます」
「……そうか。 そこまでして俺の強さの秘密を知りたいのか。 分かった。 その勝負、受けて立とう」
勇者はここまで一緒に戦ってきた聖剣を持ち、対して男はそこらへんに落ちていた木の枝で戦うことになった。
男は武器の類を持っておらず、その上、さすがに勇者相手に本気を出すわけにもいかない
そう思い、男は木の枝で戦うことにした。
「それで戦うつもりですか?」
「ああ、万が一にケガをさせるわけにもいかないからな」
男はそう言いながら、またあの構えを取る。
男独自の構えだ。
勇者も聖剣を構え、男の攻撃に備える。
結果から言うと、その勝負は戦いにすらならなかった。
男の完全勝利で勝負は幕を閉じた。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
「いい運動になったぜ。 ありがとな」
勇者の方は息切れを起こしているにも関わらず、男は一つも息切れをしていなかった。
これこそが才能の違いというもの。
男に完全敗北した勇者は男の本当の強さの秘密を聞くことが出来なかった。
「なあ、本当に俺のこと知りたいのか?」
男がそんなことを言った。
「も、もちろんです! でも、僕は勝負に負けてしまったので聞くことは……」
「じゃあ、今から話すことは俺の独り言だ。 聞くも聞かないもお前の自由だ」
そう言って、男は自分のこれまでについて話し始めた。
「俺はチート持ちだが、この能力は神から授かったものだ。 俺が歩いていると突然車が突っ込んできゃがって。 気がつけば俺の目の前には自らを神と名乗る存在がいた」
くるまというものがどのようか分からない勇者は、少し話についていけてなかったが男が神様にあったということだけは、かろうじて理解できた。
「俺はその神から特別な力をもらった。 それがこの力だ。 ここは俺がもともといた世界とは異なっている」
「つまり、あなたはここではない他の世界から来たということですか?」
「俺の独り言って言った気がするんだが…… まあいい。 要はそういうことだ」
男の強さの秘密は神から授かったもの。
そのことを知った勇者は、最初は信じることが出来なかったものの、男が真剣に話しているのを聞いて本当の話なのだと確信した。
その話を聞いて、勇者はますます男に興味を持つようになった。
勇者はこれまで一人で過ごしてきたため、男と一緒に過ごす毎日は新鮮だった。
途中、魔物に襲われたり危険に、見舞われそうになったことが多々あったが、男が何とかしてくれた。
勇者は男と過ごす毎日が楽しくてしょうがなかった。
勇者が男と共に過ごすようになって、一年が経過した。
その間に勇者は男に何度も勝負を挑んだが、一度も勝つことはなかった。
だが、勇者は確実に強く成長していっていた。
ある日、勇者が街へ出かけているときとある噂を聞いた。
なんと、魔王が復活したのだそう。
これを勇者は好機ととらえることにした。
男と行動を共にし、強くなった力を見せるときが来たと。
勇者は男に魔王を倒しに行くことを告げるため、男の元に戻るのだが男は姿を消していた。
勇者は男を探しに再び街に出るが、どこを探しても男の姿は見当たらない。
しかし、魔王討伐の任務も残っているため勇者は仕方なく魔王討伐に向かった。
再び魔王城につくと、そこには相変わらず魔王が鎮座していた。
あの時と同じ光景が、勇者の前に広がっていた。
「まさか、貴様とまた戦えるとは思ってもいなかったな」
「僕も、お前ともう一度戦うことになるとはな」
二人は互いに見つめあう。
そして、魔王は周りを確認する。
「どうかしたか?」
「いや、今回はあの男はいないのかと思ってな」
「まさか、魔王たるものが一人の人間を怖がるとはな」
「怖がってなどおらぬ! ただ、前の時はろくな抵抗も出来ずにやられてしまったからな。 警戒しているだけだ」
そう言う魔王の声は微かに震えていた。
あの男はヤバイ、強さの次元が違うとその場にいる誰もが感じていた。
「まあ、そんなことはどうでもいい。 今は貴様との決着をつけないとな」
魔王は勇者に向けて剣を構える。
勇者も魔王を討伐するために、全神経を聖剣に集中させる。
「では、始めるとするか」
「そうだな。 この世界の命運がかかっているんだからな」
勇者と魔王は戦いを開始する。
互角の戦いを繰り広げていたが、次第に勇者の方が押されつつあった。
「なぜだ!? なぜ僕はお前に勝てない!?」
「決まってるだろ。 貴様が我より弱いからだ」
魔王は勇者にそう言い放つ。
強さが格段に上がっている。
そんな魔王に勇者は翻弄されつつあった。
「復活してみれば、ちっとも成長していない。 まるで歯ごたえが無いな」
「ま、まだだ。 僕はお前を倒さないといけないんだ!!」
勇者は立ち上がり、魔王に攻撃を仕掛けるが簡単に躱されてしまう。
強くなっていると思っていたのは勇者だけであり、強者の前では無力だということを思い知らされた。
「ふッ 最強と謳われた勇者もここまでか」
魔王は特大の一撃を勇者にお見舞いする。
「あの時と、全く同じじゃないか…… ははは……」
前の時と何も変わっていないことに、思わず勇者の口から笑いが出る。
魔王の渾身の一撃を避ける気力もなく、勇者はただ死を待つのみだった。
勇者が目を閉じ、一撃を食らうのを待っていると、そこに聞き覚えのある声が。
「よう。 待たせたな、勇者」
そこにいたのは、あの男だった。
突然消えては突然現れる、神出鬼没の男が魔王城にやってきていた。
「今までどこにいたんですか!?」
「その話は後で、だ。 今はこの魔王をぶっ飛ばさねえとな」
「き、貴様!! まだ我の邪魔をするというのか!?」
「ああ、邪魔をするさ」
男はケロリとした表情で言った。
そんな男に最初は動揺する魔王だったが、今回ばかりはある作戦があるらしい。
「万が一、仮に貴様がもう一度邪魔をしようとしてきた時のために、ある秘策を用意しておいたのだ!」
魔王が指を鳴らすと、地面から巨大な檻が現れ、あっという間に男を囲んだ。
「ふはははは! その檻は特注品でな。 さすがの貴様でも壊すことは不可能だ!」
「そ、そんな……」
せっかく現れて助けてくれると思っていた勇者はガッカリする。
が、そこで本来の目的を思い出した。
「そうだ。 いつまでもあの人の力に頼ってちゃダメなんだ。 今度こそ、魔王は自分の手で倒さないと!」
勇者は自らを奮い立たせ、立ち上がる。
今ならどんなことだってできる。
あの人が見守ってくれている。
「魔王! 覚えておけ! この僕が、お前を倒す勇者だああああ!!」
勇者は全身全霊をかけて、魔王に聖剣を向け特攻する。
その姿は、誰がどう見ても勇者そのものだった。
「何度かかって来ようと、所詮はこのてい、ど……!?」
魔王は驚きの声を隠せなかった。
先ほどまでの強さとは段違いに勇者は強く成長していた。
「ば、バカな!! まさかこれほどまでに強くなるとは!?」
「これが、僕の力だ!!!!」
勇者が覚醒し、魔王を押しつつある。
さすがの魔王も焦りを感じた。
「くッ…… やむを得ん。 復活してそう時間が経っていないが、使うしかあるまい」
そう言った魔王は、自らの命と引き換えに自爆魔法を放つことにした。
つまり、魔王は自分もろとも勇者も道連れにしようとしている。
「この自爆魔法には勇者も耐えられまい! さあ、我と一緒に死ぬがよい!!」
「そうはさせない!!」
勇者は、魔王が自爆魔法を発動する前に、倒しきろうと一撃一撃に全力を注ぐ。
しかし、あと一歩及ばず魔王は自爆魔法を発動させてしまった。
「さらばだ、勇者よ」
そう言うと、魔王は自らの力を解放し自爆した。
魔王城はもちろん辺り数十メートルにわたって、爆風は轟いた。
「ゴホッ だ、大丈夫か、勇者?」
「な、何とか……」
奇跡的に一命を取り留めた勇者と男は互いを確認しあう。
魔王の危機が去り、世界には平和な日々が戻ってきた。
「そうだ! どこに行っていたんですか? 心配したんですよ?」
「ああ、急に出て行ってすまなかったな。 ちょっと呼ばれて……」
「呼ばれるって、誰に呼ばれたんですか?」
「神様にだよ」
男は急にいなくなったことを謝罪し、どこに行ってたのかを話してくれた。
男が神様に呼ばれたのは、男の持つチート能力の更新に行っていた。
男のチートは、かなり力が強いため、定期的に更新にいかないと体が能力に耐えられなくなる。
「でも、もうそんな心配とはおさらばだ」
「なぜですか?」
「俺、もうチート持ちじゃなくなったから」
「え?」
「さっき神様に呼ばれたとき、外してもらった」
男はそんなことを言い出した。
「な、なんで外しちゃったんですか!?」
「何でって言われても。 まあ、正直に言うとお前を見てチートなしの生活も悪くないのかもって思ってな」
「そう、ですか……」
男を変えたのは自分。
そう感じた勇者は少し照れ臭くなる。
「ということで、今はお前より弱くなっちまったわけだ」
「じゃあ、僕があなたを強くさせてあげます! 僕と並ぶぐらい強くなってくださいよ?」
「お? 言うじゃんか~。 分かってるって」
かつて自分より強かった人が、自分より弱くなって教えてあげることになるとは何とも新鮮な感じがする。
それから男は勇者の特訓でメキメキと成長していった。
その後、二人が英雄と呼ばれる存在になったのは、また別のお話。
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