大文字伝子が行く144

クライングフリーマン

えだは

 ====== この物語はあくまでもフィクションです =========

 ============== 主な登場人物 ================

 大文字伝子・・・主人公。翻訳家。DDリーダー。EITOではアンバサダーまたは行動隊長と呼ばれている。。

 大文字学・・・伝子の、大学翻訳部の3年後輩。伝子の婿養子。小説家。EITOのアナザー・インテリジェンスと呼ばれている。

 一ノ瀬(橘)なぎさ一等陸佐・・・ある事件をきっかけにEITOに参加。伝子を「おねえさま」と呼んでいる。皆には「一佐」または副隊長と呼ばれている。

 久保田(渡辺)あつこ警視・・・ある事件をきっかけにEITOに参加。伝子を「おねえさま」と呼んでいる。皆には「警視」と呼ばれている。

 愛宕(白藤)みちる警部補・・・ある事件をきっかけにEITOに参加。伝子を「おねえさま」と呼んでいる。

 金森和子二曹・・・空自からのEITO出向。

 増田はるか三等海尉・・・海自からのEITO出向。

 大町恵津子一曹・・・陸自からのEITO出向。

 田坂ちえみ一曹・・・陸自からのEITO出向。

 新町あかり巡査・・・みちるの後輩。丸髷署からの出向。

 結城たまき警部・・・警視庁捜査一課からの出向。

 日向さやか(ひなたさやか)一佐・・空自からのEITO出向。

 斉藤理事官・・・EITO司令官。

 馬場力(ちから)3等空佐・・・空自からのEITO出向。

 小坂雅巡査・・・元高速エリア署勤務。警視庁から出向。

 下條梅子巡査・・・元高島署勤務。警視庁から出向。

 斉藤理事官・・・EITO司令官。EITO創設者。

 夏目警視正・・・EITO副司令官。夏目リサーチを経営している。EITO副司令官。

 ジョーンズ・・・オスプレイの操縦士。

 愛宕寛治警部・・・伝子の中学の書道部の後輩。丸髷警察署生活安全2課勤務。

 橋爪警部補・・・丸髷警察署生活安全2課勤務。

 須藤医官・・・陸自からのEITO出向の医官。

 高坂看護官・・・陸自からのEITO出向の看護官。

 山村編集長・・・みゆき出版編集長。伝子と高遠の仕事を担当している。

 大文字綾子・・・伝子の母。介護士。伝子に時々「クソババア」言われる。学を「婿殿」と呼ぶ。

 藤井康子・・・伝子達の隣人。料理教室を開いている。

 大蔵太蔵(おおくらたいぞう)・・・EITOシステム部長。



 ==EITOとは、Emergency Information Against Terrorism Organizationを指す==

 ==エマージェンシーガールズとは、女性だけのEITO本部の精鋭部隊である。==


 午前9時。EITO本部。会議室。

 「みんな、ご苦労だった。疲れは取れたかな?葬儀があって、そんなに取れなかったか。まずは、パウダースノウは倒せた。おめでとう。須藤先生。お知り合いでしたか。」

 「うん。副島邸に行ったのは、監禁誘拐があったかも知れないと聞いたからだが、あんな再開をするとはな。もう大昔の話だ。同じ頃、医者と看護師になった私たちは、あんまり仲がいいから、レズか?と言われたこともあったが、本人達は『同じ釜の飯を食った仲』、戦友の積もりでいた。

 恋人が出来たようだから、喜んでいたが、相手は思想家だった。私は危険を感じて説諭したが、聞かなかった。若いと血気に走りやすい。馬場、耳が痛いか?」

馬場と金森は俯いて、顔を真っ赤にしている・・・と言いたいが、2人はいない。新婚旅行に行ったからだ。

 「と、言って困らせてやりたいが、新婚旅行だったな。まあいい。兎に角、横田は、男を追って那珂国に渡った。まさかマフィアの幹になっていたとはな。あの殺人予告の新聞広告は、それ自体がヒントになっていたかも知れないな、結果論だが。どうだ、大文字の亭主、いや、婿。」

 須藤がマルチディスプレイに向かうと、画面の向こうの高遠が言った。「ご明察ですね、先生。他の幹は今時のツールを使っていますからね。幹が若くない人だと示していたのかも知れない。」

 「とにかく、再会してすぐに死んだ。大文字。ポケットの中でうった注射は『自白剤』じゃなかった。筋肉弛緩剤だったよ。あいつは、末期がんだった。」

 須藤の言葉に、「あの殺人予告リストは、人々に不安や恐怖を与える為に並べたものじゃない。時間稼ぎだったんだ。最初の、工場経営者殺しはインパクトが強かったからな。」と、伝子は呟いた。

 そして、「そうだ、あつこ。捕まえた『枝』は?」とあつこに尋ねた。

 「まだ、口を割りません、おねえさま。でも、時間の問題だとは思います。あいつらは、パウダースノウの手下じゃない。中道の、『えだは会』の仲間だったんでしょう。」

 「おねえさま。はっきり分かっているのは、工場経営者殺しとスイミングクラブ経営者殺しは、パウダースノウの手下がやったことです。中道は、なるべく殺しはやりたくなかったんじゃないでしょうか?」と、日向が言った。

 「私も、さやかに賛成です、おねえさま。議員会館の犠牲者は、軽傷者ばかりです。SATが点検に回った時間は、そんなになかった筈です。」と、なぎさは同意した。

 「発煙筒は自作自演って、ことですね、おねえちゃま。」と、あかりが言った。

 「あ!!」と増田が声を上げた。

 「どうした、増田。大きな声を出して。」と、理事官が問いただした。

 「新しい敵、オクトパスが猶予期間として、1ヶ月何もしない、って言ってましたよね。私、何となくアメリカの大統領選挙のことを思って納得していたんですけど、日本とアメリカの違いって、ありますよね。」増田が言ったことを理事官は、すぐに理解出来なかった。

 「どういうことか、見当がついているって顔をしてるな、ジョーンズ。」と、夏目は言った。

 「アメリカの大統領は、就任後、ご褒美として一ヶ月は悪口を控えるって習慣があります。共和党も民主党も、どちらの政党が政権とっても、その習慣を継続しています。それを、新婚旅行みたいに『ハネムーン期間』と呼んでいます。アメリカでは、新婚旅行に1ヶ月くらいかけるのは当たり前なんです。日本の場合はどうですかね。新婚旅行はもっと短いと聞いていますが。」

 「つまり、増田、ジョーンズ。金森達の新婚旅行は長すぎるということか。オクトパスは何らかの勘違いで1ヶ月の猶予を与えたが、本当の日本の習慣からすれば・・・。」

 「1週間から2週間ですよね、おねえさま。」と、今度はみちるが発言した。

 「途中で、訂正するかどうかはオクトパス次第だけど、基本警戒期間は2週間くらいまでにして、以降は重要警戒期間にしてはどうでしょうか?」と高遠が画面の向こうから言った。

 「それと、オクトパスも警戒が必要ですが、中道・・・氏が率いていたのは、ブラックスニーカー迄の枝葉じゃないんでしょうか?」

「詰まり、中道のお母さんを殺した奴は、まだ捕まっていないから、注意が必要ってことね、高遠さん。」と、あつこが言った。

 「流石だね。」と高遠が言うと、「期間を圧縮して、警護の班分けをしてくれ、なぎさ。」と、伝子は言った。

「了解しました。」と、なぎさは頷いた。

 午前10時半。女子トイレ。

 奥で、あかりが下條達を説教している。「どうした、新町。」

 結城の声に、あかりは説教を止めた。「指導熱心なのは分かる。でも、追い詰めたら、身動き出来なくなる。陸自の事件を聞いたか?」「いえ。」

 用を足して出てきた大町が言った。「陸自の射撃訓練の時、逆ギレした候補生が撃っちゃったのよ、教官を。他の隊員も。別の班の隊員が取り押さえたけど、怪我で済まなかったから、表沙汰になっちゃった。大変な騒ぎよ。」

 「詰まり、下條達を追い詰めると、あんたも撃たれて死ぬよ。まあ、警視が黙ってないけどね。」と結城が言うと、「私はもっと会議で発言しろって葉っぱかけてただけですけど、自重します。」

 トイレから結城達が出てくると、あつこは手刀を切って拝み、ウインクした。

 EITOは自衛官と警察官の現役またはOBの混成チームである。自衛官と警察官は元々の組織が違うせいか、意外とトラブルは少ない。しかし、元々の組織内では、トラブルは起こりうる。

 そこで、なぎさとあつこは、年功序列を基準にトラブルを回避させている。

 大文字伝子という大隊長には、頼もしい副隊長が2人いるのである。

 帰宅前に、伝子は、あつこからの報告を受けた。

 「愛してるよ、あつこ。」伝子の、この冗談が、あつこは好きだった。一瞬でも『独り占め』出来た錯覚にひとり酔いしれる。LBGTのLではない。だが、『ぎしまい』の複雑な絆だった。

 伝子は、なぎさにもこの儀式は行っていた。だが、この2人だけだった。それだけ、2人を信頼しているのだ。 

 午後1時。伝子のマンション。

 伝子は、会議のことと、トイレの一件を話した。

 「あかりちゃんも、大人になりつつあるってことだね。マッサージしましょうか?大隊長。」「よろしく頼む。高遠準隊員。」

 「へえ。」と言いながら、綾子が入って来た。

 「婿殿。私もマッサージ。」「一回5000円。」「お金取るの?」「当たり前だ。」

 「ケチ。」「黙れ、クソババア。」

 拍手が聞こえた。藤井だった。「毎日楽しいわあ。ただで、コントが見えるんだもの。綾子さん、この間ね。3人で雑魚寝したの。」「3P?」「そう。楽しかった。」

 「勘弁して下さい。」高遠は、とうとう土下座した。

 「藤井さんも人が悪いね。悪質な冗談に降参しちゃったわよ、高遠ちゃん。ああ、高遠ちゃん。チャイム鳴らないわよ。」

 編集長山村は、一旦外に出てチャイムを押した。鳴らない。

 高遠は、冷蔵庫の奥にある、プラグを確認した。

 「事件だな。愛宕を呼ぶか?」「はい。」

 伝子達が振り返ると、愛宕夫妻が立っていた。

 「おねえさま。死体でも見つかった?」とみちるが言い、「いや、死体って言うか死骸、かな。」と高遠が、プラグを外して、全容を見せた。

 ゴキブリが真っ黒になってチャイム親機のプラグに挟まっていた。高遠が、ティッシュでゴキブリを挟み、台所用ポリ袋に入れ、ゴミ箱に入れた。

 伝子が、延長ケーブルに繋いだドライヤーを持って来た。

 高遠は、プラグに『カケ』がないことを確認して、ウェットティッシュで吹き、雑巾で拭いた。

 伝子は、プラグにドライヤーをかけた。

 そして、プラグをコンセントに挿した。「へんしゅう・・・みちる。チャイム押してみて。」

 みちるはチャイムを押したが、鳴らない。「やっぱり。ショートしたんだな。配線し直さないとダメだ。」

 高遠は、EITO営繕部に電話をした。

 「大文字くぅん。普通、電気屋さんじゃない?」「ウチは全部EITO任せ。ブレイカーが落ちなかったから、故障に気づいて無かった。ありがとう、編集長。」

「何で落ちなかったのかしら?」「それはね、みちる。別電源だから。それで、通常の電気屋さんでは困るのよ。」

 伝子とみちるの会話に、「あっ!」と言って藤井が自分の部屋に帰った。

 「何?」「電話を終えた高遠が、「コンセントプラグが何かの拍子に緩くなり、多分、ごきぶりが感電死した。実は、EITO関連の配線工事した時、別電源にしたんだ。ブレイカーは実は藤井さんチにある。監視システム用の電源から引いてあるんだ、見た目は分からないけど。」

 高遠の説明に、愛宕は「先輩のウチと藤井さんのウチは一心同体、ですか。」と感心した。

 「それで、雑魚寝も出来るのね。」と、綾子が感心した。

藤井が戻ってきた。首を横に振った。

 「EITOでは、把握しているから、隣にある監視システムも点検してくれるさ。」と伝子は平然と言った。

 リビングで皆に高遠がお茶を配っていると、EITOの職員が数名と、大蔵がやって来た。

 「大蔵さんまで?」「ああ、設計はしたけど、お任せのままだったから、随行させて貰ったよ。これ、今回正式採用になった、銀流ガン。パチンコ玉の銃みたいだね。」と、大蔵は伝子に銃を渡した。

 伝子は、盛んに打つ真似をした。「先日、陸自の訓練中に事件が起こったから、EITOとしては、今まで以上に武器の開発に知恵がいる。パチンコ玉の製作工程で手を加えてあって、パチンコ玉程は堅くは無い。だが、敵の動きを封じるのは、シューターよりは効果があるかも知れない。」

  一通りの点検を確認してから、営繕部は帰り、山村がチャイムを押した。

  チャイムが、今まで聞いたことのない音で鳴った。山村は、もう一度押してみた。 

 今度はまた違う音だ。「押す度に音が変わるんですか?」と、高遠は尋ねた。

 「EITO本部では、既に入り口のチャイムに利用している。チャイムは業者しか利用しないけどね。」「業者だけ?」「あ、申し遅れました。EITO本部の、あらゆるシステム担当の大蔵です。」

 山村は大蔵と名刺交換をした。「DDバッジ保有者は、自動的に検知しています。」

 「編集長はDDバッジ持っているから、本部に自由に入れますよ。」と、高遠は言った。

 DDバッジとは、最初何となく高遠が付けた『DD』が元になった名前で、以前は陸自が開発して陸自バッジと呼ばれていた。

 DDは、高遠は最近解釈を変えて『大文字伝子関係者』としている。

 その時、愛宕のスマホにテレビ電話が入った。

 「警部。お休みの所、申し訳ありません。感電死殺人事件発生です。EITOにも出動要請が行くと思います。」橋爪警部補からだった。

 「了解しました。」電話を切ると、愛宕はみちるを促し、出て行った。

 「みちるちゃん、すっかり立ち直ったわね。」と、編集長は言った。

 みちるが、流産経験者だからだ。

 「編集長。何か用事が?」と、伝子が言うと、「あらやだ。私としたことが。はい、これ。」と山村は藤井と高遠に小冊子を渡した。

 「藤井さんの手引きが本になりました。『レシピの作り方』よ」「編集長のお陰で、『物書き』になっちゃった。」

 藤井が舌を出すと、綾子と伝子と高遠は祝福した。「おめでとうございます!」

 「今度、高遠さんに抱かれた話、書こうかしら?」「小説、ならね。」と、高遠は混ぜっ返した。

 オスプレイの音が聞こえてきた。同時に、EITO用のPCも起動した。

 理事官の簡単な説明があった。

 高遠は、台所に行き、ベランダの準備をした。伝子は素早く着替えを取りに行き、ベランダから空に消えた。

 高遠にとってはもう、日常だった。ベランダに。綾子が持って来た洗濯物を干した。

 山村編集長と大蔵と藤井は帰って行った。

 ―完―



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