第18話 決着とその後



『-システム解放リリース魔力炉解放ファーネス


そう唱えた俺の全身を黄金の魔力が包み込む。


『-システム解放リリース-』とは、代償を伴う代わりに絶大な力を発揮する、特定のキャラのみが使える技である。


ルキヤの『魔力炉解放ファーネス』は、自身の体内の魔力に干渉し、それを極限まで圧縮することにより空きスペースを作り、そこに大気中の魔力を詰め込むことによって強制的に己の体を限界突破リミットブレイクさせる技。ドーピングのようなものだ。これを使えば、身体強化は通常の何倍もの効果を発揮し、自身の干渉領域も広くなる。全身のリミッターを解除してるので、脳も覚醒し普段なら行使できないような魔法すらも行使可能にする。


この力の代償は体への負荷だ。限界を超えた力を使えば当然体はズタボロになる。脳にも負荷をかけてるが故に、使いすぎると廃人になる恐れすらある。システム限界を超える力とはそういうものなのだ。



限界を超えた俺は既にこの場の全てを掌握していた。目を閉じていても、一切のラグ無く全てが見える。心臓の脈打つ速さが普段の何倍も速い。なるべく早く決着をつけるべきだろう。


俺は目の前のジャヴァウォッグ獲物を見据え、唱える。



「聖火混合神級魔法『神槍グングニル』」


俺が使ったのは一つの槍を生み出す魔法。その槍は、北欧神話の主神にして戦争と死の神オーディンが使っていた神槍。現れたそれは、聖属性と火属性の魔力を宿しており、近づくことすら出来ぬほどの気を放っている紛うことなき本物。


召喚には成功したものの、当然人間である俺に神の槍を持つ資格はない。ならどうすればいい?


答えは単純。一時的に神になればいい。



神体強化しんたいきょうか-オーディン-』



唱えた瞬間、周囲の黄金の魔力がさらに輝きを増し、体の芯から無限に力が湧いてくる。直後襲いかかる魔力欠乏症の症状。それは数秒で収まるが、すぐに再発しそしてすぐに収まる。この魔法は体内に詰め込んだ魔力を全て身体強化に使い、魔力が空になると即座に大気中から回収し、再び全てを消費する。これの繰り返しをすることで、俺の体は絶えず強化されていき、魔力欠乏症が発症したり回復したりを続けている。


体への負荷も当然大きい。脳にも多大な負荷がかかっているし、何より魔力欠乏症の症状が次第に大きくなっていき、今では数キロの距離を全力で走り続けているような感覚で、息苦しいなんてレベルでは無い。


(まだまだ未熟な俺には大きすぎる力だ・・・さっさとケリをつけねぇとまずいか。)


神槍グングニルが放つ気を全身に受けながらその柄を握る。焼けるような痛みを感じるが問題は無い。


この槍を脅威に思ったのか、ジャヴァウォックがこちらに向かって飛来し、その腕を振り下ろす。


俺はそれを槍を持っていない方の手で易々と受け止める。


「ふふっ。どうしてだろうな。先程まであれほど恐ろしいと感じていたが、今の俺はちっとも恐怖を感じていない。」


受け止められるという予想外の結果に、さすがのジャヴァウォッグも後退し体勢を立て直す。


「なるほど、これが力を持つ者の視点か。確かにこれ程の差があれば、世の悪役どもが慢心するのも無理は無い。他人が同じような力を持っている可能性を考えずに、ね。まぁ、この世界には俺以外にも主人公力を持つ者が居るし、慢心するつもりはないけど。ありがとう、お前のおかげで改めて分かったよ。この世界がクソゲーであることを。それじゃあ、決着をつけようか。」


俺の言葉を理解しているのかは分からないが、ジャヴァウォックが再び動き出す。俺は奴の姿を見据え、槍を持った腕を引き、その腕に神体強化を集中させて放つ。


必中必殺の槍デッドリィスピアー


擬似的にオーディンとなった俺が放つ神槍グングニル。それは紛うことなき神の一撃。一瞬でジャヴァウォックを貫き、その体を聖なる炎で焼き尽くす。やがて完全に消滅し、俺の勝利が決定した。


喜ぶ間もなく、俺は膝から崩れ落ちる。いつの間にか神体強化が切れており、激痛だけが残る。脳にも相当なダメージを受けて、糸を切られた操り人形マリオネットのように崩れ落ちる自分の体を支えようとすることすら考えられない。


いや、それよりも両腕の負傷の方が酷い。ジャヴァウォックの一撃を受けた左腕も折れているが、槍を放った右腕の骨は木っ端微塵だろう。


ただでさえ強制的な限界突破により負荷がかかっているというのに、神体強化を右腕に全て集中させ、神槍グングニルを全力で投げ飛ばしたのだ。当然耐えられるわけがない。


しかも、神槍の聖なる炎によって焼かれてしまっている。これは同じ神の力でないと完全に再生するのは不可能だろう。治せる者に2人程心当たりがあるが、に頼むのは酷だろうし、主人公サイドのとはなるべく関わらないようにしたい。方法は追い追い考えるとしよう。そんなことよりまずは・・・


「大丈夫?ルキヤお兄ちゃん」


こちらを覗き込んでくるアリスに、俺は笑って答える。


「はは、もう限界だよ。」


目の前に無防備のダンジョンマスターがいるが、今の俺は全く体を動かせない。いや、動かせたとしても、彼女の後ろに居るアジ・ダハーカに殺されるだろう。オーディンの体だったとしてもまだ未熟で全ての力を扱いきれない俺ではあれには勝てないだろう。それほど別次元の存在なのだ、あれは。


「じゃあ、今日は終わりにしよっか」


「えっ?」

アリスの口から飛び出た予想外の言葉。アリスはすぐに笑顔を作って


「今日は本当に楽しかったよ♪また一緒に遊ぼうね!絶対に、だよ。バイバイ!」



彼女の言葉に一瞬背筋が凍ったが、すぐさま視界に写っている景色が変わり、元々居た林に戻ってきた。


「ルキヤ、無事か!?」


見たこともないほど慌ててグラディウス師匠が駆け寄ってくる。


「すまない!お前を危険に晒して、守るべきお前に守られるとは・・・」


俺を強く抱きとめ涙を流す師匠。俺も緊張の糸が切れ、涙が出そうになる。


(泣いてやるものか。俺は絶対にリベンジしてやる。魔王は主人公に譲ってやるが、ここは絶対に俺がもらう!)


この日、俺の最終目標が決まった。これにより、ゲームのシナリオは大幅に変わっていくのだが、それが良いことなのか悪いことなのかは、現時点では誰にも分からない。






あの後、師匠が俺を公爵邸まで運び、案の定大騒ぎになり、アイゼナは宮廷医師まで連れてきてくれた。左腕は治ったが、やはり右腕は治らなかった。


師匠は、国王と冒険者ギルド長に新たなSSS級ダンジョンの現界を伝え、その超貴重な情報を命懸けで持ってきた俺と師匠は表彰されることになった。利き腕が使えなくなったこともあり、グラディウス師匠との稽古は打ち切りになった。それで空いた時間は、アイゼナ主催のお茶会に参加し他家の令嬢との交流を深めたり、家族との時間を増やしたり、スラム街で青年を保護し執事にしたりと、案外充実していた。


その二ヶ月後に学園の入学試験があったが、特に詳しく語ることもないだろう。筆記試験はこの世界についてだったが、ゲーム内とはいえ俺はこの世界を一度救っているのだ。俺以上に詳しい奴など、世界でもほんのひと握りだろう。


実技試験は王国騎士団の兵士との模擬戦だったが、ジャヴァウォックを倒しレベルが70を超えた俺に一兵士が勝てるわけもなく、未だ動かすことの出来ない右腕を使わず、片手で圧倒してやった。


不測の事態が起きぬ限り、首席入学になる。それによりシナリオは多少変化するだろうが構わない。既に幻想図書館最大のイレギュラーが生じている以上、これは俺の責任である。だから俺は、ありとあらゆるクソゲー要素理不尽を乗り越え、このゲームをクリアするこの世界を救う。そう決めたんだ。



___________

《作者コメント》

ここで第一章は終わりです!明日、閑話と登場人物紹介をし、明後日から第二章の学園入学編を始める予定です!ここまで自分が読みたいと思ったものを書き続けてきましたが、楽しんでいただけたのなら幸いです。

そして、フォロワーも500人を超え、PVも2万をこえました。本当にありがとうございます!今後もよろしくお願いします!

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