第17話 レベルの差



目の前に降り立ったのはおとぎ話の化け物、ジャヴァウォック。幸いなのは、この場で一番強いアジ・ダハーカがアリスを背に乗せ、守りに徹していることだろう。


しかし、それでも俺のレベルは65、師匠は80。レベル100のジャヴァウォックには遠く及ばない。戦う覚悟は決めたが、それでも全身の震えが止まらない。生物としての格の違いを思い知らされる。


こちらの様子を伺うようにゆったりと動き出したジャヴァウォック。


(くそ、シャキッとしろ!今ここでやるしかないんだ!)


両手で自分の頬を叩き、身体強化をかけ直す。


「ルキヤ!お前は魔法で支援しろ!前に出るでないぞ!」


そう言って迎え撃つ師匠。空中にいるジャヴァウォックに向けて大きく跳躍し、全力の一撃を放つ・・・が、それは奴の薄皮一枚切る程度のダメージしか与えられなかった。すぐさまジャヴァウォックが反撃しようと動き出す。


火球連射ラピッドファイヤー


ジャヴァウォックの周りに小さな魔法陣が大量に現れ、そこからジャヴァウォックに向けて火球が降り注ぐ。当然ダメージは全く与えられないが、師匠の離脱をアシストするためのものだからそれでいい。


無事に師匠はこちらまで退避できたが、すぐに攻撃が迫る。けたたましい風きり音とともに巨大な腕が振り下ろされた。それを師匠と共に受け止めるが、一瞬でも気を抜けば意識ごと持っていかれそうなほどの威力の攻撃を、師匠のおかげでなんとか受け切ることに成功する。


そしてそこから攻撃しては離脱し防御をする、ヒットアンドアウェイを繰り返していた。言葉で表すのは簡単だが、一つのミス・一瞬の気の緩みが命取りになる極限の状態でギリギリ防ぎきっている。


しかしレベル100を相手にするには、俺たちは弱すぎた。ジャヴァウォックは師匠の攻撃を無視して俺の方に一直線に向かってくる。凄まじい勢いで迫り来る異形の化け物に、俺は恐怖で動けなかった。


師匠が慌てて方向転換し、再び攻撃を仕掛けようとするが、ジャヴァウォックは嘲笑うかのように師匠を弾き飛ばし、そのまま俺に向かって突進してきた。


「ぐっ!」


ぶつかった瞬間の痛みは無かった。一瞬の浮遊感を感じたときにはもう壁まで弾き飛ばされていた。


(これはノックバック攻撃!?くっ、全身が痺れる。威力がおかしいだろ。熱い・・・血が抜ける・・・)


ドクン、ドクン


心臓の鼓動がいつもの何倍も大きく聞こえる。そして鼓動はだんだん遅くなっていき―――やがて完全に停止した。



直後、俺の全身よりも大きな魔法陣が俺を囲み、緑色の魔力が集まってくる。





条件付き超級魔法『再生リ・バース





集まった緑色の魔力が俺を包み込み、受けた傷が次第に治っていく。


この魔法は、通常なら膨大な魔力を消費して発動する超級魔法を、事前に魔法陣を構築しておき、条件付きで自動発動させる、俺のスキル『干渉インターフェア』の奥の手。条件は『心臓の停止』と『一日一度のみ』というもの。これがルキヤがチートキャラと言われるようになった理由の一つ。実際に心臓が止まったのは今回が初めてだったが、上手く起動してくれたようだ。


自分の体が完全に回復したのを確認して、改めて周囲を見回す。すると、師匠とジャヴァウォックが交戦を続けていた。さすが師匠、なんとか衝撃を受け流していたようだ。だが、状況はあまり良くない。師匠の攻撃はほとんどダメージを与えられていないが、ジャヴァウォックは攻撃は確実に師匠を追い詰めている。


(まずいな、このままでは二人ともやられてしまう。を使うか?いや、既に『再生』を使ってしまっている。奴を倒しても俺が生き残る可能性は低い・・・・・ふっ、何を悩んでるんだ俺は。俺が憧れたのは、こんなところで怖気付くような粗悪チープなものじゃない。いつでも気高く信念を貫き続ける、最高の『悪』だ!師匠の為では無い。俺は、俺自身が信じるものの為に、おのが命を削る!・・・耐えてくれよ、俺の体。)



「やってやる、ジャヴァウォッグてめぇを倒して、生き残ってみせるさ。真価を示せ、『干渉チートスキル』!」


『-システム解放リリース魔力炉解放ファーネス


俺の全身を黄金の魔力が包み込む。



さぁ、反撃の第三ラウンドを始めようか。




___________

《作者コメント》

最後の方駆け足になってしまいましたが、章分けするなら次話が第一章のクライマックスになると思います!


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